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鈴はその話に聞き入っていた。こんな事がきっかけで神戸で教員になろうと思ったのか。でも、この日に生まれたってのはすごいな。そして鈴は気になっている事がある。楽天イーグルスの初のリーグ優勝の瞬間だ。鈴はそれをテレビで見ていた。まさかその中に公希がいたとは。あの時は自分も感動して、1995年のオリックス・ブルーウエーブの事を思い出した。
「西武ドームでのあの試合も、Kスタでのあの試合もテレビで見てたよ。私も感動したわ。それにね、似たような事が1995年にもあったんだ」
公希は首をかしげた。自分が生まれた年にも、これに似たようなことがあったのか。ぜひ、どんな話なのか聞きたいな。
「えっ!?」
「がんばろうKOBE!」
鈴は誇らしげな表情だ。これは1995年のオリックス・ブルーウエーブのスローガンだ。この年の初め、1月17日に起こった阪神・淡路大震災が起こった。それによって、多くの人が亡くなり、被災地では多くの人々が苦しい生活を送っていた。そんな人々のために考えたスローガンだ。
「がんばろうKOBE?」
「オリックス・ブルーウエーブの事だよ。オリックス・バファローズの前身。震災の起こった1995年に、そこでリーグ優勝を決めたんだよ。その時も、みんなの力を感じたわ」
そんな球団があったのか。オリックス・バファローズがあるけど、その前身だろうか? 今は大阪の京セラドーム大阪が本拠地だけど。
「そうだったんだ。思えば楽天って、ブルーウエーブとバファローズの合併問題が発端となった球界再編で生まれた新球団なんだね」
オリックス・ブルーウエーブは当時、とても強いチームだった。日本球界のスーパースター、イチローがいて、名将仰木彬が率いていた。だが、2000年を最後にイチローはメジャーに行き、仰木監督は2001年に退任した。そしてオリックスは低迷期に入った。そんな中で、同じく低迷していた近鉄バファローズとの球団合併が起こった。12球団のファンや選手たちはみんな反対したが、結局合併になってしまった。そして、東北に楽天イーグルスという新球団が誕生した。
「うん。ブルーウエーブがこんな形でなくなるって、信じられなかったよ。でも、イチローがいなくなって、チームが弱くなって。それは避けられなかったのかなって」
バファローズはその後も低迷を続けたが、2021年にリーグ優勝、2022年に日本一、2023年にパリーグ三連覇を達成した。徐々に強くなってきたように思えるが、2024年はBクラスに転落した。これからバファローズはどうなってしまうんだろう。
「それにしても、阪神・淡路大震災が起こった年に、こんな事が起こったなんて。東北と共通点があるね」
言われてみればそうだ。被災した人々のために日本一になった。そう思うと、スポーツの力ってすごいなと感じる。誰かのために戦う人間って、こんなに強いんだなと思う。
「うん。スポーツの力って、人を感動させるだけでなく、勇気を与えるんだなと」
「仰木さん・・・」
ふと、鈴は仰木監督の事を思い出した。仰木監督に何か思い出があるんだろうか?
「仰木さん?」
「ブルーウエーブがリーグ優勝、日本一になった時の監督だよ。オリックス・バファローズができた時にまた監督として戻ってきたんだけど、その年限りでやめちゃって、その年の暮れにがんで亡くなっちゃった・・・。もし、もっと生きていて、もっと率いてたら、また強くなれたと思ったのに」
そんな事があったのか。がんを患ってでも頑張ろうとするその情熱、すごいな。でも、もっと生きていれば、バファローズは黄金期に入っていたんじゃないかと思う。だが、その黄金期を継続するのって、難しいのかな? 落合博満監督のもとで黄金期を極めた中日ドラゴンズも退任してからは弱くなっていき、Bクラスの常連になっている。去年まで指揮していた立浪監督の3年間はずっと最下位だった。監督を選ぶのって、難しいのかな?
「そうなんだ・・・。楽天をリーグ優勝、日本一にした星野監督も亡くなったんだな。そして、星野監督の背番号77は永久欠番になったんだよ」
星野監督は2014年を最後に監督を退任して、シニアアドバイザーになった。2016年にがんが発覚したが、公にされなかったという。そして2018年の初めに死去。そのニュースを知って、公希は驚いたという。あまりにも突然の出来事だった。星野監督の付けていた背番号77は監督として初めて、楽天イーグルスではファンの背番号10に次ぐ2つ目の永久欠番になったという。
「そうなんだ」
鈴は日本一になった瞬間を思いだした。あの瞬間はすごかった。1996年にブルーウエーブが日本一になった時は普通だったのに、あの時はそれ以上に感動した。『あとひとつ』の大合唱で送られてマウンドに立つマー君、日本一を決めてガッツポーズをするマー君、世界一かっこよかったな。
「私、あの瞬間を見てて、ブルーウエーブが日本一になった時の事、思い出したの。みんなの想いが、やっと通じたんだと。そして、誰かを思う事で、人は強くなれるんだと思った」
「そうなんだ」
その話に、みんなが共感していた。これが人間の力なんだなと。もっと人間の力について知りたくなったな。
「確かにそうかもしれない。みんなの想いが、楽天を動かして、日本一に導いたのかなって」
誰もがそう思っているだろう。誰かのために頑張れば、奇跡が起きるかもしれない。それを、子供たちに伝えていきたいな。
「どんな困難があっても立ち直り、立ち上がるのが人間なのかなって」
「確かに。その思い、みんなに伝えていきたいね」
これからも大きな困難が待ち構えているかもしれない。だけど、助け合う力があれば、どんな困難も乗り越えられる。それが人間の力なんだ。
「それもそうだし、困ったときは助け合い、互いに生き抜くのも人間のあるべき姿なのかなって」
「そうかもしれない。困った時があれば、みんなで協力するのがそうだね」
「それを、後世に伝えていかないとね」
彼らは思っていた。助け合う力をこれからの人々に伝えていければ。
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