第40話 名もなき開拓村

「ロンブリエールから北に少し行ったところに、果樹園に適した平地があったから数年前から開拓をさせていたんだよ。で、入植希望者を募って村の運営を始めたは良いんだけど……」

「魔物の被害が酷い、ということですか」

「そうなんだ。今はセリエール家が依頼した冒険者が張り付いててくれるけど、いつまでも彼らに頼り切りというわけにもいかない」


 困り顔でアルフォンスは首を振る。

 開拓、というくらいだからきっと森を切り開いて作られた村なのだろう。俺が王都で聞いた話では、村の開拓は付近の魔物を根こそぎ討伐してから行うはずだが……。


 討ち漏らしでもあったか? 

 もしくは、最近になって巣を作ったか。どちらにしても、面倒な話だ。


「はあ……ということは俺はロンブリエールを離れて、その開拓村で希望者に指導すれば良いということですか?」

「それと、できたら魔物の駆除もお願いしたいんだ。もちろん、報酬は弾むよ!」

「開拓村の人を指導するのは問題ないのですが、いくつかお願いがあります」


 アルフォンスは開拓村のために呑める要望は全部呑む、という感じだったので色々と条件を付けさせてもらった。

 まず、指導はロンブリエールの繁忙期が収束し次第始める。時期で言えば、一一月くらいだろうか。


 次に、ロンブリエール所属の冒険者を一部連れて行くことへの許可。この世界、ただの村人が理由なく町を出ることは罪だったりする。

 当然、成人してすぐ村を飛び出したあの時の俺たちは犯罪者だったということだな。


 最後に村人が最低限自衛できるようになるまでは、冒険者の半数は確保して欲しい。これは、俺たちだけでは村を荒らす魔物に対処しきれない可能性があるからだ。


「うーん……ここで渋ってせっかく拓いた村が潰れても仕方ない、か。うん、何とか父上に掛け合ってみよう」

「お願いします。あ、あとこれは村とは関係ないのですが――」


 二度とローランと顔を合わせたくない旨を伝えておいた。

 いくら悪い奴ではない、とアルフォンスが擁護ようごしようともあんな幼稚で自己中心的な人間と話をするなんて、考えるだけでストレスだ。


「ハハハ……分かった。本当に困らせてしまったみたいで、申し訳なかったね」


 今後も奴と顔を合わせないといけないなら、ロンブリエールを出て行くことも大真面目に検討するレベルだ。今思い返すと、じわじわと怒りが沸いてきたぞ。


 そうして怒涛どとうの勢いで九月、一〇月が過ぎ去り一一月に入った頃、ようやくロンブリエールが落ち着きを見せ始めた。

 寒くなって、魔物の活動も少しだけ鈍ってきているみたいだ。これならば、そろそろ良い頃合いだろう。


「それではレオさん、娘をよろしくお願いします」

「ええ、お任せください」


 フィリップたち町の住人に見送られて、俺たちはロンブリエールを発った。

 アルフォンスの依頼で開拓村へと向かうことになったメンバーは、俺と『クロー』にアデライトの計六名となる。


 当初は俺と『クロー』だけの予定だったのだが、どこから話を聞きつけたのかアデライトが一緒に開拓村へ行きたいと言ってきたのだ。


 俺が考えるに、どうもアデライトは俺とパーティーを組みたいらしい。確証があるわけではないがシャルリーヌ曰く、俺とクロエが二人で動いていた時はアデライトが羨ましそうにしていたようだ。


(むぅ、師匠にあんなくっついて……!

「心の声が漏れてるわよクロエ。いつもの貴女の方が、アデライトさんより激しいのよ?」

「は、激し――!?」


 そんな『クロー』女性陣のやり取りは、ガラガラと響く荷馬車の音に紛れて聞こえなかったようだ。ちなみに『クロー』はエリクが御者の経験があるということで、二台体制で開拓村へと向かっている。


「ん~♪ ふんふんふーんっ」

「何だか楽しそうだな?」


 荷馬車の御者を務める俺の隣で、鼻歌を歌っていたのはなんとアデライトだった。正直、出会った頃のツンツン加減はどこへ行ってしまったのかと、問いかけたくなるくらい……何と言うか丸くなっている。


「う、うるさかったかしら?」

「いや、そういう意味で言った訳じゃないんだ」

「そう……なら良かった」


 見ろ、この変わり様を。

 いつもだったら「何よ、文句あるの?」くらい圧が強いのに、足をパタパタと揺らしながら純粋無垢じゆんすいむくな少女のような雰囲気を《かも》醸し出している。


「~~~♪」


 しかし、綺麗な声だ。

 居酒屋『カルム』で歌でも歌えば、一瞬で人気が出そうな気がする。惜しむらくは、今は気分よく旅ができる季節ではないということだろうか。


 しかし、フィリップもソフィもだが、自分の子供が見知らぬ開拓地で冒険者活動を行うというのに、こころよく送り出してくれたな。仮に俺が親の立場なら、少しは心配しそうなものだが……。


「皆、レオを信頼してるからよ」

「おっと、すまない。口に出てたか」

「良いじゃない。これから二日は馬車旅なんだし、リラックスしていきましょう」


 アデライトはそう言いながら俺に寄りかかってくる。

 本当にどうしてしまったんだ、アデライト。


「ずっと馬車に乗ってて動いてないから、ちょっとだけ寒いのよ……」

「後ろに毛皮のコートがあるぞ?」

「――この分からず屋!」

「痛っ! な、何だよいきなり!」


 アデライトが寒いと言うから、防寒着を持ってきていることを伝えただけなのに、何故か足を踏まれてしまった。最近、アデライトのことがよく分からないよ。

 ――翌日。

 今日も今日とて、時折吹きすさぶ風に耐えながら荷馬車の手綱を取る。そんな俺の隣に座るのはクロエなのだが、俺の視点からはクロエのつむじしか見えない。


 昨日の何がクロエの気に障ったのか、朝からずーっとこんな感じで俺にくっついているのだ。体温の高いクロエがくっついていることで、顔以外寒くないのは新しい発見だったかもしれない。


「今日は私が隣で師匠のお話し相手になりますからね!」

「あ、あぁ……ちなみに――」

「ここは誰に何を言われようと、絶対に譲りませんからね!」


 打って変わって後ろの馬車からは、アデライトから何か言いたげな視線が突き刺さっている。まとう雰囲気は鋭い。一緒に座っているエミリアンが完全に委縮しているぞ。

 昨日のアデライトは俺の見た幻覚だったのだろうか。

 そんなこんなでロンブリエールをって二日目の夕暮れ、俺たちの目の前にそれらしき村が姿を現した。

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