因習村ツッコミを入れてはいけない雛祭り24時〜生き雛の男の娘は……

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

お前……あの桃の花の枝折ったんか!?

 ――ポロッ!


「……折れちゃった」


 四月二日。

 十歳の春休み真っ只中。

 お婆ちゃんが住む田舎に遊びに来ていた夕凪友樹ゆうなぎともきは、神社の御神木として祀られている桃の木の枝を折ってしまった。

 御神木で木登りする罰当たりな行為。

 これが閉鎖的な村の因習を呼び起こしてしまう。


〜〜〜◎〜〜〜◉〜〜〜


「友樹……お前……あの桃の花の枝折ったんか!?」


「お母さんどうもそうみたいなの。ほら友樹謝りなさい! 村の大事な御神木で木登りなんかして」


「ごめんなさい」


 村の中央にある巨大な藁葺き屋根の家。

 村長をしている友樹の祖母は皺だらけ顔でかっと目を開き、友樹を見ていた。

 その周りに村の長老衆が友樹を取り囲むように並んでいる。

 皆一様に御神木を傷つけた友樹に怒りの視線を……向けていなかった。

 むしろ憐れむような同情の色が濃い。


「よりにもよって前日に」

「前日じゃからであろう」

「誘われたか」

「憐れじゃ」

「村の子供はこの時期の桃の木には怖がって近づかんからな」

「お内裏様が贄を求めておるのだろう」


 皆口々に不穏なことを言う。

 異様な雰囲気が漂う中、村長が口を開いた。


「友樹よ。折った桃の木の枝を見せてくれるか」


「えっ……あ……はい」


 差し出した枝は美しい桃の花が咲き乱れる小枝。

 まだ柔らかい。

 小枝と呼ぶにも若く緑眩い新芽だった。

 折るよりむしるの表現の方が正しいだろう。

 祖母は桃の花がほころぶ小枝の根元を見ながらが首を横に振った。


「やはり綺麗な枝じゃ。枝落としが行われた。友樹は選ばれたのであろう」


「選ばれた?」


「力任せに折ったのであれば枝は傷つき分かれた痕が残る。この小枝には傷ついた痕がない。友樹も折ろうとしたわけではあるまい?」


「う……うん。木登りしていてあまりに綺麗だったから手を伸ばしただけ」


「御神木に登るのがよくない。しかしそれもお内裏様に誘われたゆえであろう」


 怒られるのだと思っていたのに、集まるのは非難ではなく憐れみ。

 友樹が困惑していると、祖母はバシンッと柏手を打った。


「これより雛祭りの開催を宣言する!」


 祖母の宣言に友樹は理解できなかった。

 今日は四月二日。

 雛祭りは三月三日なのに。

 同じことを思ったのか友樹の母親がたずねた。


「お母さん。雛祭りは先月でしょ?」


「暦が違う。雛祭りは桃の節句。それなのに桃の花が咲くのは四月頃。本来の雛祭りは旧暦で三月三日。つまり明日の四月三日に行われるものじゃ」


「それはわかるけど……うちの村って旧暦を重んじる風習なんかあったっけ? 私が小さい頃は普通に三月三日に雛祭りを祝っていたはずだけど」


「……旧暦の雛祭りは因習じゃよ。誰もが忘れたい。でも無視もできない厄介な」


「まさか私の生まれ故郷が因習村!? 自然しかないところだと思っていたのに!」


 友樹の隣で母親が驚きの声をあげた。

 どこか喜んでいるような気もする。


「コホン……御神木の桃の花は昔から不老長寿と邪気祓いでこの村を守っている。けれど神社に祀られておるお内裏様が悪戯好きなのじゃ」


「うわっ……あの神社に祀られているお内裏様って厄神だったんだ」


「さよう。わざと桃の木の枝を意中の子どもの前で落とし、村の守りに綻びを作る。無視すれば村に疫病を流行らせる。それが枝落としの儀じゃ」


「つまり友樹は枝を折ったのではなく、お内裏様の生贄に選ばれたってことよね? 我が息子大ピンチ!」


「お母さん軽すぎない!? 身を呈して息子を庇おうとするとか、今すぐ村を脱出するとかないの!?」


 祖母と母親の軽妙なやりとり。

 というかあまりの母親の軽さに息子として驚きを禁じえない。

 指摘された母親はきょとんとする。

 そのあと表情を深刻そうに作り直して、神妙な声を出した。


「無理よ……友樹。この村は因習村なの。逆らえないわ。逃げ出そうとしたら仮面をつけた屈強な若者集に取り押さえられて、地下の座敷牢に閉じ込められるのがオチよ」


「この村に若者衆はいないよ! おじいちゃんおばあちゃんばかりじゃん!」


「……失礼な。事実じゃが。あと地下の座敷牢もないわい」


 友樹の母親はオカルトマニア。

 生まれ故郷に実は知らない因習があると知り、テンションがあがっているのがわかる。


「それに逃げ出したら村で疫病が流行るって」


「今も病は蔓延しているよ。いつも身体の節々が痛いって! 完全に健康な高齢者なんてどこにいるの!?」


「確かに!」


「確かに、じゃないわこのアホ娘! もうよい! 最後の慈悲の心も消え去った! 友樹を拘束せよ!」


「なんでっ!?」


 口は災いのもと。

 友樹は長老衆に捕らえられてしまう。

 ちなみに母親は率先して拘束する側だった。


「友樹にはお雛様になってもらう」


「お雛様って……僕男の子だけど」


「つまり男の娘になってもらうと」


 母親の言葉は無視した。

 敵である。


「この村には古くから男児は元服するまで、女の子として育てる因習もあってな。旧暦のお雛様は男児のためでもある」


「ありがちなやつ! お母さんどうしてそんな面白そうな因習があるの黙っていたのよ!」


「因習を楽しむな! 我らは頑張って廃れさせようと努力していたのじゃ! 全て忘れ去られたものにしようとな!」


 祖母もやりたくてやっているわけではない。

 味方である。

 それなのに友樹を拘束した。

 実施しなければならない理由がある。

 つまりお内裏様とやら無視してはいけない存在なのだろう


「友樹よ。本日の日付が変わる深夜にお前をお雛様としてお内裏様の本殿に供える。明日は本殿から一歩も出てはならん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る