いじめ

再び2人の間に沈黙が流れる。


このままではいけないと思い、思い切って口を開いた。



『……たんです。』


「え?」


『いじめられたんです。部活で。』



私は少しずつ話し始めた。



『最初は、みんなとすごい仲がよかったんです。みんなで切磋琢磨して、頑張っていこうって。』



先輩は静かに話を聞いてくれる。



『だけど、私が1年生なのに選手に選ばれた時から…。』



……………………………………………………


サーブがネットに引っ掛かる度に



『ねえ、サーブちゃんと打ってくれない?点数落とすんだけど。』



と言われる。

ボールを拾えないと



『なにやってんの?ちゃんと取って。』



と怒られた。

先生に褒められたときには



『マジで調子乗んなよ。』



と言われた。

先輩たちも1年生が選ばれたのが気に入らなかったのか、注意の一つもしてくれなかった。


……………………………………………………



一ノ瀬先輩は静かに聞いてくれた。



『その後、県選に選ばれちゃったんです。そしたら先輩に呼び出されて、何で背が低いのに選ばれたのかって怒られちゃって…。』



今まで溜めていたものが、溢れ出てきて止まらない。私の目から出た涙は、止まる気配がしなかった。



『先輩にサーブを打った時、みんなに言われた言葉が聞こえてきた気がして。あの時のこと思い出しちゃったんです…。』



泣くのを我慢して頑張って話そうとすると、突然何かに包まれた。


驚いて顔をあげると、先輩の制服が目に入った。


いつの間にか隣に来ていた先輩は



「…教えてくれてありがとう。無理に聞いちゃってごめんね。」



といいながら背中をさすってくれた。



『私、先輩に嫌われるかもって思ったら、怖くなっちゃって…。』



そう言いかけると先輩に抱きしめられる。



「俺が乃蒼ちゃんを嫌いになるわけないでしょ?朝練手伝ってくれたし、おにぎりまで作ってくれたじゃん。」



そう思ってくれてたんだ。



「すごい嬉しかったんだよ?ありがとう。」



先輩は優しく言った。


…嬉しかった。


こんな自分を受け入れてくれる人がいるなんて…。



『こっちこそ、話聞いてくださってありがとうございました。』



だいぶ落ち着いてきたので、先輩がもとの席にもどる。なんだか、心のもやもやがなくなった気がした。



『ミルクティー、冷めちゃいましたね。』


「大丈夫だよ。ここのやつ冷めてもすごく美味しいから飲んでみて?」



言われた通り飲んでみると、確かにおいしかった。



『美味しい⋯』


「でしょ?気に入ってもらえてよかった。……ねぇ、乃蒼ちゃん。」


『はい。何ですか?』


「よければ、また朝練手伝ってくれない?」


『いいですよ。』


「え、ホントに?よかったぁ。」



と言うことで、私と先輩の朝練はこれからも続くことになった。

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