第35話

防寒具を装備し、一斉下校のため生徒でごった返す校門を勢いよくくぐり抜ける。


徒歩通学の生徒を次から次へと追い抜いていくと、日野くんの後ろ姿が目に入った。


職員室前で見た光景を思い出し、何故だか胸がチクチク痛み始める。


今隣を歩いているのが、女の子じゃないことに安堵する自分がいた。


咄嗟にヘルメットを深く被り、スピードをさらに上げると、一瞬で日野くんの横を通り過ぎた。



夜になると、メッセージを知らせるまぬけな音で目が覚めた。


帰ってからスカートだけ脱いで、夕飯も食べずに眠ってしまったらしい。


上は制服、下はズボンというちぐはぐな格好のまま、目を細めて画面を見る。


ラインが一件届いていた。


「今日、自転車で通りましたよね?!声かけてくださいよ!」


日野くんからだった。


今日見てしまったあの光景が頭にこびりついていて、なんだか落ち着かない。


「ごめん、急いでた!」


もちろんそんなのは嘘だ。 


「次からは頼みますよ!」


「そういえば、今日、職員室前でも日野くん見かけた」


「もしかして、怒られてたところですか?」


「そう。笑」


「まじかー恥ずかしい。」


「一緒にいたのクラスの子?仲良いんだね」


「うん、クラス仲良いです!」


「すごくお似合いだった。」


既読はついたが、テンポよく続いていたラインが急に静かになる。


画面の向こう側にいる日野くんの表情を想像すると、不安になった。


…私らしくないな、こんなこと言うなんて。


この後送られて来る返事を見るのが怖くなって、画面を閉じると逃げるようにお風呂に入った。


どこへ逃げようが、頭の中はもう日野くんでいっぱいだった。


お風呂から出て、恐る恐るスマートフォンをタップすると、メッセージが画面に映し出される。


「そんなんじゃないけど。…嫉妬ですか?」


ズキンッ


胸が大きく震えた。


図星だ。


どうしよう、返す言葉が見つからない。


…もう寝ていることにしよう。


スマホを充電コードに差し込み、布団を被る。


ドクドクとうるさい心臓のせいで、いつまで経っても夢の世界へ逃げることはできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る