諦めて結婚しましたが、愛想が尽きたので辞めさせていただきます〜目指せ独立婦人
砂糖ぽんず
第1話 婚約者との気まずいお茶会
「こんな人生なら、死んだ方がマシよ!」
勢いよく投げたスプーンが、壁紙を少しだけ傷つける。
私は目に映る全てのものを破壊した。ティーカップも、花瓶も、ベットシーツも。
だけど、非力な私の力では、ものも上手く壊れない。
花瓶がなかなか割れなくて、3回床に叩きつけた時、おかしくて笑えてきた。
こんなに大きな物音を立てているのに、メイドの1人も様子を見にこない。
無愛想で浮気性の夫。私を馬鹿にする夫の愛人。
陰でずっと慕っていたけれど、最後は私を見捨てた夫の従者。
私を道具としか思っていない両親。声を聞くことすら嫌がる兄妹。
「私が何をしたって言うの?」
そう声にしてみた時、気づいた。
なんでもっと早く気づかなかったのかしら。
「何もしなかったから、こうなったのよ。」
【 5年前 】
「セドリック様…。ええと。」
紅茶に映る自分の瞳と、目が合った。
オオカミに怯えるウサギのような、不安げで、無力な瞳。
今日は、今月で2回目の婚約者のセドリック様とお茶を飲む日だ。
婚約した時に、月に2回は会う約束をしていたので、今日が終われば、今月はもうセドリック様とは会わなくても良い。
私はセドリック様に何か話さなければいけないと思った。
必死に、昨日読んだ本のこととか、同級生の令嬢達の噂話とか、授業の事なんかを思い出した。
だけど、どれもセドリック様を楽しませられるような、面白い話題では無かった。
午後の授業も終わり、自分の家や寮に帰る者、友人達とのおしゃべりに興じる者、部活に勤しむ者…。彼らの楽しそうな笑い声が、やけに大きく聞こえる。
セドリック様は優雅に紅茶を飲んだまま、何も言わない。
まるで、婚約者として必要とされる以上の会話はしたくないと言わんばかりの顔だ。
「今日は良い天気ですね。」
「・・・・・。」
「ここにくる途中に薔薇が咲いていたのですが、ご覧になられましたか?
みたことの無い品種だったのですけれど、とても香りが良くて気に入りましたの。」
セドリック様は、まるで私が見えていないかのようだ。
いや、「まるで」じゃなくて、本当に見えていないんだ。
私は悲しいような、悔しいような気持ちになって「手紙のセドリック様」を想像してみた。
手紙のセドリック様であれば「どんな色の薔薇だった?どこに咲いていたの?」とか「僕もみたよ。」とか、もしかすると「君が気に入ったのであれば、今度プレゼントするよ。」とでも言ってくださるかもしれない。
あぁ、でもプレゼントだなんて…悪いわ。
それよりも、手紙のセドリック様と会ってお話がしてみたい。
そんな事を考えていると、セドリック様は「時間だ。」と言って、席を立ってしまった。
私は残った茶菓子をつまみながら、手紙のセドリック様についてまた考えてみた。
「手紙のセドリック様」というのは、名前の通り、セドリック様から私宛に送られる手紙のことだ。
季節の話題だとか、今日の授業であった面白い事だとか。普段の仏頂面のセドリック様からは想像が出来ない語りで、私を楽しませてくれる。
その手紙が送られ始めたのは、セドリック様が学園に入学してからだ。
セドリック様が10歳で、私が8歳の頃。
最初の手紙には「美しい君を前にすると、緊張で話せなくなってしまう。」と書かれていた。まだ幼かった私は、最初はその言葉を信じた。だけど、その手紙を書いているのが、偽物のセドリック様であることはすぐに気づいた。
セドリック様は私のことを「君」と呼ばないし、美しいとも思ってない。
私はずっと、手紙が偽物のセドリック様であることに気づいてないふりをしている。もし、私が気づいたとバレて、手紙が送られなくなってしまうのは嫌だからだ。
友達もいない、婚約者もまともに話してくれない私にとって、手紙のセドリック様は必要不可欠な存在になっていた。
お茶を飲み終わった私は、図書館に行って「香りの保存」に関連する本を探した。
手紙のセドリック様に、あの素敵なバラの香りを届けたいからだ。
本を探すのには苦労しそうだ。
魔法でバラの花の香りを抽出し、瓶に詰める方法なんかはいくらでもある。だけど、魔法が不得意な私でも出来る方法は少なかった。
私の生まれたこの国では、魔法が全てだ。王族も貴族も平民も、魔法が使えなければ話にならない。そして、たとえ魔法が使えたとしても、その力が弱ければ意味がない。私の使える魔法は、落ち葉を少し浮かせられるぐらいの風を吹かせられる程度だ。
魔法が得意な生徒ばかりが通うこの学園では、私ほど魔力が弱い生徒はいない。
「お前はお前の兄妹達とは違う。お前にできることは、優秀な魔法師になるであろうセドリックと結婚し、支えることだけだ。それだけを考えなさい。」
父の言葉が、胸にグサリと刺さる。私は、セドリック様のためだけに生きているのではない。そう思いたいけれど、思えない現実があった。
本棚の端から順番に一つずつ探して、やっと見つかった。
見つけた頃にはもうすっかり日が落ちてしまっていたので、後は借りて寮で読むことにした。
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