第18話 家族仲と旅する商人?
「じゃあ、クロエの近況も話したしそろそろ――」
「待って!」
そろそろ良い頃合いだろうと席を立とうとしたところ、凄まじい反応でセリーヌが俺の手を
呆気に取られていると、セリーヌは声を潜めんて耳打ちしてくる。
「その。初対面の貴方に頼むのは申し訳ないのだけれど、折り入ってお願いがあるの……」
何故だろう、嫌な予感を感じるのは。
この感覚を覚えたのは、以前、森で遭難した時にクリストフが謎の卵を持って帰って来た時以来か。
あの時は大変だった。
クリストフが持っていた卵の正体はリザードマンの卵で、俺たちは一日中森の中を追われることになったのだ。
俺は今、その時と同じくらい厄介事の気配を感じている。
狩人としてのセンサーも、ビンビンと危険信号を発しているし何とか退散したいものの、先ほどから俺の手は万力のような力で握り締められていて、身動きが取れない。
「……見かけによらず、強引なんだな」
「知らなかったの? ロンブリエールの女は強いのよ」
「はぁ、降参だ降参。聞くだけだぞ」
セリーヌは俺のことを逃がすつもりがないらしい。
厄介な女に目を付けられたものだと、ため息を吐きながら椅子に座りなおすとセリーヌが身を乗り出して言う。
「今、貴方はクロエの師匠をしているのよね?」
「まあ、そうだな」
「私が町に居ない時だけで良いから、クロエの身に何かあった時は助けてあげて欲しいの」
そう言うと、セリーヌは深々と頭を下げた。
ふむ……冒険者の道に引き込んだんだから、責任を取れということか?
「冒険者は何があっても自己責任だ」
「分かってる。貴方の厚意に甘えることになることも、過保護なことも分かってる」
「冒険者を甘やかすなかれ、この意味が分からないわけではないだろう?」
冒険者にはいくつかの格言……というか、教訓のような言い伝えがある。それが、冒険者を甘やかすなかれ、だ。冒険者は油断すれば死ぬ、どれだけ実力があっても死ぬ時は死ぬ。
そもそも、俺がいつまでこの町に居るかなんて分からない。
急に明日出ていくかもしれない。
「だから、そのお願いは聞けな――」
「まあまあまあ、お二人さん。ちょっと口を挟ませてもらっても良いかな?」
俺がそう断りを入れようとしたその時、隣の席に座っていた若い男がクルリと体をこちらへ向けて話に割り込んできた。
俺たちに声をかけてきたのは、金髪碧眼で上質な服を
「僕はアル。この辺りを旅する商人なんだけどね、つい面白そうな話が聞こえて来てしまって、つい口を挟ませてもらった」
「坊ちゃま……」
「いいじゃないか、爺。あ、こっちはお目付け役的な爺のケヴィンだよ」
向かいで食事をしていた壮年の男性が
「坊ちゃまがご迷惑をおかけします……」
「ははは、迷惑なんて酷いなぁ」
ならお目付け役が止めてくれよ、と言いたいところだがケヴィンも苦労しているのだろう。気苦労が絶えない、そんな顔をしている。
「僕は仕事の都合で色んな町を訪れる。その上で言わせてもらうと、このロンブリエールは冒険者が特に少ない町だ。だから赤毛の彼女が言う通り、冒険者同士の助け合いは重要だと思う」
アルは意見を求めるように、俺の方へ視線を寄越した。
「まあ、冒険者同士で力を合わせることは大事だ」
「そうだよね。だけど、一方でそこの彼が言っていたように冒険者は、何があっても自己責任。良くも悪くも自由に動けるのが強みなんだ」
「それは、その通りだけど……」
アルに促されたセリーヌが、渋々と言った様子で頷いた。
それを見て満足げな笑みを浮かべたアルは、パンッと手を叩いて俺たちの注目を集める。
「冒険者が足りない。王都から遠ざかれば遠ざかるほど、この傾向は顕著に表れる。だから僕は思うんだ、魔物の脅威に対抗するために冒険者が死なないように助け合うしかないって」
まあ、アルの言わんとしていることは分かる。分かるが、それは無茶な話だ。
大前提として、冒険者は自己中心的な人間が多い。
というか、村に馴染めなかったり自由を求めて冒険者になる人間が大多数かつ、実力主義の気風がそうあれかしと言っているようなものだ。
「確かに、今いる冒険者の質が上がって死ににくくなれば、冒険者不足はある程度解消するかもしれないが……」
冒険者の底上げを図る、そんな良い方法があるのか俺には分からない。
すると、ニコリと邪気のない笑みを浮かべたアルが俺を見ながら言った。
「冒険者は実力で上下関係が構築される。どこかに高ランクで実力があって、駆け出し冒険者にもお節介を焼いてくれる――そんな指導役が居てくれれば、良いんじゃないかと思うんだよねぇ〜」
奇しくも、先日アシルが言っていたことと似たようなことを言われてしまった。うむむ……指導役か、果たして俺に務まるのだろうか。
「セリーヌはどう思う?」
「えっ……私!? 私はその、町のためになるなら、良いことだと思う」
セリーヌに話を振ると、驚いたようにワタワタと手をバタつかせた後、ゆっくりと考えながら意見を述べた。
「君の指導なら問題ないと、僕は思うけどね」
「何が言いたい?」
「はは、王都で知らぬ者はいなかったBランクパーティー『ノヴァ』のレオの指導は、僕も興味があるって――そういうことだよ」
「んなっ!? び、Bランクパーティー!?」
背後でガタガタっとセリーヌが立ち上がって驚きを露わにする。何というか、新鮮な反応だ。ロンブリエールに着いて早々、クロエの騒動があったから俺のランクについては有耶無耶になっていたところがある。
シャルリーヌも、俺のランクについて誰にも口外していないようだし、こうして冒険者ランクで驚かれるのはシャルリーヌ以来だ。
だからこそ解せない。
何故、この町に立ち寄っただけの商人が俺のランクを把握しているのか。
「僕としてはなぜ実力者の貴方がこんなところに居るのか聞いてみたくはあるけど……今日のところは退散しておくよ。どうやら警戒されてしまったみたいだし」
アルとケヴィンは話を聞かせてもらった礼として、俺たちの分まで代金を支払うと食堂から出て行った。後に残されたのは、驚いた表情で俺を見つめてくるセリーヌ。
「じゃ、じゃあ、俺もこれで――」
「待って! そう
またもや腕を
少し買い物に出ただけなのに、今日は長い一日になりそうだ。アルとかいう商人の顔は覚えたからな……!!
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