[30]引きこもり魔女と外に出るⅡ
俺たちは目的地の街に到着した。
既に日は沈み、各地に
ここは潮の香りが漂う港街、商人たちの貿易拠点だ。
「とうちゃ───く!」
ファラの元気な声がこだまする。
目の前には三階建ての大きな建物、上部には宿を表す文字と看板が立てかけてある。
「はぇ〜! すごいおっきな宿だね……!」
「ここ は商人が寝泊まりするためにある宿なんだ。キミたちは特別だからな、部屋を用意してある」
「組合長に会うんは明後日や。それまでゆっくり休んで、この街を散策してみるとええわ!」
ファラたちの好意で宿まで用意してもらった。
組合長に会うのは明後日、つまり明日は自由にこの街を観光できるというわけだ。
チェックインを終え、ファラたちに案内されて宿泊する部屋にたどり着く。
「わぁ〜! このベットふかふか!」
イリスは部屋に入るなりベットに飛び込んだ。
部屋を用意してもらって何だが、イリスとは相部屋のようだ。
まぁ、イリスとは普段から一緒に住んでいる訳で今更に気にすることではないだろう。
広さはよくあるホテルの一室くらいで、二人分のシングルベットが用意されている。
「それじゃ、おやすみ……」
「えにゅ……」
「はやっ!? ってか、エニグマもかよ……」
イリスはコートやら靴を辺りに放り投げて布団を被った。
せめて、シャワーくらい浴びてから寝たらどうなんだ……。
「ぐごおおお……」
「眠るのも早いっ」
疲れもあるのだろう、このままゆっくり寝せておこう。
「仕方ない、少し外を散歩するか……」
俺は宿から出て、夜の街を散策する。
初めて街に来たんだ、この世界の文化を知るにはいい機会だろう。
石レンガの道、石造りの建物。村とはまた違った建築様式が目立つ。
都会ではないが、夜なのにそれなりに人通りもあって活気づいている。
酒場らしき建物からはガヤガヤとした声が漏れて楽しそうだ。
「夜の繁華街か、何だか懐かしいな……」
そういえば、昨日の出来事についてイリスに聞くのを忘れてしまっていた。
黒いウネウネを見てからの記憶が無い、街に来たのも俺にとっては突然のことだった。
別に、俺が覚えていないだけで何も問題はないだろうし、気にすることでもないのだろう。
「おぼぼぼぼぼぼ!!!」
海を望む小さな港に出た。暗闇の中、海に向けて気持ちいいぐらいにリバースしてる人がいる。
流石は商人の街だ、夜中の酔っ払いまでしっかりと存在している。
「ゔぇ〜 ぎもぢわるいぃ〜」
よく見ると、酔っ払いは女性のようだ。
黒髪のウルフカット、襟足が長めで二又に分かれている。
スリットが入った紺色のドレスを着ていて、遠目から見ても少々刺激が強い格好だ。
しかし、俺は元の世界で『酔っ払いには関わるな』という教訓を得ている。
あのお姉さんは酔いつぶれている訳ではなさそうだし、心苦しいが近づかないでおこう……。
「おーい! そこの少年! 青い髪のお兄さーん!」
何やら俺に向けて声を掛けているような気がする。
どうやらさっきの酔っ払いが俺に気づいたようだ。だが無視、早く立ち去らないと。
「いたーい! 痛いよー! うえーん! だれか助けてー!」
お姉さんが急に大声で叫び出した。
この状況を誰かに見られたら、もしかしなくても俺が悪者になるんじゃないか?
仕方ない、少しだけ手を貸すだけだ。その後はすぐに離れよう……。
「……あの、大丈夫ですか?」
「んふぅ~! つかまえたぁ!」
しまった、酔っ払いのお姉さんに捕まった。……すごく酒臭い。
がっちりと体をホールドされたまま、近くのベンチへと連行された。
「お姉さんがキミの話し相手になってあげるぅ~」
凄いテンションが高い。俺の腕を掴んだまま離れず、暑苦しくすり寄ってくる。
別に、俺は話し相手を求めていた訳じゃない。というか、まだ夜になったばかりだよな?
それなのに、こんなベロベロになってどれだけ飲んだんだ? 酒癖悪すぎだろ……。
「キミ見ない顔だけど、どこから来たの~? 私はねぇ~あっちから来たの~!」
どうにかしてこの状況から抜け出さなければ。
酔っ払いに絡まれるほど面倒なことはない……。
「ねー少年ってばー! 聞いてるぅ~?」
「少年っていうのやめてください。俺、子供じゃないんで」
「細けぇこたぁいいんだよ少年! いいから私の話を聞けよ!」
めんどくせぇし、酒くせぇし。
居酒屋のバイトをしていたが、ここまでダル絡みしてくる人は初めてだ。
誰か来てくれないかな。今すぐ誰かにこの人を連れて行ってほしい。
「私ねぇ~
「そうなんすね」
「あぁ~! そのカンジ、信じてないだろぉ~?」
突然、お姉さんに顔を掴まれる。そのまま、引き寄せられてお姉さんの顔が迫る。
俺は頬をつままれたまま、抵抗することが出来ない。
赤く火照った顔、とろんとした目でじっと見つめられる。
こうして見ると、お姉さんは結構綺麗な顔立ちをしている。
「えっち」
「……ふぁい?」
「いまエッチなこと考えてたでしょー! 私の唇をじぃーっと見てたもん!」
やっぱりめんどくさい人だ。否定するのも疲れる。
さっさと離れるべきだった。
「冗談だよぉ! そんな怒らないでいいじゃん!」
「あの、もう帰っていいですか?」
俺はお姉さんが顔を放した隙に、ベンチから立ち上がった。
「……待ちたまえよ! もう少しだけ、話を聞いてみてはどうかな?」
芯のある声が響いた。今のはお姉さんの声か?
さっきまでのべろんべろんなお姉さんとは全く違う印象を受ける。
「私は本当に未来が視えるんだよ。だから、キミに少しアドバイスをしようと思ってね」
「アドバイス?」
「その前に少しだけ質問をするよ? 大丈夫、簡単な質問だ」
なんなんだこの人は? 全く読めない、何が目的なんだ?
お姉さんはベンチで脚を組んでゆったりとした体制を取った。
「キミは違う場所から来た、こことは別の場所」
なんだって? 本当に未来が視えているのか?
俺が別の世界から来たのを見抜いたって言うのか?
思い返せば、顔を掴まれた時のお姉さんの目。じっと見ていたが、あれは俺じゃなく先を見ているような目だった気がする。
「そして、キミは助けを求めている。今すぐにという意味じゃない、将来的な意味だ」
将来的な助けを求めている……。それは、イリスのことだろうか?
確かに、イリスを養っていくうえで俺だけの力じゃどうにもできない。
誰かの力を借りてでもイリスを養っていく必要がある。だからこそ、俺たちはこの街に来た。
「最後に、キミは過去にトラウマを持っている。大切なものを無くしてしまったんじゃないかな?」
トラウマか……。二度と繰り返したくないことはある。
俺のせいでなくしてしまったもの、俺のせいで手に入らなかったもの。
だからこそ、イリスの夢を応援したいと思った。
俺に出来なかったことをもう一度、実現するために。
「キミはつかれてしまっているんだね。だけど、キミにあるものが逆転のカギになる」
「ふっ……、あんたは面白い人だ」
「うん? それはどうも」
「だけど、ここまであんたが言っていることは全部、誰にでも当てはまることだ」
「おやおや、バレてしまったか……」お姉さんは首を横に振って残念がる。
「そうやって、人のことを不安にさせて
詐欺師か何かだろうか。少なくとも、俺の苦手なタイプだ。
人の弱みに付け込んで搾取する最低の存在。……俺も人のことは言えないかもしれないが。
「手厳しいねぇ。だけど、キミの言う通りかもしれないし、違うかもしれない」
お姉さんは立ち上がり、真っすぐに俺を見ている。
「そういう中途半端で、答えを出さないところが気に入らない。何が目的なんですか」
「ふふっ……、別に、本当に話がしたかっただけだよ。そう睨まないでくれ」
お姉さんはこちらに背を向けると、立ち去るように歩いていく。
「ああ、未来が視えるってのは本当だよ? また会おう、トノサキ・アイト君」
なに!? どうして俺の名前を!?
何なんだあの人……?
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