第28話

 世の中はゴールデンウィークという春の大型連休に向けて、アプローチを始める。

 当然テレビの情報番組では行楽特集などが組まれて、朝からテレビの向こうは賑やかだ。

 僕とマリーベルは朝食のトーストを頬張りながらゴールデンウィークの予定をどうしようかと話し合っていた。

 「悠さんは来られるのでしょうか」

 「悠はどうだろうなぁ」

 悠からはまだゴールデンウィークをどうするのかという話は聞いていない。

 出かけたい場所なんかはないのかとマリーベルに聞いてみても、まだどこに行きたいなどは話してくれない。

 最近の僕の目標はマリーベル自身が行きたい場所だったり欲しいものだったりを、口に出来るようになること。

 マリーベルが何事も受け身なのは現状の僕に対する遠慮もあるのだろうが、それまでの生活でそうするしかマリーベルの心を守れなかったんだろうという記述が小説に書いてあった。

 それは僕の父が佐知子さんと再婚して新しい家族になったばかりの頃の僕自身にも重なるところがあった。

 あの頃の佐知子さんは根気よく僕がしたい事欲しいものを言えるようになるまで、寄り添ってくれた。

 僕も佐知子さんの真似は出来なくても佐知子さんがしてくれたように、マリーベルに寄り添えたらと思っている。


 「奏多君、今いいかしら?」

 夕飯を終え風呂にも入り後は寝るだけと自室の屋根裏部屋に着いたと同時に佐知子さんから電話がかかって来た。

 「うん、大丈夫だよ」

 「悠から聞いたのだけど……」

 どうやら悠は父と佐知子さんにマリーベルの事を話したらしい。

 「マリーベルちゃんは今どうしているの?」

 「もう部屋に帰ってるよ」

 「そう、それでね?お父さんや悠とも相談したのだけど今度の連休に私たちもそちらに伺っていいかしら?」

 怒られるかなと身構えた僕を笑い飛ばして佐知子さんはゴールデンウィークに三人で此方に来ると告げた。

 「とても信じられる話ではないけれど、あなたたちがそんな嘘を吐くとも思えないし、だから一度マリーベルちゃんと会ってみないとって話し合ったのよ」

 「それはいいけど三人か……部屋が……来るのは構わないけど布団が足りないんだよ」

 祖母と母が住んでいた家には余るほど寝具があるわけではなかった。

 僕が困っていると佐知子さんの向こうから父の声がした。

 「俺と母さんはホテルでも取るさ」

 「連休だよ?今の時期から取れるかな」

 「どうにかするわよ」

 そんな会話をして佐知子さんは連休の予定を告げて電話を切った。

 僕は「ベルに何て言おう」と考えながら眠りについた。


 翌朝、朝食を作るマリーベルに両親と悠が連休に来る事を伝えた。

 「ベルに会いたいんだって」

 「私に、ですか?」

 戸惑うように不安を滲ませるマリーベルに僕は安心するように笑顔を見せた。

 「とって食ったりしないから大丈夫だよ」

 「そういう心配ではないのですが」

 呆れたように眉尻を下げたマリーベルが小さく息を吐いた。

 「わかりました、和室の準備をしておきますね」

 「うん、お願いするね、僕も手伝えたら良かったんだけど連休前だから仕事が忙しくて」

 「それはしっかり頑張ってください」

 そうマリーベルに発破をかけられた僕は、朝食をいただいて仕事に向かった。

 通勤中に悠からメッセージが届いた。

 悠も佐知子さんと父がこんなに積極的に動くと思って居なかったらしく、マリーベルに悪いことをしたかもとかなり心配していた。

 「大丈夫、ベルには僕も悠も居るんだし」

 そう返せば安心したようなスタンプが返って来た。

 とはいえ、佐知子さんにしろ父にしろマリーベルが異世界から来たと信じてくれるかどうかはわからない。

 万が一にもマリーベルが責められたりしないように僕がしっかり守らないといけないなと、決意を新たに止まった電車から駅のホームに降りた。

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