律くんのとなり

兎束ツルギ

第1話


10月。


季節の上では晩秋ということで秋になるが、思い出したように夏日のような日がやってくる。


土曜日、藤崎結ふじさきゆいは図書館に来ていた。涼しくて、静かでそれでいて本も読めるからだ。


結は自分が生まれるよりも前にベストセラーになった剣と魔法のファンタジー物を読んでいた。ちょうど、魔法使いの放った魔法がドラゴンに当たってというところで、結は現実に引き戻されてしまう。

隣に座っている同級生のたちばなこのみが、結の肩をトントンと叩いてきたからだ。


結は「な・に?」と、くちの形だけで隣に座っているこのみに伝える。

「この本、すっごいドキドキする。私も恋愛したい」このみは夢を見るような表情で結に答える。


「ま・た?」結は、くちの形だけでこのみに伝える。

物語の没入感から現実に引き戻されたことに実はちょっとだけ怒っていた。


このみは結の気持ちなんて露知らず、「好きだよって言われたりしたいなぁ。クリスマスとかさ、イルミネーションを一緒に見たりとか?素敵だよね!」などと自身の夢見るデートを想像する。


拓斗たくとくん誘ってみたら?」

こそこそと小さな声で、結はこのみに話しかける。

図書館の静けさから絞った声でも大きく感じてしまう。


「だめだよ。拓斗くんってゲームがどうのって子供過ぎるもん。やっぱり年上かなぁ」

このみの声が意外に大きくて、結はあたりをキョロキョロ見回すが、結とこのみの方を見ている人はおらず、ホッと胸を撫でおろした。


「このみちゃん。もう少し小声で話そう?」

「あっ!ごめんね」

二人は、机に突っ伏すようにして、小声で話し始める。


「このみちゃんって拓斗くんといつも一緒だし、このみちゃんって拓斗くんのこと好きなのかなって」

「ううん。なんかさ。子供だもん。きっとデートしてもつまんなそう」

「そっかー。拓斗くん、告白する前にふられちゃったね」

このみと結は、大きな声にならないようにクスクスと笑っていた。


クスクスと笑いながら、隣に座っている結ちゃんみたいにスタイルと顔がよかったらな。と、このみは思う。


このみはどちかと言えば同級生の中でも背が低い。

パッチリとした目とくっきりした二重で、顔もどちらかと言えば丸顔。

ふわふわと柔らかい栗毛色の髪は肩よりも少し上。

前髪は顔がしっかり見えるくらいに短いことで、どうしても幼く見えてしまう。


着ている服もどちらかと言えばフリルやリボンが付いた可愛い系のワンピースを好んでしまう。

そのくせ、ハンカチやティッシュをはじめ、可愛い柄付きだが絆創膏やちょっとした小物などを持ち歩いてるくらいしっかりした性格なのだ。



対して結は、このみよりも15センチくらい背が高くて、スラっとしている。

肩より下まで伸びた髪は黒くてサラサラしているし、目鼻立ちがスッと通って切れ長の目で大人びて見える。そのうえ、服装だってオシャレだ。


二人は、どうしたって同級生には見られない。


結ちゃんみたいにスラっとして、綺麗めな顔だったらもっと恋愛に積極的になれたのかな?なんて思う。


「じゃあ。私、別の本を探してくるね!」

読み終えた恋愛物の本を持って席をたつと、結は再び剣と魔法のファンタジーの世界に落ちていった。




お互いに読んだ本の感想を言い合いながら、このみと結は図書館を出ると、落ち着いた声がかかった。

「お、結!ちょうど良かった」

「・・・・!!!!」

このみの心臓がドクンと跳ね上がり、息がとまる。そしてまたすぐにうるさいくらいに勢いよく活動を始めた。

声の主は結の兄、藤崎律ふじさきりつだ。

高校の制服に似た黒いスラックスに、白いTシャツ。UVカットのカーディガンを羽織っているだけで派手な服装でもないしアクセサリも付けていない。

このみよりも背の高い結よりも更に背が高く。スラリとしていることで、大人っぽく見える。いや、実際、このみからすれば大人みたいなものだ。


「あ、お兄ちゃん!」

結は律に駆け寄って抱きついた。


「おっと・・・結。読めたか?」

「うん!帰ったら聞かせてあげるね!」

「そっか。よかったな」

律は優しく結の頭を撫でる。



(いいな・・。私も、撫でられたい・・・・)



結と同じで黒くてサラサラの髪の奥、切れ長の目は優しくて、そのすべてが結に向けられている。

私も見て欲しいな。このみは思った。


「あ、あの・・・律くん、こんにちは」

「ああ、このみちゃん、こんにちは」

拓斗くんだけじゃない。クラスの男子なんて、律くんに比べたら子供だよ!なんてことを律の柔らかい笑顔を見て、このみは思う。


「あーっ!また!このみちゃん!律くんって!お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだからね!」

クールビューティな見た目の結ではあるがお兄ちゃん子で、律の前にいると年相応に見えた。


「結、いいんだよ。このみちゃんはお前と同じで子供なんだから」

律は優しく結を引きはがして、二人に話しかける、

「もう暗くなるから帰ろう。このみちゃんも家まで送るよ」


律くんともう少しだけ一緒に居られる。

すごく些細なことで、このみは嬉しくなって自然と笑顔になった。

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