ダンジョン管理官の憂鬱

世界にはダンジョンがある。

突如として現れ、魔物を生み出し、冒険者たちの挑戦を待ち受ける神秘の迷宮――そう信じられている。


だが、実のところダンジョンは王国によって完全に管理されている。


その目的はただ一つ。

人々を呼び込み、経済を回すこと。


◆◆◆


俺の名前はライナー・クラウス。

王国ダンジョン管理局に所属する管理官で、**「オステア大迷宮」**の運営を任されている。


ダンジョンは国家の重要資産であり、冒険者たちの挑戦心を掻き立てるために徹底的に管理・演出されている。


例えば――


・魔物の出現率調整

 多すぎれば危険すぎるし、少なすぎればつまらない。適度なスリルを保つよう調整する。


・レアドロップの確率設定

 市場の流通状況を考慮しながら、ほどよい確率でレアアイテムを出現させる。出なさすぎると不満が出るし、出すぎると価値が暴落する。


・罠の配置と難易度調整

 難しすぎず、簡単すぎず、挑戦者が達成感を得られるバランスが重要。致命的な罠はごく一部に限る。


・ダンジョンの噂の流布

 「第十層には未発見の秘宝が眠る」

 「第二十層のボスはかつての伝説の英雄が魔物化した存在」

 こうした噂をそれとなく広め、冒険者の関心を引きつける。


これらすべてが、俺たち管理官の仕事だ。


◆◆◆


「ライナー管理官! 最近、冒険者の訪問率が下がってきてます!」


「なんだと?」


俺は報告書を確認する。確かに、ここ数週間でダンジョンに挑戦する冒険者の数が減っている。


「ギルドの調査によると、最近別のダンジョンの人気が高まってるらしいです」

「ふむ……どこだ?」

「王都近くの**『エルド迷宮』**ですね。新しく発見された遺跡で、レアアイテムのドロップ率が高いって話です」

「……なるほどな」


競合ダンジョンの台頭。これは由々しき事態だ。


「よし、ならばこちらも対策を打つぞ」


俺はすぐに運営計画を見直し、新たな施策を考えた。


1. 「新階層の発見」イベントを実施

→ ダンジョンの奥深くに新たなエリアが見つかったと発表し、冒険者の興味を引く。



2. レアアイテムの期間限定ドロップ

→ 一定期間、特定の層で強力なアイテムが手に入るように設定する。



3. ボスモンスターの調整

→ 既存のボスを少し強化し、倒した際の報酬を豪華にすることでリスクとリターンのバランスを取る。



4. ギルドとの連携強化

→ 冒険者向けのキャンペーンを実施し、攻略達成者に特典を付与する。




「これでどうだ?」

「……すごいです、これなら確実に冒険者が戻ってきます!」


ダンジョン運営は、単なる管理ではない。

いかにして人々を呼び込み、興味を持たせ続けるかが重要なのだ。


◆◆◆


数週間後――


「ライナー管理官、報告です! 冒険者の来訪者数、50%増加しました!」

「よし、計画通りだな」


新階層の発見により、多くの冒険者が挑戦しに訪れ、限定アイテムのドロップで市場も活性化した。

やはり、ダンジョンは適切に調整すれば、十分に人を呼び込める。


「ライナー管理官、さすがです!」

「まぁな。これが俺たちの仕事だからな」


ダンジョンは王国の経済を支える大切な資産。

そして、俺たち管理官の使命は、それを適切に運営し続けることだ。

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