第6話
「お兄?どうしたの?」
部屋からだろう、妹の悠が通話を繋ぐが周りの音はない。
「あーその、な?変な話をするんだが……」
切り出し方がわからず僕は暫くは「あー」とか「うー」とか唸りながらもマリーベルの事を悠にかい摘んで話した。
「お兄、大丈夫?夢でも見た?」
「残念だが僕は正気だし、夢でもないんだよ」
「いやいやいや、そんなラノベみたいなことあるわけ……ホントなの?」
「ああ」
僕はマリーベルが現れた時の話から今日までの話を時折、悠から質問を受けて答えながら話した。
「そっかぁ……」
表情がわからないから悠はまだ信じてくれていないのかもしれない、だが今僕がマリーベルのために頼れるのは悠だけだ。
なんとしても悠の協力を得たいとスマートフォンに向かい正座する。
「悠、それでなんだけど」
「わかった、来週末に終業式あるから終わったら春休みだし、お兄の家に行っていいよね」
悠の申し出に思わず平伏しながら「もちろん」と僕は答えた。
「お兄に女の子のお世話なんて無理だしねぇ」
「そうなんだよ、ある程度は大丈夫だけど」
「でもあの小説のマリーベルで本当に間違いないの?」
「一応読んでもらったんだが」
「は?」
悠の声色が変わり地を這うような低い声がスマートフォンを震わせた。
ビクリとした僕にスマートフォンから悠の長い長い溜息が聞こえる。
「このノンデリめ!マリーベルが自分は小説の中の人間だとか設定のせいで今まで不幸だったとか、そんな事を知って傷つくとか考えなかったの?」
悠に指摘されて僕はやっとそこに思い至った。
不味かったのかと今更ながらに僕もデリカシーがなかったと反省する。
「傷付いてもおかしくないんだよ?」
「そうだよな、僕も思ったより焦ってたのかも知れない」
やれやれと肩を竦めた気配がスマートフォン越しに感じる。
「とにかく!まだちょっと信じられないけど春休みになったらそっちに行くから!これ以上下手な事を言わないのよ!」
全く!とプリプリと怒る悠に懐かしさが込み上げる。
先月迄はこうやって毎日話していた。
直ぐにプンプンと怒る悠はそれでもよく懐いてくれていた。
あの賑やかさが僅かに恋しく鼻の奥がツンと痛んだ。
「でもあの小説……作者にメッセージとか送れないかな……うーん」
悠がボソボソと話しているが上手く聞き取れないのは独り言だろうか。
「やだ!もうこんな時間じゃない!明日は朝からむっちゃん達と遊びに行くんだよね、じゃあ私もう寝るから!」
「ああ、悪かったな急に」
「そうだ!マリーベルの部屋はちゃんと鍵掛かるんだよね?駄目だよ?行き場のない不安につけ込んで変なことしたら!」
「しねえよ!」
とんでもない事を言い出した悠は最後まで僕に釘をさしながら通話を終わらせた。
母の部屋は一応鍵がついている。
思春期の母が文句を言ってつけたのだと、祖母が話していた。
この家に来てから母の部屋は手付かずだった。
祖母がずっと残していたまんま、入る事も躊躇われた。
父と結婚して家を出るまで使っていた部屋は、マリーベルの為にと入れば何故入れなかったんだろうと思うほど、アッサリとしたもので感傷もなかった。
下から持って上がった缶ビールはすっかり温くなっていたが、カシュッとトップルを開けてグイッと喉に流し込む。
「土日が休日で良かったな」
丸い天窓から月を見上げて僕は小さく息を吐いた。
歩き回ったせいか僕も今日は随分草臥れた。
明日は家の中のものの使い方を教えておかなきゃなと頷く。
明後日からは僕も出勤しなきゃならない、僕が居ない間マリーベルは一人になる。
不便がないようにしておかなきゃな。
そんな事を考えているうちに睡魔に引き込まれていつの間にか僕は夢を見ることもなく眠ってしまっていた。
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