第2話

「そろそろ帰ろうか」


 順調に進んでいるしもう少し行きたいがキリがいいことにこの階層にはダンジョンの入口に帰ることが出来る転移魔法陣がある。


「え! もう?」


「明日も学校だし女子が遅い時間に1人で帰らせる訳には行かないしな」


「ぬぅ……もうちょっとだけ……ね? 私の勘がこの先に何かあるッ! って言ってるんだよ!」


「……」


 行きたい気持ちはあるが遅い時間になってしまうと補導される可能性だってある。

 しかし、こんな上目遣いで美少女に頼まれて断れる男が居るだろうか……いや! 居ない!!


「分かったよ……ちょっとだけな」


「やったぁぁぁ! 」


 ルンルンスキップの麻宮さんの後ろを着いていく。

 ダンジョンは命懸けの世界だというのに麻宮さんの周りはほのぼのした世界が広がっている。


「待って」


「どうした」


「静かに」


 急にスキップを辞めたかと思うと壁に身体を寄せて角から通路の先をじっと眺めている。

 雰囲気の変わり方や声のトーンが下がったところを見るとただ事ではないのが察せる。


「どうして、ここにワイルドウルフが……間宮くん、気付かれないように転移魔法陣に帰るよ」


「分かった」


 色々と聞きたいことはあるがダンジョンのことで俺が麻宮さんに勝てる要素など無いので言われた通りにゆっくりと後退する。


「っ! 走るよ! 気付かれた!」


 麻宮さんの掛け声のあと転移魔法陣に向かって2人で全力疾走を始める。

 しかし、何かが後ろから追いかけて来ているのが聞こえてくる。


「間宮くんっ! 戦うしかないかも! ごめん!」


「分かった、俺が前に出る」


「ワイルドウルフは早いスピードと鋭い爪と牙、あとは硬いしっぽが特徴だよ! 弱点は喉からお腹にかけて毛皮が薄い部分があるからそこなら刃が通るはず!」


 全力疾走をやめて後ろを振り向けばもうあと数秒で俺たちに飛びかかりそうな大きな狼が迫ってきていた。

 麻宮さんの情報を聞きつつ右に飛ぶようにオオカミの攻撃を避ける。


 あいつの喉元に攻撃を当てるためには攻撃のために飛びついてきたところに剣を突き刺すしかないだろう。

 しかし、ロクな装備もない俺があの爪に引き裂かれれば重症……運が悪ければ治療も間に合わず死ぬ。


「ガゥッ!」


「っ!」


 ギルドの研修でも感じなかった生死を賭けたヒリついた戦い。

 ダンジョン以外では死を感じることもない世界で生きている俺には初めての感覚。

 嫌な汗が流れるのがわかる。

 手が震えるし、今にも背を向けて逃げ出したいくらい怖い。


 覚悟を決めよう、、、次の飛びつきであいつの喉元に剣を突き刺す。

 それで勝ちだ!


「グルル……」


「ふぅ……」


 お互いに睨み合いながらジリジリと間合いを図り会う。

 麻宮さんは俺の斜め後ろにいるらしくオオカミがチラチラとそちらを見ているのが分かる。


「ガルっ! ガゥッ!」


 ガキンっ!


 オオカミは俺の目の前に飛び込んでくると前足を軸に身体をぐるりと回してシッポで殴りつけてきた。

 ギリギリで剣を盾に受けることが出来たが衝撃をモロに受けた左腕から嫌な音が鳴った。


「っーーー!!」


 痛みで怯んだ俺は剣から手を離してしまい慌てて拾おうとした俺に今度こそオオカミが飛びつき攻撃をしてきた。


「はぁぁぁっ!」


 オオカミの喉に十字槍が突き刺さり引っ張られるように右にズレた爪は俺に当たらず地面をエグった。


「間宮くん!」


 俺は慌てて右手で剣を拾い上げると力いっぱいオオカミの首に向けて剣を振った。

 斬ることこそ出来なかったが首に傷ができると同時に刺さっていた麻宮さんの槍が抜けた。


「トドメを!」


「はぁぁぁ!」


「グルっ……」


 麻宮さんがダメ押しとばかりにもう一度首に槍を突き刺すとオオカミから力が抜けて紫色の煙を出して力尽きた。


「間宮くんっ! 手! 見せて! 」


「あ、そういえば」


「そういえばって何! 念の為買ってたポーションがあるから早く飲んで!」


「んぐっ!? んんんっ!!」


「吐き出しちゃダメ! あと手は真っ直ぐにしてて!」


 涙目で近づいてきた麻宮さんにポーションを口に突っ込まれてしばらくすると痛みで動かしずらかった左腕が全く痛まなくなっていた。


「間宮くん、痛みは?」


「もう大丈夫、大丈夫」


「ごめんなさい、私があの時、もう少し行こうだなんて言ってなかったらこんな事にはならなかったのに……」


 麻宮さんはかなり責任を感じているらしく、しゅんとした顔をしていて目尻には涙が溜まっている。


「俺も賛成したんだからいいよ、それよりワイルドウルフっていくらくらいするんだ?」


「うーん、4万円位だったかな」


「おぉ! 2万か! 日給にするとかなりいいんじゃないか!?」


 5万円という言葉を聞いた瞬間、俺のテンションは一気に最高潮になった。

 正直、命懸けではあったのでもう少し高くてもいいだろとは思ったが日給2万円近くは破格だ。


「いやいやいや! 今回は私のせいで危険な目にあったんだから全部間宮くんのものでいいよ」


「いや、パーティなんだからそんな事でいちいち揉めたくないし2等分で今後もどっちかが怪我する度にこのやり取りをするのは面倒だろ」


 ダンジョンで探索を続けるならきっと今後も怪我をすることは多々あるだろう。

 その度にこういう気の使い方をするのは仲間という感じがしなくて少し寂しい。


「え、また一緒に来てくれるの?」


「え? 逆に俺に今から別のパーティを探せと? あーあ、怪我させられた挙句捨てられるなんてダンジョン嫌いになっちゃうな〜」


「わ、え、えっと、今後ともよろしくお願いします……?」


「よろしく」


 少し強引だし気持ち悪かっただろうか?

 まあ、こんな事でせっかくの麻宮さんとの縁が切れてしまえば俺も麻宮さんもきっと後味が悪いだろうからこれでいいはずだ。



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