Episode5 反照の樹林

「ほんとにごめんママ…。」


「だ、大丈夫だよ…。ちょっとヒリヒリするけど…。」


 朝起きて強烈な蹴りを貰ったメイカは、未だに痛むお腹を擦りながら落ち込むラナンを慰めていた。

 このやり取りが終わるまでに、ローズが起きることは無かった事を報告しておく。


 完全に目が覚めたメイカとラナンは身支度を整えて、二人で朝食を作り始めた。そして、良い匂いがリビングに漂い始めた頃にローズが目を覚ました。


「うぅん…あぇ、ここは…。」


「あ、おはようローズ。良く眠れた?」


「ローズお姉ちゃんおはようっ!」


「あれ、天使が二人見えるな。夢か…。」


 リビングの現状を見たローズは、まだ眠気を孕んだ目を擦りながら再び布団に戻った。


「夢じゃないよローズ。だから二度寝しないで〜。」


「え、夢じゃ…無い?えっと、おはよう。」


 布団を引っ剥がされたローズが目を丸くして二人を見つめる。やがて夢じゃないと気づいたローズは、ふにゃりと笑って朝の挨拶をした。


 布団を片付け後は、テーブルに集まって朝食を食べる。

 今日の朝食は、トーストに塩胡椒のかかった目玉焼きを乗せて食べる、某ラ◯ュタのやつである。


 食べ終わった後は出かける準備をする。ラナンは昨日と同じ装備、メイカは革装備を着け王国から賜ったコートを着ている。


「ママ、すっごい可愛いよ!」


「ご主人それやっぱり似合ってるよ。」


「んふふ、ありがとっ!じゃあ行こっか。」


「二人とも気をつけてねぇ。いってらっしゃい。」


「「は〜い。」」


 二人は声を合わせて返事をすると、長い階段を降って行った。




 ◆◆◆◆◆◆◆


「そう言えばママ。魔物狩りって何処に行くの?」


 目的地に向かう途中、ラナンが思い出した様にメイカへ尋ねた。

 メイカはその問に間髪入れず答える。


反照はんしょう樹林じゅりんだよ。」


「…え"。」


 その答えに、思わずラナンは口元を押さえて絶句した。


 この世界にはギルドが存在する。主な内容は冒険者と呼ばれる人々のサポートだが、一般の人に向けて情報を公開することもある。


 そしてその中に、ギルドのランク制度に基づいた危険地域の存在がある。

 魔力濃度、魔物の強さ、地形などからそのランクは決定され、どの国でも活動出来る事を約束されているギルドの名の元に公開される。

 ランクは低い順にD→C→B→A→S→SSとなっており、人によるが居住地域は殆どがDかC、冒険者の中級者がBからA、上級者でSである。


 メイカが言った『反照の樹林』はランクSに含まれる地域であり、中でも陰湿で暗い森が印象的だ。

 反照の樹林に生える木には微量の銀が含まれていて、それに光が反射することで上空から見れば鏡の様になっている。しかし木の下は光が届かず、それによって薄暗い雰囲気が漂っているのだ。


 光が届かないことで光属性の魔力が発生し辛く、森の中は全体的に闇属性の魔物が多くなっている。


「ほんとに行くの?狩猟会の人が魔物の戦い方が陰湿だって愚痴ってたけど…。」


「うん。まぁ戦い方さえ間違えなければ他のSランク地域よりは楽だからね。闇属性はあんまり使わないから私も久しぶりに行くけど、光属性さえ確保出来てれば死ぬことはないかな。」


「そんな場所に連れて行かないでよ…。」


「可愛い娘には旅をさせよってあるでしょ?ここでの戦闘は普段の狩りに活かせると思うよ。」


「…ママがそこまで言うなら、わかった。」


 それからは車モドキに乗って向かった。車モドキでも一時間はかかる程遠いので、道中は極力戦闘を避けて時間を短縮した。

 やがて、車モドキの窓から『反照の樹林』の木々が見え始めた。


 森の入り口に着くと、車モドキを収納して森に足を向ける。


「うぇ…見るだけで気持ち悪くなってくるなぁ…。」


「闇属性にはとかも含まれるからね。光属性を多く持ってれば緩和されるけど、ラナンは早めに造られたから光属性をあんまり持って無いんだよ。はい、これ着けて。」


 ラナンに対して説明した後、マジックバッグからクリスタル型のイヤリングを取り出した。内から発された光を反射し、キラキラと輝いている。


「これは何?」


「光属性の魔石を使ったイヤリング。耳に付けると闇属性を割と防いでくれるよ。あくまでだから気をつけて。」


「ありがと〜。ママは良いの?」


「聖属性が使いたくて魔導具作ってた時に出来た指輪があるからね。基本闇属性は効果が無いかな。」


 そう言うメイカの右手人差し指には、白銀に輝くシンプルな指輪は嵌められていた。

 自慢する様にラナンに見せると、ラナンは少し呆れた様に指を見つめた。


「聖属性って神に仕える者か関係者しか使えないとかだった様な…。ママはどれだけ常識を覆せば気が済むのさ。」


「あはは、常識を壊してるつもりは無いよ。それに、私がとも思ってないかな。」


「………?」


「…ま、その話は機会があったらしてあげる。それより、そろそろ森に入ろっか。」


「…うん。」


 メイカの言葉にどこか引っかかりを覚えながらも、ラナンは気を引き締めた。

 そう、ここはSランク指定の危険地域。気を抜ける様な場所では無いのだ。


 それから、二人は作戦会議をした。

 作戦と言うよりは、基本的な戦い方の指導と言った方が正しいが。


 作戦内容は、

『反照の樹林』に生息する魔物は、闇属性の使い手だ。その関係上、デバフや呪いなどの正面戦闘を封じて来る物が多い。

 それらを回避するために、デバフを掛けられる前に奇襲し倒すというシンプルな物だ。


 しかし、それを行うには魔物の数が多すぎる。ラナンがそれを伝えると、ここからが作戦なのだとマジックバッグを探り始めた。


 メイカが取り出したのは、黒い布とメイカの作ったゴーレム。

 何に使うのかというラナンの問に「見た方が早い」と返したメイカは、颯爽と森に入って行った。ラナンも後を急いで追う。


「はい、この布を被って。まぁ有っても無くても変わらないけど、体感有る方がバレにくいかな?」


「なるほど…。こっちのゴーレム君は?」


「これは私達の護衛兼おとりだよ。魔力を流すと…。」


 メイカがゴーレムに魔力を流すと、目や肩などがピカピカと光った。少し離れて、光る様子を眺める。


「これは…何してるの?」


「囮って言ったでしょ?まぁ見てて。」


 メイカに促されしばらく見ていると、ゴーレムの左側からフヨフヨと浮かぶ人魂が現れた。周りに黒い靄が漂っており、炎の色が青と緑に繰り返し変化している。


「───?」


 それを見つけたゴーレムが人魂に向き合い、ジッと対峙する。ゴーレムの目がピカピカ点滅を繰り返し、人魂に反射して不気味に光っている。


 敵を倒そうと人魂が動こうとした瞬間、ゴーレムが先に行動した。

 光っていた目がさらに輝きを増し、全ての光が目に集まる。


 そして、瞳の輝きがレーザーとなって人魂を貫いた。


「───!?」


 人魂はレーザーが放たれた後、撃ち抜かれた事に気がついた。理解が追い付いた頃には、炎の身体は完全に灯火を消した。


「今のは…?」


「あのゴーレム…と言うより、ロボットの力はわかったよね?あれで魔物の数を間引きながら、孤立した奴を奇襲で狩るよ。」


「なるほどっ!」


 メイカがロボットと呼んだゴーレムは、目立つ様に白メインで作ってある。それもあってか、地球で流行っていたロボットアニメの様になっている。


 それから魔物はロボットに任せて、二人は魔物を狩るためにさらに森の奥を目指して歩き始めた。

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