第9話 あの子と似ている緋山さん
翌日、無事テストは終了。と言っても、古文は半分も点数取れてれば御の字かも…。
とりあえず部活も再開は明日からだし、今日はもう帰ろうかと思っていると、
「テストお疲れ」
「拓斗、お疲れ」
「なあ、ちょっといいか?」
「いいけど、どうした?」
「帰り、ちょっと付き合えよ」
なんだかいつもと違い、不機嫌そうだ。
「分かったよ」
「じゃ、行くか」
教室を出て学食に行き、自販機でジュースを買ってから、二人で並んで座った。
「昨日のこと、聞いたわ」
「昨日のこと?」
「ああ、佐々木さんからな。クラスの奴らが、なんか言ってたんだろ?」
「まあ…うん、そうだな」
「やっぱりまだ、尾を引いてるのか?」
「そんなつもりはないんだけどな」
「嘘つけ。バレバレだ」
やっぱり拓斗には分かるか…
「でもさ、そんなもんじゃないの?」
「波風立てないように、みんなにいい顔して、みんなと仲良く、ってか?」
「それの何が悪いんだよ」
「楽しいか?」
「楽しいよ」
「本当か?」
「嘘ついてどうするんだよ」
「それで誰かが辛い目に遭っても、それでもいいって言えるのか?」
そう言われて、昨日の緋山さんの悲しそうな顔が、脳裏に浮かぶ。
「それは…」
「俺もお前が間違ってるとは言わない。でもな、全部が全部、それでいいわけじゃないと思うぞ」
拓斗は最後に、「よく考えろ」と言い、先に出て行った。
もう温くなったジュースを一口飲み、ぼんやり天井の蛍光灯を眺める。
「分かってる…そんなの分かってる…」
つい、そう呟いてしまった。
何かが間違ってた、っていうのは分かる。けど、何をどうすればいいのか、それが分からない。
(結局、何も分からない、ってことか)
高校に入って、少しは大人になれたように感じてたのに、何も成長出来てないんだな。
それでも、頭の中に浮かんでくるのは、彼女の…緋山さんの顔ばかりだった。
楽しそうに笑ってる顔や、ちょっと拗ねてるような顔、そして、昨日の今にも泣き出しそうな、悲しそうな顔…
そのどれも、どこか既視感があって、懐かしいと思っている自分がいる。
いや、そんなことより、昨日は彼女に悪いことをしてしまった。せっかく俺のために怒ってくれたのに。
そう考えたら、俺は緋山さんと話して、昨日のことを謝りたいと思った。
以前教えてもらったLineに、今通話しても大丈夫かどうかと、メッセージを送る。
でも、すぐ既読になったけど、暫く経っても返事は返って来なかった。
昨日のことで怒ってるのかもしれないし、やっぱり明日話そうかと考えていると、彼女からの通話の着信が。
「もしもし」
「今、何処にいるの?」
「学校の食堂だけど…」
「分かった。今から行くから、待ってて」
そう言って通話は切れたけど、緋山さんの声のトーンは低く、なんだか背筋がゾクッとする。
彼女には嫌な思いをさせたんだろうし、それも仕方ないと思いながら、俺は残りのジュースを飲み干した。
少しすると緋山さんはやって来て、隣の席に腰を下ろす。
「それで、話したい事っていうのは?」
「あの…昨日はごめん」
「それは、何に対して謝ってるの?」
それは、せっかくまた一緒に勉強しようって誘ってくれたのを、俺が断ったからだろう。そう思ってたからそのまま伝えると、
「違うわよ。それじゃない」
「え…?」
「分からない?」
「……」
「あのね、私は別に、昨日箕輪くんが言ってたような、あんなことで話し掛けたり、誘ってたんじゃないの。私は…私は…」
そこまで言って、緋山さんは頬を桜色に染め、少し肩も震わせながら、
「なんで気付いてくれないのよ…ばか…」
「え…」
「も、もう!知らない!」
彼女はそう言って、早足で食堂から出て行ってしまった。それを俺は、ただ呆然と見送ることしか出来なかった。
暫くして我に返り、今のことを冷静に思い返してみる。思い返してみるんだけど、やっぱり思い当たる節が見当たらない。
(俺は何を気付いてないっていうんだ…?)
とにかく、彼女のせっかくの好意を、俺が無下にしてしまったのは事実。きちんと謝って、これまでのように仲良く出来ればと思う。
まだ出会ってから1ヶ月ちょっと。それでも、みんなでカラオケ行ったり、一緒にゲーセンに行ったり。ちょっとドキドキしながら、二人でカフェで勉強したり。
彼女と接して、色んな表情を見る事が出来て、俺は楽しかったし、嬉しかった。それに、妙に懐かしかったんだよな。
(そういえばさっきの…)
さっきの、頬を膨らませて拗ねてるような表情と、最後に言った「もう知らない」という台詞。このやり取りで、懐かしく感じた理由に思い当たる。
それは、引越して行ってしまったあの子、かえちゃんだ。
かえちゃんと喧嘩すると、いつもあんな顔で「もう知らない!」と言って、泣きながら怒ってたっけ。
そういえば緋山さんって、確か名前、楓だったよな。かえちゃんのかえって、もしかして…
はは…まさか…ね…
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