ガールズバンドなのに他のメンバーに片思いしてる子が複数いる件
しぎ
1 絶対にバンド解散なんてさせない
ギタリストからの恋愛相談
「私、好きな人がいるの」
「好きな人……え?」
急に言われた言葉にびっくりして、わたし――
ここは騒がしいライブハウスのロビーだ。聞き違いかと思ってしまう。
でも、バンド仲間の
「あっ、信じてない? 本当だよ? その人が頑張ってるところ見ると、なんだかドキドキしちゃうというか、自分の目標や、私たちのためにしてくれてるんだって思うと輝いて見えてきて」
そう言ってメモ帳を置き、遠い目になる桃ちゃん。その好きな人とやらのことを考えているのだろうか。
「そうなんだ、誰なの? わたしの知ってる人?」
「えっと、まあ、そうかな」
桃ちゃんの顔がさらに赤くなる。
これはどうやら、本当に恋愛的な意味での好き、のようだ。
言うのが恥ずかしいのかな?
でも聞けるものなら聞いときたい。せっかく桃ちゃんが話してくれたのだから、わたしもできるだけ把握しときたい。
「誰? わたしも知ってる人、ってことは学校の人じゃないよね」
ガールズバンド『カサブランカ』の仲間で、学年も一緒だけど、わたしと桃ちゃんは高校が違う。
桃ちゃんの学校の男子とか、先生とかのことはわたしには全くわからない。
とすると、バンド活動の中で知り合った人のはず。
「鈴木さん? それとも山田さん?」
今わたしたちがいるライブハウスのスタッフなんかどうだろう。どちらも、わたし含むバイトの子からとても慕われているお兄さん的存在だ。
「違う」
しかし、桃ちゃんは顔を赤くしたまま横に振る。
「じゃあ、誰だろう」
あれ。
わたしたちの共通の知人である男性が、他に思い浮かばない。
わたしと桃ちゃんを引き合わせた、このライブハウスのオーナーさんとかは女性だし、そのせいなのかバイトの子も女子ばかりだし。
いや、待てよ。
ある可能性に、わたしは思い当たる。
「――もしかして、女の人……?」
おそるおそるわたしが言うと、桃ちゃんの普段優しい目が一瞬大きく見開かれた。
「……うん。そう、だよ」
そしてゆっくりと、今度は首を縦に振る桃ちゃん。
うーん、そうだとすると候補は一気に増える。
さっきも言ったように、共通の知人である女子は多い。
それどころか、もしかしたら。
「あかり?」
「違う」
「
「違う」
桃ちゃん以外のバンド仲間の名前を上げてみたが、桃ちゃんは否定する。
良かった、その可能性だけはまず潰しておかないといけない。
もしそうなら、今よりもっとややこしくなってしまう。
「そしたら……誰?」
「えっとね、いつも一生懸命で、私やみんなに対してとても親身になってくれて、でもちゃんと自分のために色々行動できる人、かな。私、そういう人が好きなの」
むむ、誰かは教えてくれないらしい。
「えー、そんな人、桃ちゃんじゃなくても好きになっちゃうかも、だよ?」
「やっぱりか……あ、じゃあ、これから色々、
「あっ、もちろん。バンドメンバーの悩みはなるべく解消しとかないと、練習にも支障が出るかもだし」
だったら誰を好きか教えてほしい、と言いかけたのを我慢する。
念願だった自分たちのバンドを結成して2ヶ月ちょっと。
人間関係とかの事情で、せっかく集まったメンバーを別れさせたくはない。
だからわたしは決めている。
メンバーの困りごとはちゃんと聞いて、解決させていくんだと。
それに、桃ちゃんに好きな女の子がいるって聞いて、そんなに驚いてない自分がいる。
何しろわたしの周りには、そういう子が他にもいるし。
「桃ちゃん、先に来てたの?」
おっと、そんなこと言ってたら他の女の子がやってきた。
「あっ美弥ちゃん、今日は早いね?」
「美弥おつかれー」
桃ちゃんの声にぱっと顔を輝かせたのは
「うん、暇だったからちょっと早く来ちゃった。2人は何の話してるの?」
「あ、彩ちゃんに曲でわからないところ聞いてたんだよ」
美弥ちゃんがササッと桃ちゃんに寄ってきてぴったりとくっつく。
幼馴染の2人はいつもこんな感じで、とても仲良さそう。
わたしはふっと思って、桃ちゃんのスマホにメッセージを送る。
『さっきの話って、美弥ちゃんにはしたの?』
『ううん。これは私の問題だから、美弥には心配かけたくないんだ』
すぐ返事が返ってくる。
その一方で、美弥ちゃんはいそいそとカバンからスコアを取り出す。
「あっ、美弥も歌いにくいところあったんだよね……彩ちゃん、聞いて良い?」
「いいよ、どのへん?」
「えっと」
小さな手でスコアの1か所を指差す美弥ちゃん。
普段は声の小さい美弥ちゃん、ライブハウスのようなうるさい場所では注意深く聞き耳をたてないと聞こえてこない。
『ほら、美弥って慌てがちというか、オーバーなところがあるから、あまりデリケートな話をしたくないの』
と、桃ちゃんからスマホにメッセージの続きが来た。
――桃ちゃんなりに、美弥ちゃんのことを考えているということか。
確かに、桃ちゃんに好きな人がいるって、美弥ちゃんが知ったら。
わたしは平静な顔を装って、美弥ちゃんの示したところを眺める。
「ああ、ここかー。ここギターも難しそうだよね。全くあかり、自分ができるからって」
わたしたちが演奏する『カサブランカ』オリジナル曲は、すべてメンバーの1人・
ドラム担当のわたしとベース担当のあかりは保育園からの付き合い。両親とも音楽教室の先生だけあって昔から楽器に触れてきたあかりは、難しい奏法もこともなげに弾きこなしてしまう。
その代わり、他のメンバーにも高いレベルを要求しちゃうのだけど……
「難しいけど、ギターがどんどん上手くなっていって楽しい」
「そう? 美弥ちゃんギターは初心者なんだから、無理しないでね」
「大丈夫。何かあったら、桃にも聞くし」
桃ちゃんに身体をすり合わせながら、少し上目遣いになる美弥ちゃん。
大きなくりくりした目は、普段は前髪に見え隠れして目立たないけど、時折はっとするほど可愛らしい。
「私? でも私も正直ちょっと苦戦気味で……」
「そうなの?」
「あ、大丈夫だよ美弥。心配だったら相談して? 美弥を誘ったの私なんだし」
美弥ちゃんの顔が、これ以上ないほど満面の笑顔になる。
この美弥ちゃんからも、わたしは相談を受けちゃってる状態なのだ。
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