第5話 護衛
私が足を止める度に音が止む。背後に気配。
足早に速度を早めても、前に居る私を追い越さないように一定の距離を取り続ける。
声が震えようとなりふり構ってられない。振り返って叫んだ。
「…付いてこないでよ!」
「仕方ないだろ?護衛なんだから」
背後にはやれやれ、と首を横に振りながら肩をすくめる悠。
瑠奈による衝撃の爆弾発言から1週間。ユークという男が悠の姿で、どこに行こうにもストーカーしてくるのだ。確実に私が気付く範囲の距離にいる。
「まずあんた。悠じゃないでしょ。キャラ作るのも辞めて」
「・・・・・・いいんだな?」
低い悠の声は初めて聞いた。性格が違うだけでこんなにも声と雰囲気が変わるのか。
指をぱちんと鳴らすと、20代後半くらいの黒髪長身の姿に戻った。
改めて見るとこの男、顔が良い。足が長くてスタイルも芸能人並み。
正直、私の好みで言うとどストライク。
恋人としては雰囲気怖すぎるし、女慣れしてそうだから嫌だけど。
「・・・彼女居ないの」
「必要ない」
指輪してないし、彼女がいればストーカーされないかな、という甘い考えは打ち砕かれた。そもそもストーカーではなく、護衛なんだっけ。
「紹介しようか?瑠奈とかどう?」
「おい」
ユークという男がため息を吐く。
「言っておくが、俺はお前の祖母に恩があるだけでその気はない」
「おばあちゃん?私が小さい頃に死んじゃったってことしか…」
会ったことはないが、母曰く、私にそっくりらしい。
「好きだったの?」
なぜか聞かずにはいられなかった。
「・・・・・・・・・・・・デリカシーのない奴は嫌いだ」
しばし沈黙の後、そう言い放ってそっぽを向いたが、耳は赤く染まっている。
「ふーん、そうなんだぁ〜。へぇ〜」
「何だよ」
赤い顔のまま、ジト目で睨んできた。
「・・・おばあちゃんのどこに射抜かれたんで?」
「享年16にしてやろうか」
「今はここまでにしといてあげよう」
「覚えとけよ」
まるで悠と話しているようだ。ずっと意地を張っていたものの、そろそろ私から歩み寄ろうかしら。夜這いは絶対許さないけど。
「そうそう。演技せずそのままでいてよ、お兄さん?」
ふざけて言うと、彼は口元を緩めた。
「ユークでいい」
イケメン耐性皆無の私はユークの笑顔に動悸が止まらない。普段とのギャップよ。
「ユ、ユーク…さん」
「悠としてお前と話していた時は素の俺だからそんなに気負わなくていい」
「見た目が違いすぎるのよ」
「真逆だからな」
ユークは目を瞑って話し出した。
「悠のように親しみやすい方が人間に紛れてバレにくい。ただ、正体を明かした今ではむしろ、存在を見せることで抑止力になる」
魔力そのものは隠すが戦力差くらい分かるはず、とも付け加える。
「それとルナに渡されたんだが、凛は肌身離さずこれを付けててくれ」
ズボンの左右のポケットをまさぐり、アクセサリーを取り出した。
「身につけると消費魔力を抑えて目立ちにくくしてくれる」
薔薇をかたどったシルバーのネックレス。見た目が1円玉くらいの大きさで、制服で隠せそうだ。見えてもお洒落なデザインで不満はない。ないのだが…。
「なぜ薔薇?」
「家紋に入ってる。ルナも俺もピアスにしてるよ」
見せてもらうと、トライアングル型のピアスにしっかりと薔薇が彫られていた。
「いいなあ、ピアス」
「後でルナにでも頼め」
どうやら、アクセサリーとして好きな形に加工して身につけているらしい。
確かルナはリング型のピアスを付けていたような。
「ところで凛、お前どこに向かってんの?」
「散歩のつもりだったけど気が変わった。服見に行く」
「は?」
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