第17話 使い魔と後輩から同時に告白されました。どうすれば?
「じゃ、片付けましょうか」
「ええ、手伝うわ」
リシアと並んで食器を流しに運び、スープの鍋を冷ましながら、パンくずをまとめて洗い物を手分けする。
「これ、なんだか……新婚夫婦みたいですね」
「リシア。そういうこと、さらっと言うの、ほんとやめなさいってば……」
私は手元の茶碗で顔を隠しながら、熱くなった頬を冷やす。そんな私を見て、リシアは楽しげに笑っていた。
洗い立ての皿の匂いと、少し濡れた石鹸の香りが、学園寮の一室を静かに満たしていた。
制服の襟元を緩めて私はベッドに腰を下ろす。リシアも隣に腰掛けた。
「……今、こうしてるのが一番落ち着きますね」
「……そうね」
布団を並べて敷いた室内は、すっかり夜の気配に包まれていた。
「リシア」
「はい?」
私は一度、深く息を吸って目を伏せる。
「……さっきのこと、改めて言うわね。私、あんたのこと……好きよ」
「……私もです」
「だから……これからは恋人として、ちゃんと向き合っていきたいなって」
リシアがそっと微笑む。
「ええ。私、もう何があっても、怨さんと一緒にいたいですから」
並べた布団へ、二人で潜り込む。
私はリシアの手を握る。温かい。心臓の音が近い。
そのとき——。
「……ちょいと通りますよ〜……」
影の中からぼそっと声がした。
「……ヴェルゼルク、ずっといたの?」
「いたよ。怨さんが恋人できて無自覚にニヤついてるの、横でずーっと眺めてた」
「うわっ、全部聞かれてた……!」
「なぁ、怨さん」
ふいに声色が変わった。茶化しのない、静かな本音の響き。
「俺も……怨さんのことが、好きだ。ずっと、千年も……あんたのそばで、あんたを守ってきた。誰よりも見てきたんだよ」
心臓が跳ねた。さっきまでの温度とは違う熱が、胸をじんわりと広がっていく。
「使い魔とか、宿敵とか、そんなの全部関係ない。俺は俺として……怨さんに惚れてる」
私は、しばらく言葉が出なかった。
だけど——。
「……ヴェルゼルク」
小さく呼んで、私はそっと気持ちを探す。
「あんたが……千年もずっと、そばにいてくれたこと。私、ちゃんと知ってた」
声がかすれていた。喉が熱い。目頭が、少しだけ、熱を帯びていた。
「一番近くで、支えてくれてた存在よ。……好きにならない理由なんて、ないじゃない」
「……マジかよ……やっべ、泣きそう……」
「泣かないで。……私が困るわ」
「じゃあもう、恋人ってことでいいんだな?」
私は頷く代わりに、はっきりと言った。
「ええ。ふたりとも、私の大事な恋人よ」
「川の字、決定ですね!」
リシアが嬉しそうに声をあげる。私はもう、何も言えなかった。
三人で並んで、布団をかける。
右にリシア。左にヴェルゼルク。
ふと、思い出す。
川の字で眠るのは、初めてじゃない。
昔、あの屋根の下で。刀馬と、玲と、寄り添うように眠った夜。
今はもう、みんないない。
けれど——。
「……リシア、ヴェルゼルク。ありがと」
「こちらこそ、怨さん」
「ったく、宿敵が恋人って、最高にロマンチックじゃね?」
「もう……黙ってなさい」
私は目を閉じる。
この夜が、この温もりが、どうか消えずに続いていくように——。
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