嫌われ者異能者は旦那様に溺愛……されている? 壱

もも(はりか)

第1話 姉妹

 後賀葉月ごがはづきは基本的に無愛想だ。

 毒舌で皮肉屋で、慇懃無礼だといわれて人から嫌われる。

 

 今日も、井戸を作るから水脈を探してほしいといわれて「そんなの異能がなくてもできるでしょう」と一蹴したら、村の人々に袋詰めにされてしまった。


「わかりました、水脈を探すから出してください!」


 そういって袋から出してもらうと、葉月は井戸を掘る予定地の地面に手を当てた。

 水の流れを感じるかどうか確かめてみる。


「この場所にはまーったくありませんね。残念。みなさんって馬鹿なんですか?」


 そういうと、葉月はまたもや村人から睨みつけられた。


「……わかりましたよ。探しますから」


 はあ、と葉月は肩を落とした。家に帰って本を読みたいのだが。

 村人からの冷たい視線を浴びながらあちこち村の中を巡り、ようやく村の外れの古びた寺の近くに水脈を感じた。


「ここですね」


 そういうと、葉月は村人たちから「こんな怖いところに井戸なんて作れるか!」とまたもや袋叩きにされた。



 後賀ごが家は異能の持ち主を輩出する名門。葉月はその家の姉妹の妹のほうで、水の異能を持つ。水を操り水脈を見つけることができる。反面気むずかし屋で毒舌。皆の嫌われ者だった。

 一応実力はあるので村人から頼りにされるが、村人からのあたりは強い。


(だけど、村人たちと接してたほうがまだマシってところですかね)


 依頼のあった村から一里ほど離れた街へと帰る。

 交通の要衝で賑わう大きな街で、その街の真ん中に非常に大きな門構えの豪壮な屋敷がある。


 後賀家。葉月の家だ。


 そろりと家に戻ると、華やかな笑い声が聞こえる。

 廊下を伝い、その笑い声の元をたどる。少しだけ障子を開けると、化粧をしっかりとしたあでやかで華やかな美女が猫を抱きながら大笑いしている。


 姉の美月みづきだ。次期後賀の当主と目される女性。強い火の異能の持ち主で教養豊かな女性だ。

 障子を閉めてすぐに自分の部屋へ引っ込もうとした。だが、侍女が後ろから追いかけてくる。


「葉月様。お戻りだったのですね。美月様がたいそうお怒りでいらっしゃいますよ」


 葉月は俯いた。今度は何をいわれるのだろう。


 姉は錦の座布団に座り、真っ赤な紅を引いた唇でにっこりと微笑んだ。


「ねえ、葉月。美月がどれだけ怒っているか、何に怒っているかわかる?」


 教養豊かではあるが、姉から知性は感じない。


「……申し訳ございません」


 さっぱりわからないので、頭を下げてすべて済ませることにする。

 すると扇子が飛んできた。右肩にどっと当たり、ずきりと痛んで肩を押さえる。


「村人は慈しみなさいとなんども言っているでしょう!?」

「申し訳ございません」

「ああいう恵まれないかわいそうな人達はね、笑顔を振りまいて同情する仕草さえ見せればいいのよ! それをあんたのその可愛げのなさでいらぬ波風ばかり立てて……」

「……」


 姉は立ち上がり、近くにあった花瓶を手に取ってその瓶に生けてあった水仙で葉月のうずくまる背中を何度も叩いた。


「可愛くない……可愛くないわ本当に……あなた本当に美月の妹かしら……」


 すると、するするという衣擦れの音がして、中に女性が入ってきた。

 後賀紫乃しの。葉月と美月の母親だ。

 紫乃は姉妹を見ると、美月のほうへ寄り、頭を撫でた。美月は母の胸に甘える。


「どうしたの、美月」


 すると美月は頬を膨らませた。


「葉月が村人をいじめたのだそうです、母上」


 葉月は村人に無愛想な態度は取ったがいじめてなどいない。袋叩きにしたのは村人の方だ。


 紫乃は葉月の言い分は一切聞かず眉を曇らせ、ため息をついた。


「あなたはどうしてそういうことをするのかしら。育て方を間違えたかしら……」


 葉月はずきりと胸が痛んだ。

 母は常に姉のいうことばかり聞く。


 それはたしかに愛想が良くて明るく「素直」な姉と、ひねくれていて皮肉屋な自分、どちらの言うことを聞くかと言ったら前者だろうが、親子だろうに。

 頭を下げながら「申し訳ございません」を繰り返す。



 あくる日、葉月は村人たちに棒切れでびしばし叩かれながらくだんの寂れた寺へと連れて行かれた。


「とっとと井戸を掘れ」


 ふう、と葉月はため息をつき、村人を睨めつけた。


「態度悪いですねぇ」

「お前ほどじゃねえ。また袋詰めにすんぞ」


 右手を地面に当て、槍で突き通すように、ずっ、と地面に穴を開けていく。

 すると、こぽぽ、という音を立てて水が湧いた。


「はい、湧きましたあ」


 村人たちがほっと安堵のため息をついた。

 女たちが「お疲れさん」と葉月に菓子をくれた。


「……」


 どう見ても腐って異臭を放っている芋だ。食べてもいいのだろうか。お腹を壊さないだろうか。


「あのですね、これ」


 そう言いかけると、駕籠が通りかかった。

 駕籠から大笑いしながら人が出てくる。

 飄々としたふうな男性だ。わりと端正な顔立ちをしているが、爆笑がその端正さを台無しにしている。

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