第4話 この話の主人公は、この俺だ!!

 俺の名前は、藤井則宗。

 この物語の主人公だ。


 俺は正義を執行し、ヒーローになる!!


 何の話かって──?

 もう少し、詳しく話そう!


 俺は所属するバスケ部で、不当に低い評価を受けていた。


 部員の中で一番練習しているのに、試合には出られない。

 ベンチ要員の中でも序列は最下位で、練習試合にすら出たことはない。



 ──なっ! 不当だろ?


 朝練は誰よりも早く来て、やる気をアピールしているというのに、この扱いだ。

 体育館のひんやりした空気が、朝の努力を虚しく強調している。


 ──やってらんねーぜ!!



 そんな不満を抱えながら、部活に精を出す日々を送る俺に、転機が訪れる。


 なんと、親父が再婚したのだ。

 再婚相手は、水谷圭子さんという二人の娘を持つ、キャリアウーマンだった。


 ──というわけで、俺は突然、親父の再婚相手の圭子さんや、その娘二人と一つ屋根の下で暮らすことになった。


 ラブコメで、よくある展開だ。


 だから、俺は主人公なのさ。


 さらに、圭子さんの連れ子の一人は、顔見知りだった。

 相手はバスケ部のマネージャーをしている、一年生の水谷真美……。


 そいつが、俺の妹になったのだ。



 ここまでは、よくある話だ。


 ──いや、ねーよ!

 というツッコミが聞こえてきそうだが、ラブコメのアニメでは、よくある展開じゃないか。


 そんなわけで、俺は恋をした。


 相手は誰かって──?

 気になるよな?


 いいぜ、教えてやるよ!



 この展開であれば──

 俺は血の繋がらない妹と恋をして、禁断の関係に苦悩する。


 そんな恋バナになると予想しただろう。



 ──だが、違う。


 俺はそこいらの主人公とは、一味違うんだぜ!!


 俺の恋した相手は、親父の再婚相手で義理の母親、『水谷圭子』さんだ。

 二人の子持ちとは思えないほど若々しく、美人で、俺に優しく接してくれる。


 一緒に暮らすうちに、俺は次第に彼女に心惹かれていった。

 だが、相手は義理の母親だ。


 この恋が成就することは無い。

 決して──


 それでも良かった。

 それに、叶わぬ恋だからこそ、気楽に楽しめた。


 一緒に住んでいるから、オカズの収集にも困らないしな──!



 相手に気づかれないように、警戒されないように、俺は片思い同居生活を満喫する。

 そんな日々を過ごしている中で、俺はある時、能力を手に入れた。



 『──おめでとうございます、あなたは『能力』を手に入れました』



 そんな声が直接、頭に響いてきた。

 そして『能力』を授けられる。


 能力の名前は『噂話』──

 俺が噂を流すと、それを皆が信じ込むという力だ。


 『能力』という割には、なんかショボいな……。

 最初はそう思っていた。


 だが、この能力を使うと、俺を取り巻く環境は劇的に変化した。


 俺は新しくできた妹の真美とは、あまり上手くいっていなかった。


 年頃の真美は、いきなりできた年の近い兄に、戸惑っていたのだ。

 俺に対しては、いつもよそよそしく、他人行儀に接してくる。


 けれど、俺が圭子さんに「心配しないで下さい。俺たち、すごく仲が良いんですよ」というと、実際に、その通りになった。


 次の日から、妹の真美が、俺と気安く接するようになってくれた。


 まるで、何かの魔法にかかったように。



 『噂話』を使うと、その内容が本当になったのだ。


 俺は能力を手に入れたことに浮かれた。


 そして、もっと使ってみることにした。

 色々と使ってみて、何ができるのかを試していこうというわけだ。


 今度は所属するバスケ部に、噂を流した。


「──藤井則宗は、ダンクができるらしいぞ」


 噂は、あっという間に広まった。

 部活中、ちらほらとそんな声が聞こえてくる。



 ──けれど、この能力にも限界はあるらしい。

 噂は広まったが、俺はダンクをできるようにはならなかった。


 どうやら、この能力で変えられるのは、噂話に影響される「人の意識」だけらしい。


 身体能力を強化できないのは残念だったが、心を操れるだけでも素晴らしい。



 俺はバスケ部に「藤井則宗はとても努力家だ。皆がそれを認めている」という噂を流す、すると皆からチヤホヤされるようになった。


 俺はいい気分で部活に励んだが、一つだけ気がかりが発生する。

 バスケ部の中に一人、『噂話』に影響されない奴がいた。


 これは、俺にとって、大変由々しき事態だった。



 そいつの名前は『八上義人』といって、俺が前から気に食わなかった奴だ。


 そいつは背が高いわけでもなく、足が人より速いわけでもない。

 ボールの扱いが上手いわけでもないし、持久力もない……。


 それなのに、そいつは……試合ではいつもスタメンだった。



 そいつの長所と言えば、人よりも少しだけ、「シュート成功率が高い」……。

 ただ、それだけだった。


 そいつは試合で、一番点を取っている。


 だが、それは、そいつが沢山シュートを打っているから、そういう結果が出ているだけだ。

 シュート以外は他のメンバーにやらせて、一番おいしいところだけを、そいつが独占していた。


 ズルいじゃないか、卑怯な奴だ。


 ──そう思っていた。



 だから、俺は『八上義人』を、バスケ部から追放することにした。

 奴には『噂話』は通じないが、他のメンバーには効果がある。


 俺はバスケ部内に、八上義人がズルくて、邪魔な奴だという噂を流した。


 特に妹の真美には、「アイツは強姦魔で、お前の事を狙っているから気をつけろよ」という噂を流してやった。


 真美はその噂を信じ、本気で怖がっている。



 ……。


 …………。


 一週間後、奴は皆の前で、監督から「クビ」を言い渡される。


 ──八上義人は、バスケ部を追放された。


「ざまーみやがれ! ……くくくっ」


 俺はひっそりと、ほくそ笑む。


 そして──

 心の中で勝利の雄叫びを上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る