第48話

「ロッドにーたん、がんばえー!」

 あと、私にできることは応援しかない。

 ロッドさんが巨大な女王鎧アーントの前足1の攻撃を剣で受け止め薙ぎ払う。

 それからすぐに剣を前足2の関節に突き立てた。

 キャシャーと怒ったような悲鳴のような声を女王鎧アーントが上げた。

 さすがに攻撃を受けながら卵を産み続けることはできないようで、鎧アーントの数が増えるのは押さえらた。

 これなら、味方……助けが来るまでなんとかなるのでは?

「にゃんたんもうちょっと上におねがいちまちゅ」

 すでにここに向かっているのか、高い位置から周りの様子を見ようとお願いする。

 ぱたぱたと小さな羽を動かして上空へと上がっていくにゃんたん。

 ……猫の背中の羽ってお飾り程度なのに、幼女とはいえ人一人くわえて上空へ上がれるのは、絶対羽の力じゃないよね。魔法とかスキルとかなんかだよね。猫型のあいつは無重力になる機能が足についてるとかなんとからしいけど、そういうなんか不思議なやつ。

 上空どれくらいだろう。森の木の倍くらいの高さ……見えるのは森と山。

 あ、私が連れ去られた禿山もある。とんがってやたらと高く目立つ岩がむき出しになった山。あそこだよね、あの鳥の魔物の巣が会った場所。結構離れた場所だったんだな……。

 で、あそこから落下して転がって、……そこからルーナちゃんに運ばれたんだっけ。

 ん?あれぇ?

 前には山。右は森と湖が見える。左は森と川と森と山。

 助けが来る気がしない。

 振り返ると、何キロ?か先にロッドさんの小屋。

 その何キロか先に森が切れて草原が広がっている。その草原の先に薄茶色の線が見える。

「あ、道?あの線が、道でちゅね?あの道の先に、人が住む街とか村とかがあるんでちゅね?」

 って、遠!

 めちゃくちゃ遠いじゃんっ!助けはいつ来るの?幼女の私ならこんだけ距離あったら1週間以上かかるよ!大人でも、走り続けても……身体強化(攻)があっても、半日くらいかかるんじゃない?いや、もっと早いかな?

 でも、もうすぐ助けが来るよ!なんて言う「もうすぐ」では来ない。

 見下ろすと、ロッドさんが、女王鎧アーントの4本の足を切り落としていた。残り2本の足で立っているため攻撃を繰り出すための足を失った女王鎧アーント。

 なぁんだ。厄介だったのは女王を守る鎧アーントが無数にいるってことだけだったのね。それがなくなれば単体の女王鎧アーントなんてロッドさんにとってはまったく問題にならないってことなんだね。

 なんて余裕をぶっかますのは、フラグだって、偉い人が言ってたでしょーっ!

 女王鎧アーントが口から何かを吐き出した。いや、飛ばした。ぷっと。

 ぷぷぷぷぷっっと。いや、ぶぶぶぶぶっ!って、赤ちゃんが唾を飛ばすみたいに、激しく。

 慌ててロッドさんは女王鎧アーントから距離を取るために、後ろにとんだ。しかし、距離が足りずに、女王鎧アーントが飛ばした唾弾が被弾している。

 じゅわっと空中にいる私には音は聞こえなかったけれど、そんな擬音が当てはまるような光景を目の当たりにして息をのむ。

 服が、皮の鎧が、剣が……溶けて白い靄をあげる。

「きょーしゃん……」

 強酸!そういえば、蟻って……!

 蟻酸って名前がある酸が存在するくらい酸を出すので有名だった!

 なんで、今になってそんな攻撃をし始めたの?

 と、思ってみたら、強酸弾と呼ぶべき女王鎧アーントの飛ばす唾は、周りの鎧アーントたちにも穴をあけていた。

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