あなたを笑顔にするためにファンサする私はアイドル

紅日もも

推しの笑顔が見たい

 彼女との出会いは偶然だった。


 友人に誘われて足を運んだアイドルのライブ。

 のライブなんて、見たくもない。はじめはそうやって否定的な感情が私の頭を占めていて、一曲見たら帰ってやろうぐらいの気持ちだった。


 当時の私はアイドルが好きなんじゃなくて、アイドルになれるくらい可愛いはずの自分が大好きだった。

 だから例のアイドルグループのライブを見たところで、結局は「私よりも可愛くない」「私の方が歌上手いんじゃない?」「私ならもっとファンを虜にできるのに」とかそんなものばっかり。


 一曲も我慢出来ずに私は小さな箱の外に抜け出していた。


 帰ろうかな。何も面白くないし。


 そう思っていた矢先に一緒に見に行っていた友人から公演後に握手会とチェキ撮影があって、一人じゃ心細いからまだ帰らないでとメールで強請られた。


 公演が終わるまでって、割とかなり時間がある。


 暇だからと言ってライブの続きを見る気にはなれなくて、結局箱の外にあったベンチに座って、ただボーッと時間が流れるのを待っていた。


 公演後、友人が当日販売の握手券やらチェキ撮影券が封入されたCDを五枚ずつ購入していて、オタクかよ、って内心思ったのは今では口が裂けても言えない。


 一人で推しの握手会&チェキ撮影の列に並ぶのが心細い友人に手を握られて、一緒にそこそこの長蛇に並ぶ。


 友人の推しは件のアイドルグループで一番人気があって、確かセンターの子だった。


 列を並ぶ中、他の子達にはどれくらいの列が出来ているのかを見る。

 そうして周囲を観察してる時に、たまたま、目が行ってしまった。


 不自然なほど誰も並んでいない、一人の女の子のブースに。


 その子は控えめに言っても地味な子で、お世辞にも周りの子達みたいな華やかさがあるとは言えないレベルのアイドルだった。


「ねぇ、あの子……」


 思わず友人の手を引いて尋ねる。


「ん?……あぁ、あの子ね。あんたを蹴落として加入した、つい最近グループに加入したばかりの子だよ」

「え、私、あの子に負けたってこと?」

「あはは!そういうことになるねー」


 そのアイドルは誰も並ばないブースでただひたすらに俯いていて、なんだか、少しだけ気の毒に思えた。


「新メンバーだからって、あそこまで人気出ないもんなの?アイドル業界って、そんな厳しい世界だっけ?」

「いやいや、あの子が特例だと思うよ?」

「ふーん。……それはなんで?」

「だってあの子、可愛くないじゃん。あんたはライブほとんど見てないから分からないと思うけど、あの子、歌も下手だしダンスも下手。それで可愛くなくて愛嬌も無いんじゃ、誰も推せないでしょー」


 そうやってヘラヘラと笑いながら無神経にも上から目線で他人を評価する友人を見て、あぁ、ファンの中には「推して」って考えの人も存在するんだなぁと知った。


 ……べつに、可哀想になったから、とか。

 友人が聞こえるような声で失礼なことを言ったから、とかが理由ではない。


 ただ、純粋になんの取り柄もない子が私を差し置いてオーディションに受かった。


 その事実が納得出来なくて、私はそのアイドルに興味を持った。

 何か秀でてるものがあるはず。

 この私を蹴落として掴んだ新メンバーという称号。


 彼女のまだ誰も知らないアイドルとしての武器を。私は見てみたくなった。


「ごめん。私もCD買ってくる」

「えっ?ちょ、急にどしたん!」


 友人の返答なんてさして重要ではなくて、私は列を抜けて売り場に向かった。


 握手券の封入されたCDを手に取ったあと、隣に並んだチェキ撮影券が封入された内容は変わらないCDが目に入る。


 結局CDを二枚購入して、私は並ぶ必要の無いブースで、彼女の前に立った。


「券をお預かりしまーす。はい、握手券一枚とチェキ撮影券一枚いただきましたー。ではまず握手から、どうぞー」


 スタッフの男性に促されて、私はもう半歩、『ここな』と呼ばれたそのアイドルに近づく。


 俯いていた彼女が顔を上げた。


 まさか、そんな、わたしが?


 なーんて文字が顔に書いてある。

 彼女の表情を見て一発で分かった。


 あぁこの子、周りの人たちだけじゃなくて、自分ですら自分自身のことを可愛がって無いんだなって。

 自信、無いんだなって。


 おずおずと出されたその手をガっと握ってやる。


 やわらかかった。


 童顔な私よりも見た目三歳くらい若く、幼く見える彼女。

 高校一年生、くらいかな?


「………」

「………」


 ちょっと、握手会って握手したあとどうすればいいの。なんか話すんじゃないの?これ、私から話題振る感じ?


 うーん、と悩んで。


「ここなちゃん、もっと自信持ちな」

「え、えっ?」

「前髪、目にかかってるじゃん。上げてみてよ」

「え、えっと、、、」


「はーい、五秒経ちました。お時間ですので下がってくださーい」


 え!?

 なにお時間って!握手会って時間制限あるの!?

 一枚五秒!?だから友人は券を五枚も買ってたわけか。


 まだ言いたいことはあった。

 私を蹴落とした『ここな』という女の子に、これでもかと言ってやりたいことも山ほどあった。けれど、それがここのルールなら従わないといけない。


 しょうがなく私は彼女の手を離して、下がる。


「次はチェキ撮影に入りまーす。はい、並んで並んでー、ポーズしてくださーい」


 またもや同じ男性スタッフに促されて、今度は彼女の隣に立つ。


 髪と髪の隙間から覗く耳は赤くなっていて、まーたこの子はモジモジと俯いていた。


「ポ、ポーズ、どうします?」

「うーん。なんでもいいけど」

「な、なんでも、、、。………えとえと、あ、そ、そうだ!ちょっと、すみません!少しだけ待っててもらっても、良いですか?」

「え?」


 突然離脱する彼女。

 私も男性スタッフも困惑してる中、一分弱で戻ってきた彼女の手にはヘアピンが握られていた。


「お待たせして、えと、すみません」

「いや、良いけども」

「あの、今日のライブ、つまんなかった、ですか?」

「え?」

「途中で、と言うか割と早い段階で、抜けてました、よね?」

「いやまぁ、うん、そうだけど。て言うか、そんなことよりポーズどうすんのよ」


 そこそこ客が密集してた中で、よく私のこと見てたなとか思ったりもしたけど、それよりも男性スタッフの早くしろよオーラに若干気まずくなって『ここな』に問う。


「ポーズは、ハートとか、作っちゃいます?えへへ」

「まぁ、うん。もうそれで良いか」


 カメラを見ながら右手でハートの半分を形作る。


「ちょっと、ここなちゃん、はやく」

「ま、待ってください。……よし」


 彼女の左手で形作られたハートの半分とくっついて、不格好で不慣れなハートが完成した瞬間にシャッターを押された。


「こちらがチェキでーす」


 男性スタッフにその場で出てきた投影されたチェキを渡される。


「これ、あの、あなたが笑顔になってくれるための、一応、私からの、ファンサ、です」

「え?」


 そう言われてチェキを見てみれば、そこには心の底から嬉しそうに笑う、前髪を分けてヘアピンでとめたが写っていた。


 その笑顔は幼くて、あどけなくて、とてもいじらしい。

 加護欲が掻き立てられるほどの魅力。


 チェキから目を離して当の本人を見れば、また前髪が目にかかってしまっている。

 笑顔もぎこちないし、目線は下に行きがち。


 またチェキを見る。


「………なんだ、私なんかよりも、ずっとずっと可愛いじゃん」

「え?」

「決めた。ここなちゃん、これからもライブ、見に来るね」

「あ。う、うれし―――」

「ここなちゃんを見に行く。応援しに行く」

「え、えぇ!?」

「あはは!私、生まれて始めて『推し』を見つけたかも。これから私、ここなちゃんのこと推してもいいかな?」

「あ、あわ、あわわわ」

「あはははは!」


 私は彼女にとってのファン第一号なんだろうか。それとも今日は来てないだけで、彼女を推してる人はいるのかな。

 まぁいたところで、だ。


 今は目の前であわあわしてる女の子。

 彼女が、これから先、私やその他ファンの声援を受けて、それを糧にして、いつか胸を張ってステージに立つ。

 そこまで行く過程の成長を、見守りたいと思った。


 彼女がステージの上でも堂々と笑えるように。


 彼女が自信を持てるように。


 私、新規ここなちゃんファン十九歳。

 推し活はじめます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る