20紅緒と袴田の断罪プランp.2種蒔き

 翌日の月曜日。

 わたしは有給消化のため、休みを取っていた。

 大介は肩に絆創膏を貼って出勤し、琴里も保育園に登園している。

 わたしは、貴重なひとり時間をどう過ごそうかと、紅茶を飲みながら考えていた。

 外はあいにくの曇り空、部屋の薄暗さが鬱々とする。


(まずは久しぶりに音楽でも聴こうかな)

 音楽プレイヤーから明るめの曲を選び、再生。

 小気味良いリズムに、心に栄養が注がれた。

 自然と口ずさみながら、横目で窓が開いていないことを確認し、音量を上げる。


 時刻は午前11時を少し過ぎたところ。

 何となくスマホを手に取り、アドレス欄を表示して眺める。

 家族親戚、仕事、保育園、学生時代の友人が2人、これが何年も変化のない人間関係であった。

 そこに雷が落ちるように、袴田が追加された。

(今、何してるかなぁ)

 この出会いだけは、大介とリナに感謝すべきかもしれない。


 その後は、集めているスタンプなどで、手帳にコラージュをして過ごした。

 自分の「かわいい」を可視化した紙の一面を眺め、満足する。


 どんなに楽しくて集中しようとも、お腹は空く。

 遅めのお昼で、千切りキャベツとメンチカツのサンドウィッチを作った。

 わたしのあるある、前日の残りおかずのアレンジ楽し。


 さて、ひとり時間も佳境を迎えるというところで、スマホの電子音と、部屋に流れていた音楽が不協和音を奏でる。


 見ると、知らない携帯番号からの着信である。

 いつも、とりあえずは出るようにしている。


「はい、もしもし」

『大ちゃんの奥さん?』


(!! この声!)


 心臓が跳ね、目が大きく開き、絶句する。


『もしもーし、聞いてる?』

「ええ……リナさん?」

『当たり、何でわかんの?』

「あなたの声、しばらく耳から離れそうにないのよ」

『ふーん、ねぇ、大ちゃん、一緒にいる?』

「は? うちには、わたししかいないわよ」


『昨日からぜんぜん電話に出ないし、既読にならないし』


「それわたしに言う? 噛みつかれたから、怒ってるんでしょう」


『恋人だったら、あのぐらい愛情表現でしょ』


「大介さんの社会的地位と、お金への愛情表現よね? この時間なら会社にいると思うわよ」


『やっぱ会社かぁ……未来の旦那の出世は邪魔しないようにしないと』


(ちょっと賢くなってる? 気分で行動するくらいが扱いやすいのに)


『聞いたよー、なんちゃって幸せ家族を続けてるんでしょ? 女としてみじめだよねぇ』


(惨め? 夫に愛されていないわたしは、リナにはそう写ってるのか)


「それでもいいわ。わたしは、娘の気持ちを最優先にしてるだけ。子どもがいなかったなら、もうとっくに離婚してるわ!」


『ふーん、家族愛ウザ! もう待てない、ハッキリさせようよ。大ちゃん、帰ってくるの待たせてもらうわ。今からそっち行くから』


 ブツッ!


 一方的に電話を切られた。


(え? えーーーっ! 来る! リナがうちに!! 琴里はどうする?!)


 わたしはスマホを手に持ったまま、リビングをおろおろする。


(とにかく大介さんに早く帰って来てもらわないと──いや、帰って来てはダメなのか?)


 スマホのアドレス欄から、SOS 的に袴田に電話を掛けた。


 トゥルトゥルトゥル

 プッ


『紅緒さん、どした?』

「れ、礼時くん! リナさん、来る! うち来る!」

『ちょっ、落ち着いて、今日休み?』

「そう! どしたらいい?!」

『…………紅緒さん、玄関出てみて』

「へ? そんなことしてる場合じゃなくてっ」

『いいから!』


 わたしは渋々、玄関に向かい扉を開けた。

 すると──


「不安にさせてごめん。もう大丈夫だよ」


 ツナギの袴田が立っていた。

 わたしは突然飛び込んできた状況に、目を丸くする。

 袴田から目が離せない。

 

「びっくりした?」

「うん」


「心配で、毎日、紅緒さんちのパトロールしてた。今は空き時間のパトロール中だったんだけど……」

「うん」


「あーほら、浄水場の空撮の打ち合わせの時、地図見て紅緒さん『ここうちなんですー』なんて言ってたから」

「うん」


「……もう、そろ、いいかな? 何があったか話してもらっても」


 わたしの思考はまだ停止中。

 スマホに視線を移した途端に、それは動き出した。


「あ! そうだからね──」


 わたしは、まくし立てるように、リナとのやりとりを伝えた。

 袴田は頷きながら聞いていたが、途中から「ちゃんと聞いてるから続けて」と言いながらスマホを出し、忙しく指を滑らせていた。

 わたしの話しが終わると──


「紅緒さん、プランの2ページ目を始めるよ」


「確か『リナさんに社会の役に立ってもらう』って説明してくれたプランだよね」


 もぐらおやじの珈琲店で、袴田からプランの流れは大まかに聞いている。


「それ。旦那さんは、リナに愛想つかしてきたね。今度はリナを旦那さんから引き離すよ」


「礼時くんの幼馴染みのロマンス詐欺師さんに、リナさんを口説かせるのよね。大富豪を装って」


「あはは、詐欺師に『さん』つけちゃう? リナは隣市の実家に身を寄せてるから──お! ロマンス詐欺師さんからの返信だ。『リナと接触成功』だって!」

「早っ」


「また来た! 『今晩は超一流ホテルでディナーの約束を取り付けた』って。やるなー これじゃあ、紅緒さんちには来れないね」


「良かったー ありがと、礼時くん」

「ロマンス詐欺師さんからの続報は、また報告するから」

「うん」

「もっと一緒にいたいけど、髪をおろしてる紅緒さん見れたし、仕事に戻るかな!」


 袴田は笑いながらそう言って、停めていた車に乗り込んだ。

 そして、運転席から小さく手を上げて、行ってしまった。


(なんか、どう返していいかわかんない時あるんだよなぁ)

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