黄昏の挽歌

西山鷹志

第1話 解雇されるも妻に言えず

 夕闇がせまる街の公園はやがて日が落ち、薄暗い蛍光灯の灯りが落ち葉を照らす。 

  秋風に吹かれて時々、木の葉が舞う風景をジッと男は眺めていた。

 年の頃は四十五歳前後と思われるが、なぜかベンチに座ってボーとしている。

 「枯れ葉か……俺とおんなじだな」 男はそう呟く。

 先程から何度も携帯電話を取り出しては、またポケット仕舞う仕草の繰り返しだ。どう見てもサラリーマンのようだが、憔悴しきった顔に哀れみが漂う。

 その男は吉原義則四十六才、某商事会社に勤める係長だった。

だったと、過去形が付く。吉原は会社を本日付けで解雇された帰りの事である。解雇予告は一ヶ月以上も前に言い渡されていた事だが、その事を家族には切り出せなくて今日の日まで隠し通して来た。しかし其れもお仕舞だ。明日からは就職活動をしなくてはならない。妻になんと言って説明すれば良いのだろうか。吉原は妻の優子と小学四年生の友則と三人で古いマンションに住んでいる。

 古くても家賃は十二万円もする。貯金だってそうある分けではないし途方に暮れるのも無理のない話しだ。


 いつものように、ただいま! お帰りなさい。その会話が交わされるだろうか。妻はすぐに自分に何かあったと見抜いてしまう。その前に電話をして事の次第を伝え、妻へ少しで負担を和らげるべきか。

 家に電話を掛けようか迷っていたその時だ。携帯電話の呼び出し音が鳴る。相手は妻の優子だ。躊躇いながらも受信をオンにする。

 「貴方、いま何処にいるの……長い間お勤めご苦労様でした」

 「えっ! どういう事?」

 「馬鹿ね、貴方と結婚して十五年よ。隠したって分かるわよ。大丈夫心配しないで私も働くから、ゆっくり休んで。早く帰って来て。今夜の夕食は貴方の好物を用意してあるわ。それとも……」

 なんと、優子は全てお見通しのようだ。しかもなんとも温かい言葉だ。

 妻がパートに出ても、たかがしれているが、その気持ちが嬉しい。

 妻は最後に付け加えた言葉は。

「それとも……今夜は好きなだけ飲んでらっしゃる、それで気が紛れるなら」


と。いや、そうと分かったら一刻も早く家族の顔を見たい。仕事を失っても優しい妻と子供がいるのだと。

 そして今夜だけは妻の胸の中で思いっきり泣かせて貰う。

 おそらく妻の前で泣くのは最初で最後であろう。

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