もの食い奇譚
明(めい)
第1話
リクルートスーツを着てパンプスを履き、肩甲骨あたりまである髪を綺麗に結い上げて宮前千里は一人暮らしのアパートを出る。
十月中旬はまだそれほど寒くはない。
今日は日本語学校の教師として働くための面接がある。
大学で日本語教育を学んだあと、専門学校で四百二十時間の養成講座へ通い、日本語教育能力検定試験にも合格した。
二十四歳。履歴書をバッグに入れて、駅に向かう。
どこからともなく枯れた葉が落ちてくる。吹く風に砂が混じっており、目に入らないように俯いて歩いていると――。
澄んだ鈴の音が聞こえてきた。ただならぬ気配を感じて顔を上げると、そこには銀色の狐ともオオカミともつかない四足歩行の珍獣がうなり声を上げて立っている。
全長三メートルくらいはあるだろうか。
内心溜息をつく。こういうものには迂闊に触れないほうがいい。
駅の途中の住宅街。会社へ向かう人たちの姿もちらほらと見られるが、この珍獣に気づいている様子はない。
「なにか用」
銀色の動物は威嚇するようにウゥゥ・・・・・・声をあげるだけで答えない。
先祖代々、宮前家は魑魅魍魎から妖怪までなんでも見えるのである。
妖怪たちが悪さをするからと、何代か前の何人かのご先祖達が妖怪退治の呪文なりお札なりを作って退散させようとしたこともあったらしいがどうにも抜けているところがあって、作った札を間違え返り討ちに遭って亡くなったり更に不幸になったりと、苦労が絶えなかったそうだ。
血は争えないから多分千里自身どこかでポカをやらかす、という恐怖が前々からある。だから妖怪を見かけても大抵は特別なことをせず素通りするか一目散に逃げるか、話をして解決するかのどれかになる。
日本語学校の教師を目指したのも、こんな日本中に溢れる妖怪を見るのに嫌気がさしているからだ。
外国語を習得して、海外へ行って日本語教師になるのが最終的な目標である。
「用がないなら行くわね。今日は大切な面接があるの。一番受かりたいところだから」
土日休み、給料もいいし好待遇なのだ。立ち去ろうとすると、背後から再び鈴の音がした。
「失礼。ご容赦願います」
もう一人いたのか。珍獣から鈴の音が聞こえないと思っていたら。
即座に抵抗しようとしたが、背後から頭に衝撃が走り、千里の身体が傾く。
なにかを思う間もなくつと意識が消えた。
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