第6話

 お昼寝から起きたら、すっかり気持ちが落ち着いた。

 3歳児強いな、精神力っ!

 ぐぅーっとお腹が鳴る。

「……しょうだ!鞄の中に、何か食べ物が入ってるかもちれない!」

 財布とスマホくらいしか入らなそうな鞄に過度の期待はできないのは知ってる。

 期待半分で、鞄に手を入れるとずぶずぶと手が鞄の中に入っていった。

「ほぎゃっ!もちかちて、もちかちて……しゅーのー鞄!」

 そうだ、魔法のある世界だった!よく考えたらこんな小さな実用性のない鞄なんて持つ人がいるわけないよねいるわけないよ。

 ……そう、魔法がある。そして巣の中に頭蓋骨は見当たらない。

 つまり、鞄の持ち主は転移魔法とか使って逃げた。

「ちょういうこと!」

 に、しておこう。

「本当にしゅーのー鞄なのかな?」

 散らばっている卵の殻を入れてみる。

 入った!明らかに鞄よりお大きいのに!

 まだ入るのかな?手当たり次第に卵の殻を拾ってはいれ、拾ってはいれを繰り返し、すっかり巣の中が綺麗いになったところで気が付いた。

 頭、かじられてない!

 どういうことかな?ときょろきょろすると、ヒナが隅っこで丸まって寝てる。

「ふ、ふおおお、こ、これは……」

 ギラリと輝く目。

 狩人に、ミチェはなる!

 収納鞄から鋭くとがった卵の殻を取り出す。

「油断ちまちたね!覚悟!」

 卵の殻を振り上げてヒナに向かって突進。

「ケカーッ」

 カッと目を見開いたヒナが恐ろしい声をあげ翼を広げて、私を蹴った。

「ほわっ!」

 宙に舞う私の体。

 宙に舞うのは一瞬。そのあとは……

「ほぎゃーっ!」

 切り立った崖の上の巣の外に投げ出されたら、落下するしかないよっ!

 さすがに死ぬんじゃないかな……。

 ゴスンッとものすごい音を立てて岩に激突。そこからゴロゴロごろと山肌を転げ落ち時々岩に当たって大きく跳ね、また転がる。

「あはは、痛くない!痛くない~しゅごーい!」

 生身でラリーしてるみたい!

 ほら、でこぼこ道を車で走るあれ……ダートトライアルって言うんだっけ?

 きゃはははは~と笑ってたら、ぽーんと放り出された。

 うわ、転がれない、残りは全部落下!まだ残り1000m以上ありそうなんだけどっ。

 今度こそ、無傷じゃ無理かも……。

 ヒューンと落っこちる。

 くるくると回転して着地なんてできないかな?

 それともこのひらひらしてるスカートをパラシュート代わりに……。

 そうだ、収納鞄の中に何か便利なものが入っているかもしれない!

 と考えてるうちに、バキバキバキとものすごい音を立てて木の枝を折りながら地面に落下した。

「あ……木があったから衝撃が分散されて助かった……」

 ぱたりと地面に寝転ぶ。

 痛いところはない。それどころか、なんだか地面は柔らかくてモフモフだ。

「ミチェ、頑丈でよかった」

 えへへー。

 むくりと起き上がって気が付いた。

「ひょえっ!」

 柔らかい下草がモフモフしてるのかと思ったら、本当にモフモフだ。

 白くてふわふわの毛皮だ。

 滑り……転げ落ちると、モフモフの頭が見えた。

 うーんと、魔物なのかな?サーベルタイガーみたいな牙がある、でかい狼?馬くらいの大きさがある……。

「しんでりゅ?」

 私が上から落っこちてきてぶつかって殺しちゃったってこと……か、な?

「ごめんなしゃい」

 両手を合わせる。これは、事故。

 事故なのだから仕方がない。この後は……。

 グーグー鳴るお腹を押さえる。

「命をそまちゅにしちゃだめなの」

 きちんといただきます。

 たぶん肉は焼けば何とかなる。皮を剥げばいいのか、血抜きだっけ?」

 卵の殻で何とかならないかな?

 ペタンと座り込んで収納鞄に手を突っ込こんでひっかきまわす。

「グルルル」

 大きな音が聞こえる。私のお腹の音にしては大きいなぁと思ったら、ぽたりとしずくが落ちてきた。

 ん?雨?

 見上げると、死んでいたはずのサーベルウルフ(仮)の顔が真上にあった!

 しずくは、よだれ!


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