第7話


 三杯目に突入する。

 仕方ない。腐血よりも生き血の方がうまいのだろう。

 妾の血には目もくれないのに……。

 いやそれはそれで嬉しいことに変わりないのだが。

 妾の内心に気づくことなく、騎士は人間側のことを伝えてくれた。

 


 厳選された人間たちを向かわせていること。 名声のある者たちを選別してここへ派遣。


 そして環境の改善。カークリノラース王国はそれを改善していた。

 ダンジョンがあるとどうしても周りの環境が悪くなっていくらしい。

 例えば土地が腐敗してしまい住めなくなるとか。魔物が湧き出すとか。現にダンジョンに入る前の土地は灰色で魔物が彷徨く以外はないらしい。実際に妾は見たことはないので騎士からの情報だ。


 様々な事情があってここ数年でダンジョン攻略。ひいては魔王の討伐に勤しんでいた。


 全てを聞いてから妾は頭を捻らせてこいつがこれでと繋げていく。一番違うことは妾の立ち位置だ。彼らには魔女と推測されている。

 ……妾は魔女かあ。


 実際は違う。

 それに妾自身、観戦はするがあまり表に出たことはない。


 これは多分スライムが妾に真似て変化して特定の部屋から出て出没していたからかもしれない。


 環境がおかしいのはダンジョンのせいでもない気もする。人間性を破棄した、リュネの言う魔王が生命を吸い出している可能性が大きい。


 彼の話をまとめてから妾の話に移った。

 ほとんどは今の話に注釈を入れる程度だ。



「確かにボスはいるな」


「君か」


「違うと言ったろう。妾を縛っている者だ」


「ん?」



 先ほどから一言二言の上の空な返答が返ってくる。

 まだ飢えているのか。

 可愛らしいうさぎさんのコップが赤黒く変色していく。

 

 妾が説明して聞いてくれるだけで良い。

 


「元はここは城だった。水中の底の……。それが地が変動して陸になったのかな。元々浅瀬にあったお城だ。いつのまにか陸に出ていたのだろう。

 妾が逃げ出すたびにどんどん部屋数は広く、大きくなっていったのだ。妾を逃すまいと、妾に足を作った。初めての足は動きにくくてな。歩けるようになれば今度は透明な足枷を用意してくれたよ」



 足首に嵌められた枷を見せつける。と言っても。騎士からは可視できない透明なもの。

 鎖は途中までしかない。内で飛ぼうが戦おうが邪魔にはならない。

 

 外に出た瞬間、引き摺られる。

 魔法の足枷。



「ということは随分大昔からあるということか?」



 ……やはり知らないのは人間がダンジョンを認知した以前の話だ。

 敵を知らなきゃ倒すことは容易くないとか本で読んだ。だから騎士にも丁寧に伝えていく。

 


「うーーん。日を数えるのをやめてしまったからわからんがそうなのかな。妾が寂しくないように魔物たちを与えたりな。後から迷い込んだ人間だと知った。今も妾がしていることだな。それと外を見られるようにしたらしい……一応ほら」



 そう言って天井を指差す。

 箒で飛べるとしても、一切抜けることのない天井。

 哀れんでくれるかとも思ったが、騎士本人はそうでもなさそう。


 平然としている。

 少し寂しい。

 できれば娯楽本で読んだ姫と勇者みたいな『さあ。ここから脱出しよう』などと熱烈な救助を所望していたのだが……。

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