マイクロビキニ 〜低身長ボーカルの場合〜



 わたしにとっての一番の仲良しは、やっぱりあかりだろうか。

 あかりが着てたら嬉しい服、か。


 正直、何着てもあかりはサマになっちゃうからなあ。

 素材が良いので、どんな料理をしても美味しくなるのだ。


 そこにギターやベースなんて持たせようものなら、もうそのまま雑誌の表紙になりかねない。

 幼馴染というひいき目無しに言っても、かなり高レベルだろう。



 わたしは少し背伸びして、向こうのお店に視線をやる。

 ちょうどさっきみたいに、あかりが更衣室の前にいるのが見えた。

 今頃あかりは、選んだ服を美弥ちゃんに着せて楽しんでるはず。

 時折スマホに通知の振動があるのは、あかりが美弥ちゃんの写真を撮ってわたしに送りつけてるのかもしれない。

 それに壁の向こうにいる誰かに抱きついてるような動作もしてるけど、あれも美弥ちゃんに……?


 全く、あかりを好きな学校の男子とかが見てたら、うらやましさのあまり美弥ちゃんが責められそうだ。もちろん美弥ちゃん自身に、自分が愛されてる自覚は無いわけだけど。



「ん、どうしたの彩ちゃん?」

「いや、わたしと仲良しってなると、やっぱりあかりかなあって」


 桃ちゃんから見ても、あかりはモテそうな陽キャに見えるのだろうか?

 まあ、桃ちゃんの好きな人があかりでないというのは本人が言ってるから事実だろうけど。


「そうか、あかりちゃんぐらいの魅力がないと、彩ちゃんはなびかないのかー」

「そんなことないよ!?」


 どうしてそうなる。


 桃ちゃんが好きな子は女の子みたいだけど、わたしは特に女の子が好きとかそういうのはない。別に男子を好きになったこともないけれど。


「冗談だって。でもあかりちゃんがどういう感じで服選んでるのかは気になるなあ。さっきも私に選んでくれたけど、ちょっと私じゃ思いつかない組合せだったし」

「まあそのへんはわたしも知りたいかも。あれで実は結構適当だったりして」


 音楽同様、服選びもあかりは天才肌なのかもしれない。

 もし桃ちゃんが好きになった人も、同じように感覚的で適当なところがあったりしたら、桃ちゃん苦労しそう。



 あっ、そうだ。

 こういう聞き方はありかな。


「桃ちゃんが好きな人って、誰に似ているとかあるの? 頼りになるタイプ、とか」

「それは……」


 スカートを選んでいた桃ちゃんの視線が、こっちの方を向いたあと、しばらく宙をさまよう。



「目標に向かって、頑張れるタイプ……かな」

 ややあって、桃ちゃんの答えた声は、少し小さかった。

 

「自分がはっきりと、これがやりたいってのがあって、そのために一生懸命なところ。自分のためや、みんなのために優しくできて、その中で頑張っているところ」

 前に教えてくれたのと近い。

 話だけ聞いてると、その人は普通にいい人だ。


「で、桃ちゃんはその人を、やっぱり応援とかしたいの?」

「う、うん。助けたいし、もっと一緒にいたいな、って思ったし、その、お近づきになりたい」


 やっぱり言っていて恥ずかしいのか、顔を両手で覆う桃ちゃん。



「ねえ、彩ちゃんはどんなタイプが好きなの?」

 と思ったら、逆に質問してきた。

 今日の桃ちゃん、ちょくちょくわたしのことも聞いてくるな。何かの参考にしたいのかしら?


「わたしは……」



 うーん、考えたこと無かったなあ。

 そのうちわたしも恋をするのだろうとぼんやり思ってはいるけど、具体的には何も考えていない。

 それに今は、恋よりもライブがしたいのだ。


 そのためには、メンバーの悩みをなるべく取り去っておかないと。



「わからないな、わたし。それこそ、あかりのせいでハードル上がってるかも」


 そういえば、そのあかりはどうだろうか。

 なんだかんだわたしと桃ちゃんが別れてから20分ぐらい経っているが、美弥ちゃんとの時間を楽しんでるだろうか?


 わたしはスマホを取り出す。

 案の定、あかりから画像が送られてきていた。



 ……!


 こ、これは、さすがに……



「あっ、彩ちゃん?」


 わたしは元いた店に戻る。



「いやあ、かわいいよ美弥ちゃん!」

 そして、パシャパシャ写真を撮っているあかりの腕を後ろからつかんで止めた。


「ちょっと、彩?」

「これはやり過ぎ! 美弥ちゃんも、嫌だったら断って良いんだよ?」

 わたしは更衣室の中で立っている美弥ちゃんに目をやる。



 そこには、ほとんど布面積のない黒いマイクロビキニだけを身にまとった美弥ちゃんがいた。


 電車に子供料金で乗ってもお咎めなさそうなぐらい小さな身体の美弥ちゃんが、雑誌の水着グラビアでも無さそうなレベルの際どすぎる水着を着ている。そして、それを撮影しまくる大人みたいな高身長のあかり。



 警察を呼ばれてもおかしくない光景である。


「え、でも、美弥こういうのって全然着たことないから、ちょっと新鮮というか」

「着たことないって――え! ちょっと! あかりちゃん!」


 追いついてきた桃ちゃんが美弥ちゃんを見るやいなや、語気を荒げる。


「ダメだよこんなの! 彩ちゃんの言う通り! 美弥、無理しなくて良いんだからね? こんなの私、頼まれたって着ないよ」

 そのまま更衣室のカーテンを素早く閉める桃ちゃん。


 でも、美弥ちゃんはそのカーテンのすき間から、顔だけこっちに覗かせて言ってきた。

「だけど、桃。美弥だって、その、色々着てみたいんだよ」

「……へ?」


「美弥は、桃やあかりちゃんみたいに身体が大きくないから、せめてその……こういうところから、アピールしたいなって」


 消え入りそうな小さな声だけど、でも真剣な美弥ちゃんの目つき。


「いやそうだとしても! これはさすがに美弥には似合ってないよ! そう、例えばさ、これが似合いそうなのは」

 桃ちゃんが、ちらりとわたしを見る。



 ――ってそんなわけ無いでしょ! 貧相なわたしの身体になんて仕打ちを!


 と思いかけたけど、いや違う。

 桃ちゃんは、わたしが腕をつかんだままのあかりを見てるんだ。



 まあ、だよねえ。


 正直、この際どさの水着をあかりに着せたらどうなるのか思ってしまった自分がいる。

 ちょっと見てみたい自分がいる。



「よし、あかり。美弥ちゃんに変なことした罰よ」

「えっ、なんで、美弥ちゃん別に嫌がってないじゃん」

「だけど、あかりが変なことをしてたのは事実! 店員さんが困ってるし!」


 そう。

 あかりやわたしの声を聞いたのか、さっきから店員や他のお客さんがちらちらとこっちを見てくるのだ。


 と、あかりはわたしの方に顔を寄せてきて小声になる。

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