第四夜(3)
玉――それはDSWにおいて特別な称号。
人類の秘密兵器とも呼ばれるその者たちは圧倒的な実力を持つ。
玉になる条件は二つ。
一つは、玉というモノに似合う活躍をした者に。
これは称号や勲章のイメージが強い。
しかし、玉という称号を得るのは決して容易ではない。
それこそ、同時に剛の称号を持つ天禍を討伐した――などのそんな例外のみが対象となる。
もう一つは、他の玉を除くすべてのDSWの戦闘員を上回ること。
そして現存する玉、十一名のうち八名はこれに値する。
故に秘密兵器。
故に人類最後の砦。
弾丸が飛び交う中、ルカン・シュトラールら三名は下がりながら戦闘を行っていた。
ルカン・シュトラールは銃を撃ち、近づいてくる堕者を刹那と沖田が牽制する。
「……時間稼ぎもいい加減にしたら?…正直、第一等級だったら――もっと連れてきた方がいいと思うけど?」
堕者は自身を取り巻くように展開される弾丸を全て撃ち落とし、嗤う。
ルカン・シュトラールも沖田も何も言わない。
戦場に、不似合いな静けさが訪れる。
「ねぇ、軽い問答くらい交わしてくれない?あたし、あまり我慢強い方じゃないんだよね」
「問答ね。こっちとしちゃ、それも悪くないんだが」
この状況下で飄々とする彼は堕者の目算以上に強いのだろうか。
――いや、それはない。
もし、本当に強いのならこの状況を膠着に持っていくはずがない。
つまり、堕者が動いた瞬間こそ相手にとっての――
――ゲームオーバー
撃つよりも早く、ソレは駆けた。
地を蹴り、影が残る。
だが、ルカン・シュトラールも沖田も動こうとしない。
刹那だけは迎撃を考えたが、沖田がそれを制する。
――瞬間、世界が割れた。
いや、正確には一部分だ。
一方向だけ、不気味な建物も、数多いた天禍も――消えた。
違う。
消えたというよりもこれは塵と化したと表現した方が正確だろう。
まるで最初から何もなかったかのように。
堕者の動きが止まり、そして哂う。
「あ~、そゆことね」
そして堕者はそこでルカン・シュトラールの意図を知った。
この戦いにいる玉は二人。
そして、第一等級は六人。
堕者はここにいる第一等級以上の隊員を全て把握していた。
だが、ルカン・シュトラールは例外だ。
それは即ち、――
「あなたが、十栄神?」
人類もDSWも馬鹿ではない。
だからこそ、玉の派遣は――特別な事情がない限り、迷うことなく行われる。
ゴシック風の衣装にクマのぬいぐるみを抱いた少女。
十一人の玉。その一人。
◇
「ギアス・
大気が唸り、魔力の奔流が走る。
「愚かなる試みよ。その術、我が前では何の意味も成さぬ」
ミクトラは冷ややかに言い放つ。
その声音には怒りも嘲りもなく、ただ確信だけがあった。
狐々露は理解していた。
目の前に立つこの存在は――十栄神。
神を名乗る者が、いかなる高みに立っているかを。
鳴鬼と竜玖が死角から一斉に攻撃を仕掛けた。
だが――
刹那、彼らの武器は空中で霧散するように溶け落ちた。
「なっ…!?」
特製の魔工武器。
特殊な金属と魔者による術でできた武器。
それが一瞬で無に帰すなど、ありえない。
「竜玖!」
竜玖がミクトラの掌に収まる。
握ると言うよりも空間を圧縮しているかのような超常的な力。
竜玖の身体は軋み、悲鳴を上げる。
陽彩が負けじと術式を展開し、鳴鬼を援護する。
だが、援護を受けてなお鳴鬼ではミクトラはビクともしない。
ミクトラはただ立っているだけだと言うのに。
若菜と真名は天禍に妨害され、現在はとある理由で別行動中の
「がぁっ…はっ…!」
肋骨が折れた音が、耳の中でこだまする。
吐き出す息が血の味を帯びる。
圧倒的な差はまさしくまっすぐと佇む壁のよう。
だが、鳴鬼は折れない。
彼は剣を取った理由を忘れてはいなかった。
力に呑まれた過去。その悔い。その恐怖。
――もう二度と、繰り返さないために。
――鳴鬼のもつ異能『鬼』。
それは観測史上類を見ない特殊な異能。
身体の変化などの生易しいものではない。
ただひたすらにただ暴れるナニカと化すわけでもない。
そもそも『鬼』とは古の創成神話に登場する神にも等しい種族。
そのあり方に鳴鬼の異能が似ていたから名付けられた。
人と神の中間の存在とも、異端とも語られた存在。
だが、今の鳴鬼はまだ影に過ぎない。
「悪いな負けるわけにはいかねぇんダ」
その言葉に、ミクトラの眼がわずかに細められた。
「……汝がいち早く見出すとはな」
骨が軋む。
爪が伸び、角が隆起し、体躯がさらに大きくなる。
まるで、枷が外れたかのように。
身体の奥で何かが砕け、解放されていく感覚。
これまで使っていた異能は、わずか一割以下。
鳴鬼はそれを理解したうえで、鍵を外す決断をした。
──これは、自壊と背中合わせの賭けだ。
それ以外に抵抗する手段は残っていなかったから。
武器も、術も、通じぬ相手に、ただ一つ届く可能性があるのは、この異能だけ。
竜玖と狐々露の異能は、まだ眠っている。
だが、鳴鬼は目覚めさせた。自らの意志で。
「鳴鬼…?」
陽彩の声が震える。
それは恐怖などではなかった。彼女は知っていたのだ。
鳴鬼が普段通り冷静であれば、このような判断はするはずがない。
――今の鳴鬼の心にあるのは勝つという意思のみ。
仲間の安否も、未来も、全てを振り捨てた先の、覚悟。
だが、その瞬間だった。
「…はい、ストップ」
鳴鬼の
鳴鬼の意識が闇に落ちる。
「まったく。後先考えずやるから二の舞になるんスよ…」
そこに立っていたのは、
DSWが誇る玉の一人。
風のように現れ、瞬きの間に戦況を変える者。
その背に、漆黒の風が舞っていた。
◇
黒い影がうねる。それはまるで意思を持つ鞭のように地を走り、襲いかかる。
しかしその全てが、刹那にして布切れのように切り裂かれた。
「……いい加減、その煩わしい戦い方をやめてくれないか?」
彼女の名はレイア。DSWの戦闘員の中でも玉にまで上り詰めた古参の一人。
その鎌を持つ姿は、まさしく死を振るう死神のようだった。
「残念だけど、これがボクの戦い方でね。それに──相性が悪い。君はボクの影を斬れるようだしね」
対するは十栄神ラダムス。
彼の周囲には、影が陣を組むかのごとく張り巡らされていた。
「そもそも、ボクは反対だったんだ。ああいうのは柄じゃない」
「でも、今ここにいる。それが答えだろ?」
レイアが駆ける。
音を置いていき、世界を斬り伏せる鎌がラダムスを正面から襲う――が、黒い影がその軌道を狂わせた。
──ジリ貧だな。
レイアがそう思うのも無理はなかった。
初撃で仕留められたならどれだけよかったことか。
だが時間が経つごとに影は学習し、より深く、より速く彼女の動きに対応してくる。
反撃の精度も上がっている。影は防ぐだけでなく、捕え、削る。
まるで彼女の思考すら先読みしているかのように。
「──長期戦は不利か」
ぽつりと漏らす。
だが、それは冷静な現状把握にすぎない。
「なら、諦めてくれないか?君は吸血鬼だろう。幸い、吸血鬼で試したことはないんだ。できれば、サンプルは無傷である方が好ましいし、ね?」
ゾクりと背筋を悪寒が走るも、レイアは鋭い眼差しで打ち消す。
ラダムスの言う通りレイアは世にも珍しい吸血鬼…されど、好きにされる道理はない。
「…趣味が悪い。悪いが、断らさせてもらう」
今の彼女にあるのは、ただどう殺るかだけ。
血の奔流が禍々しい魔力と混じり合う。
その身は吸血鬼。
血を操り、
その姿を、かつては誰かが血の魔王と呼び、また誰かは忌避した。
だが、その力が純粋な力として一つに収束させられる。
ラダムスが何かを察知し、影を厚く展開する。
「
紅蓮の奔流が、空間すら断絶するかのように走り抜けた。
一秒にも満たない。されど、圧倒的な速度と破壊力で影ごとラダムスの首を断ち切った。
だが、──
「驚いた、まさか玉がこれほどのモノとはね」
──声が途絶えることはなかった。
レイアの目が細められる。残された胴体を斬り刻むが、それでも声は止まらない。ラダムスは喋り続ける。
「ボクはね。真正面から戦えば弱いんだ。それこそ、十栄神の中で最弱だろうさ。でも、何でもアリなら…結構、自信があるんだ」
黒い影が地面からせり上がり、レイアの脚を掴んだ。その感触は、まるで底なし沼。
「く……!」
今までの影とは違う。殺意も、質も、密度も段違い。
レイアの自由が、刻一刻と奪われてゆく。
誰もが思う。これで終わりだと。
勝敗の天秤は、ラダムスに大きく傾いていた。
そこで、ラダムスは異変に気が付いた。
レイアがラダムスも知らないように。
彼もまたレイアを知らなかったのだ。
視界すら覆うほどの、爆音。
輝く魔力は、赤を超えて黒に近づくほど濃い。
魔力が、赤が、血が、勢いを上げてラダムス目掛けて放たれる。
「……っ!?」
ラダムスの目が大きく見開かれた。
血の奔流が、天へと息吹を上げる。
「奇遇ね。私も捕虜じゃなく殺してもいいなら、結構自信がある。」
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設定集的なヤツ
吸血鬼について
世界的に珍しい種族。
親が仮に吸血鬼同士でも吸血鬼の子供が生まれるとは限らない。
せいぜい、確率が高い止まり。
吸血鬼が生まれるのは一定の条件が合った状態のとき5%くらいの確立で生まれる。
ソシャゲかな?
創世神話について
この世界の成り立ちについて書かれた神話。
いつ、だれが、どのように書いたのか何もかも不明ではあるが、世界のいたるところで似たようなモノが書かれていることから実話の可能性が高い。
──この世全てが混沌であるとき、始めに二柱の神が生まれた。
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