第十五話 今日は祖父母の田植えを手伝います
ゴールデンウイークも近くなったある日曜、俺たち一家と姫華は近くに住んでいる祖父母の家に車で向かった。
毎年ゴールデンウィーク前に祖父母の田んぼで田植えをするのが恒例になっていて、今日は俺も姫華も部活休みの届けを出していた。
家で一年間食べるお米を貰っているので、このくらいはしないと駄目だろう。
瀬川先生も祖父母からお米を貰っていたので、代わりに俺が来ていた。
「今日こそ、リベンジする」
「あはは。姫ちゃんったら、昨日豪快に転んじゃったよね」
姫華のやる気に麻衣が苦笑していたのだが、実は昨日は午後から田植えの手伝いをしていた。
そこで、姫華が田んぼから足が抜けなくなって顔面からダイブしてしまったのだ。
真っ黒になってしまった姫華を引っこ抜き、祖父母の家でお風呂に入ったのだった。
今日は同じ失敗をしないと意気込んでいたが、ズブの素人が田んぼの中を歩くのは至難の業だぞ。
ちなみに、汚れても良い服装で来ているけど、姫華は着替えも完備していた。
「「「おはようございます」」」
「悪いわね、連日お願いして」
庭では、既に祖母が準備を始めていた。
俺もハウスに入って、どんどんと苗箱を運んで行った。
「じいちゃん、薬振る?」
「おー、取り敢えず三十やってくれ」
祖父母の家の前にある田んぼでは、既に祖父が田植え機の準備をしていた。
六枚植えの田植え機で、今日は合計で二枚の田んぼの田植えをする予定だ。
ちなみに、全て品種はコシヒカリで、祖父母の家にある機械で土入れから稲刈り、乾燥まで行っていた。
俺は苗箱運び用の一輪車に次々と苗箱を乗せていき、畔の側に置いていった。
「麻衣、姫華、昨日と同じく薬をやってくれ」
「「はーい」」
田植え前に殺虫防虫剤を振っておくことで、田植えする時はそのままで済む。
ジャンボタニシ対策もしないといけないんだけど、祖父母は早めに田植えをするから食われないで済んでいた。
そして、俺は田植え機にどんどんと苗をセットしていった。
「姫華、無理して端を植えなくていいぞ。俺がやるから大丈夫だ」
「えー!」
姫華が俺に釘を差しておいたが、昨日も何事も体験だと勇んで大失敗をしていた。
俺は小さい頃から田植えをしていたから田んぼの中を歩くのはおてものだが、そもそも姫華は田んぼの中を歩いたことすらない。
説明しても、中々実践できるものではないんだよなあ。
ちなみに、田植え機は祖父と何故か母さんが運転できた。
俺は、動かすことはできるがまだ真っ直ぐに植えることはできなかった。
カシュン、カシュン、カシュン。
「おー、はやーい!」
「やっぱり、お祖父ちゃんがやるととても速いよね」
祖父は、田植え機のスピードマックスでどんどんと苗を植えていった。
最近はGPS付きのものもあるらしいが、祖父はそんなものは使わなくても真っ直ぐに植えていた。
そして、畔に田植え機がくると、俺は次々と苗箱から苗をとって乗せていった。
こうして、一時間もすると七割は植え終わった。
「空の育苗箱は、根っこを綺麗にとってハウスの中に入れておいて」
「了解」
必要な苗は全て運び終えたので、今度は空になった育苗箱を運んで貰った。
一輪車に乗せてまとめて運べるけど、姫華がやるとフラフラになるので麻衣に運んで貰った。
ドンガラガッシャン!
「あっ……」
しかし、何故か姫華がチャレンジして、ものの見事に一輪車をひっくり返していた。
とはいえもう植えた後のものだから大丈夫なので、麻衣と二人で少しずつ運んで貰った。
育苗箱はプラスチック製だけど、そこそこ強度があるから落としても大丈夫だ。
その間に田植え機で植える部分は終えたので、俺は苗を手にして手差しのところを始めた。
「熊、私もや……」
「姫華は、ばーちゃんと麻衣と一緒にお茶の準備をしてくれ」
「えー」
またもや姫華が手差しを手伝おうとしたので、先に指示を与えておいた。
姫華はかなり不満そうな表情をしていたが、ドロドロになって仕事が増えるよりずっとマシだった。
こうして本日一枚目の田んぼの田植えが終わったので、家の前に集まって休憩することにした。
「ぶー、田植えしたかった……」
「うーん、姫華ちゃんにはまだ早いかもね」
「えー」
母さんにまで止められてしまったので、姫華は思わずがっくりしてしまった。
すると、見かねた祖父があることを提案してきた。
「なら、姫華はじいちゃんと田植え機に乗ってみるか?」
「乗る!」
姫華は、祖父の提案を即決した。
こうして、何とか機嫌を直した姫華だったのだが、昼食前にまたやらかしてしまった。
「じゃあ、昼食だな」
「楽しみ……わあっ!」
ばっちゃーん!
なんと、田植え機から降りようとした姫華が、バランスを崩して田んぼにダイブしてしまったのだ。
俺は急いで田んぼに入って姫華を引っ張り上げたが、ものの見事に泥だらけだった。
「ほら、軽く水で泥を流したらお風呂場に直行だ」
「うぅ、失敗……」
姫華も予想外のダイブだったらしく、軽く着替えて泥を流したらとぼとぼとしながらお風呂場に向かって行った。
まあ、何となくこういうことになると思っていたけどね。
こうしてトラブルもあったけど、何とか田植えを終えることが出来た。
俺たちは、昼食を食べたら家に帰っていった。
「「すー、すー」」
そして、普段着に着替えた姫華と麻衣は、何故か俺のベッドで寝ていた。
とはいえ、俺も気疲れしたのか眠くなったので、ベッドに寄りかかってうたた寝をしてしまったのだった。
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