第16話


 思い出すのは――賑やかな人の声。

 楽しそうに遊ぶ者たち。

 時折魔王が妾を眺めに来た。


 いつもいつも妾の元には誰かがいた。

 ここ最近は、やたらと妾に向けてお祈りする子がいたな。


 訪れるものすべて妾のことを見るたび感嘆し、悩みなどすっ飛んだ様だった。


 魔王は元々何処かで仕えていた魔術師だろうと思う。実際聞いたことはない。ただ、魔法学や薬草学などに長けていたから。


 やがて妾を捕らえた。

 籠に。額縁に。肉体に。

 いつでも鑑賞できる様。

 独り占めした。


 最初にダンジョンに誰も来ないように、門番として魔物を産ませ配置したのはこいつだ。薬や魔法の知識も妾にはなかった。

 与えたのもこいつ。


 要はダンジョンにいるものと同じではある。単純明快だ。


 ……わかったのはいいが、どうやって倒すか。

 それが重要なのだが、スケルトンたちとは違う。


 

 本体だったであろう骨は血焔により、灰塵と化していた。

 今度は雷撃を躱してはモニターを狂ったように割るリュネ。中にいるからだろう。


 嗤う魔王。

 奴はぬるりと別のモニターに移動し、それさえ効かない風だ。

 リュネに妾の思い出したことをこっそり伝える。


 

「……妾の薬のように、自ら服毒したはずだ」


「?」


「そうは言ってもどこにあるかはまだわからんから……もう少し奴の気を引いてくれ」



 リュネは頷くと同時に移動した魔王のモニターを薙ぎ払う。

 剣は持つのだろうか。

 妾の方には雷撃は来なくなった。外部から来たリュネを目の敵にしているからだろう。

 妾はリュネのサポートとして雷撃が伝線しないように蔦を手で千切る。

 


 ――心臓は要と言っていた。

 

 スケルトンは原本――その元となった人間たちの唯一の人間性である心臓が折り固まった石がある。

 石があるからこそ、ボロボロになっても妾が直していた。

 それにドラゴンや魚人自身の心臓は彼ら自身の体内にある。だから、死んでも肉となって残る。


 隷従させていたとしても、心臓が壊れたなら多分蘇生もできないはず。

 奴の心臓はこの辺に転がっていないはず。潰したら終わりだしな。

 


 奴は人間性は……――。


 

「この、中か……?」



 どれかがきっと出入り口だ。

 モニターをポコポコ叩いてみる。

 幾つもある。これは骨の折れる仕事だ。棒切れをぶん回しているとリュネが呟くように妾に囁く。



「あれじゃないか?」


「つき?」


「いや、その下の……」


「反射してる月、か?」



 わかったなら即行動という風に妾の聞きかえしの返答もなく妾を横抱きにする。されるがまま抱き抱えられる。

 されるがままとはいえ妾は人知れず喜んでいた。

 


『くるな……ここは我だけの空間――』


 

 魔王が何か口走っていた気がするが無視して妾を抱き抱えたリュネに抱えられて突き進む。

 反撃されると困る。


 モニターに当たると思うと少し怖くて目を瞑った。



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