第37話

「そろそろ帰るか」


立ち上がり、スカートについた砂を払っていると


「何してるの?」


振り返ると日野くんの姿がそこにあった。


会いたかったはずなのに、いざ目の前にするとどうしていいかわからない。


ラインはできても、直接会って話すのは本当に別れたあの日以来なのだ。


思わぬ事態に私の中のアラームが点灯する。


何か言葉を発さなければ…


「ちょっと、寄りたくなって」と小さく声に出して、"あっしまった。"と我にかえる。


日野くん、私の言葉をどんな風に受け取っちゃったかな…

不安げに日野くんの方をチラリと見る。


夕日が沈み始めた薄暗い空は、日野くんの表情を隠していた。


少し間があって、「そっか」と声が聞こえる。


「懐かしいなって思って、久しぶりに来たの。そしたら、いきなり日野くんが現れちゃうんだもん。もうびっくりだよ。」


あまりに恥ずかしくて、言い訳をするようにごちゃごちゃと言葉を並べてしまう。


「俺もたまに来てましたよ」


えっ…


鼓動が加速していく。


それがどういう意味なのか、聞きたいのに言葉は口から出てこなかった。


「ごめんっ俺この後練習あるから」


と言って、去っていこうとする背中に思わず声をかける。


「…日野くんって、今好きな人いる?」


ドキドキドキドキ


「いる。ずっと変わってない。…じゃ!」


それだけ言って、日野くんは行ってしまった。


「それって、私のこと…?」


雫が落ちるようにぽつりとつぶやいた言葉は、闇の中に消えていった。

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