16.魔力②

「あんまり、教えるってのは得意じゃないんだが……とりあえず、クズ魔石だな」


「クズ魔石を?どうするの?」

 おじいちゃんに期待してはだめだと学習したので、質問攻めにする作戦だ。


「魔力を流す。クズ魔石からはじめて、徐々に魔石をカットしたときに出る魔石片に移行していく」

「ゴミに近い魔石片から始めなくていいの?」

「クズ魔石はある程度魔力含有量があるから、力を引き出しやすいし、魔力を流した時の反発もわかりやすい。ここから始めるのが無難ってことだな」

「じゃあ、魔石片にどうして移行するの?」


 矢継ぎ早に質問したものだから、おじいちゃんもタジタジだ。


「それは、魔石片だと魔力もほとんどない上に脆いから、魔力を流すことも魔力を引き出すのも難しいんだ」

「流したり、引き出したりする魔力量のコントロールが必要ってこと?練習する理由は?」

「それは、俺がそうやって練習してきたから……」

「ふうん……魔力を流すって具体的なコツとかないの?」

「こうやってだな……集中するんだ。んんっ…と指にふぅうんっ…と」


 最後の方のおじいちゃんの返答は益体やくたいもないので、自分で考えながら練習するほかなさそうだ。

 早速わたしは練習に取り掛かることにする。

 場所を作業部屋に移し、わたしは洗濯に使っている青い魔石のストックを作業用テーブルに置き、椅子に座る。

 ルーペで魔石を覗いてみたが、やはり魔力が目に見えるわけではなかった。

 そもそも私たちの持っている魔力ってなんだろうか。魔石の力を引き出すための力?力……といっても魔石に物理的な力を加えることで発揮されるものでもない。


 さっきおじいちゃんが肩に手を置いてわたしに流した魔力。あのとき、瞳の奥が揺れたように感じた。あれは炎が風を受けて揺れるときのゆらぎに似ていたように思う。体内の熱的な何かだろうか。怒ったときや泣き疲れて熱をだすとき、いつもと毛色の違う熱感を感じる。あんなイメージだろうか。


 身体の中の熱を感じる……うん。いい感じだ。この熱を、掌に集中させる。掌に……と思ったところでおじいちゃんの「んんっと指にふぅうんっと」が脳内で再生されて、集中力が飛び散る。

 だめだ、この場にいなくても邪魔しかしてこない。


 そもそも自分の魔力を流すよりも、魔石の魔力を引き出す方が簡単な気がしてきた。

 気を取り直してわたしは、青い魔石に向き直る。


 青い魔石。基本的な属性は水だ。魔石から作り出される水は飲料可能だ。この魔石から、水を取り出す。

 井戸から水を汲むように、川の流れのように、雨のように出てこい。

 ……どうやら念じて出るわけではなさそうだ。とうとう苦戦する気配しかない。


 その日わたしは、魔石から水の力を引き出すことも、自分の魔力を魔石に流すことも叶わなかった。



 どうしても魔力を体感したいわたしは翌日、おじいちゃんに再度魔力を身体に流してほしいと懇願するのだった。魔石商になるためとはいえ、あの気持ち悪さすら、おかわりしに行く心意気については褒めてほしいものだ。


「う……やっぱりお願いしなければよかった……」

 後悔先に立たずとはこのことか。まったくもってその通りだが、体感したいのはそんな言葉ではなくて、魔力の方だ。わたしはこの気持ち悪さに神経を集中させる。


 魔力を流された直後のぐわんと揺れた脳への衝撃は前回と一緒だった。それ以外には、胃のなかがぐるぐるとしたような感覚がある。もしかしたら魔力は、流れがあるものなのかもしれない。自分の中に流れる魔力の川があったとして、他人の魔力が入ってくることで、水質や水量、流れの向きが影響を受けて、気持ち悪いという感覚を生むとしたら、かなりわかりやすい。


 自分の中にある川の本流。そこに支流ができたように。支流は体幹からわきの下を通って右腕へ。この流れはそのまま指先へ繋がり、徐々に体の外に漏れ出る。そのイメージのまま魔石に触れれば、青い魔石は、1度だけ、トクンと鼓動を返した。


「これが、反発……?」


 なんとも覚束ない反発であった。不安なため、再度挑戦するが、わたし側に問題があるのか、魔石側に問題があるのか、まったく反応をみせなくなってしまった。


 結局、その日もそれ以上の進展はなく、魔力修行を終える。

 そしてその翌日も、同程度の成果しか上げることは出来ないままに1日が過ぎることとなった。


 最終的にわたしが魔力を流せるようになったのは1週間後。

 魔石を使えるようになったのは、それからさらに1週間を過ぎてからのことだった。

 

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