第4話

「そう…、あの桜も見納めね…」

私は窓から、庭の桜の樹を見やった。雪を積もらせたかのような満開の花が、吹き始めた風にはらはらと散ってゆく。青灰色の雨雲が、西の空から凄い速さで迫ってきているのが見えた。

「…なんだか、いやな感じの雲…」

 

2時間も経たないうちに、雨が激しく降り始めた。まだ夕方前だというのに外はどんより暗く、強風が窓を叩く。

「あら、いけない」

「どうしたの、おシゲさん?」

「旦那様、傘をお忘れですわ」

おシゲさんは手に、父の愛用の折りたたみ傘を持って、困った顔をしていた。普通の人なら誰かに傘を借りるとか、ハイヤーを呼ぶとかするところだが、父はそこまで頭が回らないだろう。なにせ、鉱物学に関する頭脳を除けば、父には普通の人が持つ常識とか要領とかがほとんど無い。それは家族の私達が最もよく知っていた。

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