桃の節句のオーパーツ ~恋する娘は雛人形を追い駆ける~
弥生 知枝
第1話 巫の末裔 御神楽 桜
どたどた、ガラン、がた、ごとん
凄まじい音を響かせて、桜は雛段を駆け上った。
(なんでこんなバカバカしいことしなきゃいけないのよ!?)
桜の雛人形はちょっとばかり変わっているのだ。
何代も前のご先祖様から連綿と受け継がれている――――――
とても厄介な代物だった。
桜がその由緒正しい雛飾りを受け継いだ発端は、一昨日の
「桜。ママももう年で、お雛様の相手をするのはちょっと厳しくなってきたの……。桜も年頃になったし、そろそろ任せたいのよね」
これまで毎年、歌を
「お雛様ったら、しばらくは落ち着いていたけど、やっぱり年頃の娘が居ると嗅ぎ付けちゃうのよねぇ」
だから、そう言って深い溜め息を吐いたママに、つい桜は言ってしまったのだ。
「なら、わたしがやろうか?」
スマホをいじりながら聞き流しつつ返事をした桜は、ママの言葉に隠れる奇妙な引っ掛かりを無視してしまった。雛飾りを出すのに「落ち着く」もおかしいが「嗅ぎ付ける」など、使うはずもない言葉が紛れていたのに。
それこそ、後の祭り。ひな祭りの始まりとなったのだ。
「ふっざけないでよぉぉぉーーー!!」
雛飾りを舞台に、桜の雄叫びが由緒正しい御神楽家の広大な屋敷に響き渡ることとなったのである。
◇◇◇
神々を畏れ敬い、祈りや感謝とともに歌や舞を捧げた歌舞は、科学よりも神力や信仰が力を持っていた数百年前の世では、神々を迎えもてなす神事のうちでも最も重要な位置を占めていた。
けれど文明の発達に伴い神事、祭事が廃れて行く中、御神楽家でも稽古や修行と称した先達による技能の伝承は途絶えて久しくなってしまった。
ただ、由緒正しい家には相応の調度が伝わっているのだ。桜がうっかり引き継いだ「雛人形」のように。
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