第2話 THK
「ちょ、ごましお、本気で言ってる?」
何が楽しくて友達の誕生日にトイレの花子さんを呼びださないといけないのか。
「へへ~。たくあんが学校で誕生日会やろって言った時に、私ひらめいちゃったの!せっかく学校に来るんだから、学校でしか出来ないことやりたいって。しかもさ、ここ3階でしょ?花子さんが出るのって、3階の女子トイレなんだよ!もう絶対やるしかないって!」
「確かに学校でしか出来ないけど、やっちゃまずいでしょ。花子さんて呼び出した瞬間こっちを殺しにくるじゃん!」
「え?花子さんって正義の味方でしょ?悪霊を退治する……」
「それは『花子さんが来た!』ってアニメでしょ!」
「でも、私が小学校の時聞いたのは、花子さんを呼んで、一緒に遊んだらいつの間にかいなくなってるって話だもん!あと会えたら幸運になれるって!」
「それ座敷童子!」
「二人とも、少し落ち着け。」
ぎゃあぎゃあ言い合っていた私とごましおの間に、トリモモが割って入る。
「ごましお。」
「うん。」
「学校ならではというアイデアは素晴らしいぞ。褒めて遣わす。」
「うん。」
「だが……この学校に花子さんがいるか確認したか?現れなければ私がプレゼントを受け取れんではないか。」
「いや止めないんかい!」
ずっこける私。その横で、しまった!という顔で慌ててトイレの一番奥まで走るごましお。
「ちょっと今確認するね!」
「いや今やっても意味無いだろてか止めろ!」
ごましおがドアを3回ノックする。コンコンコン。
「は~なこさんっ、あっそび~ましょ!」
…………。
何も起きない。
「うう……。いなかったぁ。」
ドアの前でへたり込むごましお。私はほっとしつつ、ごましおの側に行って肩を叩く。
「プレゼントがぁ……。」
「まあ、明日3人でイオン行くから、その時こっそり買いなよ。さ、教室戻ってケーキ食べよ!トリモモも!」
「……。」
「トリモモ?」
無反応のトリモモに、私とごましおが声を掛けようと近づく。と、その体越しに見えたのは。
「は」
「花子さんーーー!!!!」
トイレの入り口に立つ、小さな女の子。ちょっと伸びたぱっつんの前髪から、黒い瞳が覗いている。
「うわあああごめんなさい呼び出してごめんなさいどうか命だけは!」
「来てくれてありがとう花子さん!早速だけど一緒にお菓子―」
「たわけ!落ち着かぬか二人とも!」
正反対の反応をする私達2人に、トリモモの
「よく見ろ。この子は花子ではない、『ひなこ』だ。」
「ひなこ?」
トリモモが手で示したのは、女の子の胸元。「あらき ひなこ」と書かれたチューリップの名札を付けている。よく見たら、確かにおかっぱだけど、服装は幼稚園とかで見るスモックだ。腕に紋章っぽい刺しゅうもある。
「私の臣下がすまなかった。許してくれ、プリンセス。」
トリモモがかしづき、ひなこちゃんの手を取る。ひなこちゃんの頬がぽっと赤くなった。
「私はトリモモ。見ての通り王子だ。プリンセスは、どうしてここにおられるのかな?」
「……今日は、ひなのお祝いなの。だから、ゆりちゃんを呼びに……」
ひなこちゃんはもじもじしながら小声で話す。
「ゆりちゃんって、この学校にいるの?」
「……。」
「ひなのお祝いってことは、ひなこちゃんもお誕生日~?」
「……。」
私とごましおの問いに、ひなこちゃんはうつむいてますますもじもじする。どうしよう、と二人で顔を見合わせた時、
「そうか。今日はひな祭りだからな。」
トリモモの言葉に、ひなこちゃんはぱっと顔を上げた。私とごましおも膝を打つ。
「ごましお。花子さんとひな祭りパーティーをするのが私へのプレゼントだったな?菓子の準備は」
「はい!先ほどのお菓子とは別に、ちゃ~んと用意しました!」
「よろしい。さあプリンセス、お手を拝借。私達にもぜひ、プリンセスのひな祭りを祝わせてくれ。」
顔を真っ赤にしつつひなこちゃんは手を取り、私達はゆっくり教室に向かって歩き出した。ひなこちゃんは初めは緊張していたが、机に置かれたケーキやお菓子、さらに、ごましおが出したひなあられやひな祭りケーキに目を輝かせてくれた。トリモモが本物の王子様よろしくエスコートした甲斐もあり、ひなこちゃんは段々自分の事を話してくれるようになった。
ひなこちゃんは、もうすぐ幼稚園を卒業する年長さん。お母さんは妊娠中なのだが具合が悪く、今は近くの病院に入院しているそうだ。お父さんは土日も仕事で忙しく、近所に住む高校生の「ゆりちゃん」がひなこちゃんとよく遊んでくれるらしい。
「でもね、この間喧嘩しちゃったの。」
「喧嘩?」
暗い顔のひなこちゃんに、ごましおが聞き返す。
「うん。ゆりちゃんの赤い本に、ひなこが絵を描いたの。ゆりちゃん、お勉強頑張ってほしくて。そしたら、すっごく怒られて。」
「あちゃ~。」
もしかすると、受験勉強中だったのではないだろうか。テキストに落書きをされたのなら、私も怒っちゃうかも。
「それで、ひなこ、ゆりちゃん嫌いって言っちゃったの。」
ひなこちゃんの顔がぐしゃり、と歪む。私もごましおも、涙を禁じ得ない。
「ひなこね、ゆりちゃんと同じ服着るって約束したの。だから、いい子になって、小学校でも頑張るって約束したの。なのに……」
「よしよし。プリンセスは偉いぞ。自分は悪い事をした、と分かっているのだからな。」
トリモモが頭を優しくなでると、ひなこちゃんはわんわん泣き出した。
「よし。それでは、そのゆりちゃんに謝ろう。大丈夫、私もついて行く。」
「トリモモ。ゆりちゃんって人知ってるの?」
「ふふん。舐めてもらっては困る。ただ、プリンセスを待たなくては。」
「うぐ、ひっぐ……。」
ひなこちゃんはなかなか泣き止まない。どうしたものか、と思っていると、
「寺沢さん。そろそろ教室を閉めたいのだけれど―」
私達の担任の浜口先生が来た。しまった、「教室を使ってもいいけど、4時までね。」と言われていたんだった。
「すみません!今片付けます!」
「……ひなちゃん?」
「え?」
先生の目は、ひなこちゃんに釘付けになっていた。
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