第11話 花子編:幸せな日々

花子の生活は、かつての洞窟での生存とはまるで別世界だった。ギガの家で暮らすようになってから、彼女はさまざまな経験をした。


ギガの休日には、「人間のペット」が集まるふれあい広場に連れて行ってもらうことがあった。そこには花子と同じようにギガのペットとして飼われている人間たちがいて、それぞれの飼い主と共に楽しく過ごしていた。


「こんにちは!」


「やっほー!」


広場に着くと、すぐに人間のペットたちが駆け寄ってきた。花子もすっかりこの場所に馴染んでおり、仲間たちと走り回ったり、遊んだりして時間を過ごした。


「ほら、花子。おやつだよ」


ギガは広場の売店で買った特製のヒューマンミートクッキーを差し出す。


「わぁ、ありがとう!」


受け取った花子は、嬉しそうにクッキーを頬張る。サクサクとした食感と甘みが口の中に広がり、彼女は笑顔になった。


ギガは時々、花子を連れて旅行にも行った。飛行機のようなものに乗り、広大な自然が広がるリゾート地へ。白い砂浜のビーチや、幻想的な森の中を歩いたり、美しい夜景を見たりすることもあった。


「ねえ、お兄さん!見て!海がキラキラしてる!」


「ほんとだ。波が光ってて綺麗だね」


花子は無邪気にはしゃぎ、ギガもその姿を見て微笑んだ。


家では、一緒にゲームをしたりスポーツをしたりもした。ギガは電子ゲームの遊び方を教え、二人で競い合った。時にはボールを使ったスポーツをして、汗を流しながら遊ぶこともあった。


「お兄さん、負けないよ!」


「おっと、花子もなかなかやるな!」


どんな遊びをしても、二人は笑い合っていた。


こうした日々を過ごすうちに、花子とギガの関係は「飼い主とペット」ではなくなっていた。


最初はぎこちなかった会話も、いつしか自然なものとなり、花子はギガに対して敬語を使わなくなった。


それどころか、ある日ふとした瞬間に、彼女はギガのことを「お兄さん」と呼んでいた。


「ねえ、お兄さん、今日の晩ごはん何?」


ギガは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。


「ん? 今日はハンバーグだよ」


「やったー!」


花子自身も、その呼び方が自然と口をついて出たことに気づき、少し照れながらも嬉しそうに笑った。ギガもまた、花子をただのペットではなく、大切な家族の一員として扱うようになっていた。


ギガが仕事の愚痴をこぼすことも増えたが、花子は親身になって聞いた。


「もうさ、上司がほんっとに理不尽でさ。こっちがどれだけ努力しても、評価してくれないんだよ」


「わかる、それめっちゃムカつくね!」


「そうそう! もうほんとにストレス溜まるわ…」


「でもお兄さんは頑張ってるし、絶対いつか認めてもらえるよ!」


花子はそう言って、ギガの背中をポンポンと叩く。ギガは少し驚いた後、優しく笑って「ありがと」と言った。


二人は、誰が見ても理想的なパートナーだった。血の繋がりこそないが、花子にとってギガは本当の「家族」だった。


---


ある日のギガの休日。ギガと花子は何をするでもなく、家でのんびりと過ごしていた。しかし、花子はどこか落ち着かない様子で、そわそわしている。


「どうしたんだい?」


ギガがそう呼びかけると、花子は照れながら答える。


「実は…お兄さんにプレゼントを用意したの」


「ん?プレゼント?」


「うん…ちょっと待ってて」


花子はそう言うと、ギガに与えられた自分の部屋へ向かった。しばらくすると、花子が戻ってくる。両手は後ろに回されていて、何かを隠しているようだった。


「…ねぇ、何だと思う?」


「うーん何だろう…想像もつかないな」


ギガは思考を巡らせるが、何も思いつかない。しかし、彼女が自分のためにプレゼントを用意しているという事実に喜びを感じる。だから、何も思いつかない思考すらも楽しいひとときであった。


しばらくすると、花子が口を開く。


「これ…あげる…」


花子が顔を赤くしてギガに何かを差し出す。それは美しい花で作られた冠だった。


「これを…僕に?」


「うん。だって今日、お兄さんの誕生日でしょ?」


ギガはその言葉で思い出す。そういえば今日は自分の誕生日だった。仕事が忙しく自分の誕生日すら気にかけることはなかったが、花子は覚えていてくれたのだった。


「これ…いつ作ったんだい?」


「ふれあい広場で仲良くなった子がいてね、その子と一緒に作ったの。」


なるほどと思った。人間のふれあい広場は、一定の知能を持つペットの人間のみが入ることを許される。一定の知能を持つということは、ギガが目を離しても大丈夫だと言うこと。


ギガはふれあい広場で楽しんでいる彼女を見て堪能していることが多かったが、ときどき飼い主仲間との会話で目を外すことがある。恐らくはその隙を見て、友達になった子と一緒に花冠を作ったのだろう。


そう考えると、ギガにこみ上げてくるものがあった。


「お兄さん…誕生日おめでとう」


「…ありがとう」


ギガは少し涙ぐむ。


「お兄さん、付けてあげるからしゃがんで?」


ギガはその言葉に従い、その大きな巨体をしゃがませる。もちろん、花子に花冠を頭に乗せてもらうためだ。


「お兄さん…似合ってるよ」


「ありがとう…花子…」


感謝の言葉を言うと、彼は少し泣いてしまった。


「…お兄さんが泣いているの初めて見たかも」


「しょうがないだろ…嬉しいんだから」


「喜んでくれたみたいで、私も嬉しいよ。」


「ああ…この花冠は一生の宝物にする。絶対に」


花で作られているから、いつかは枯れてしまうだろう。しかし、それでも宝物として持っておくと、彼は心の底から決めた。


「お兄さん…これからも一緒にいてね。約束だよ?」


「ああ…約束だ。」


そう言ってギガと花子は、触手と手を絡める。まるで、指切りげんまんのように。


この日は彼にとって、そして彼女にとって忘れられない思い出になった。

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