お花見と新学期

11時30分。空は青く澄み渡っている。

絶好のお花見日和だ。カバンを背負い直す。

(先に場所取りしてようかな)

公園に入り、桜の木を見回す。

通路沿いに咲いる2本の桜の木に目が止まる。

どちらの木の周りには誰もいない。

いい場所を見つけたと、口元を緩める。

カバンからレジャーシートを取り出して、桜の木の間に敷いた。

重しの代わりに、カバンと弁当箱を置き、桜を見上げた。

空の青に薄桃色の桜が、よく映える。

とても美しい景色だと思った。

この街には、こんなに綺麗な場所があったのか。

桜の木を眺めていると、花びらが降ってきた。

その1つを手のひらに優しく包み込む。

それを眺めていた時、足音が聞こえて顔を上げた。

「お待たせ。準備してくれて、ありがとう!」

レナが来ていた。

彼女がトートバッグをシートに置く。

「お弁当作ってきたの」

「私も。お菓子も買ってきたよ。レナの好きなカフェで」

「えー!ありがとう!何だろ、気になる」

「先にお昼食べよっか」

弁当箱を開けて、カバンから紙皿と箸を取り出した。

レナもランチボックスを開けて、サンドイッチを紙皿に置いてくれる。

「美味しそう!レナ、ありがとう」

「こちらこそ!卵焼きある!おひたしも、春巻きも!私の好きなやつばっかり!」

「サンドイッチも私の好きな具材ある!ありがとう、レナ。飲み物、ジュース何種類か持ってきたんだけど、どれにする?」

カバンからジュースを数本と、紙コップを取り出してレナの前に置く。

「ええ?いいの?」

「もちろん」

レナは驚いたように目を丸くしていたけれど、1番端のペットボトルを手に取った。

「これにする」

「うん」

レナが紙コップにジュースを入れているのを見ながら、梨花もペットボトルを取り上げた。

余ったボトルをシートの端に寄せて、紙コップを持ち上げる。

「それじゃ、かんぱーい」

「かんぱい」

コップを当てて、ゆっくり離す。

梨花はサンドイッチと紙皿を取り上げて、桜の木を見上げた。

「桜、綺麗だね」

「うん」

2人で桜を見ながら、弁当を食べる。

「お弁当、美味しいよ」

「私も、美味しかった」

2人で持ち寄った弁当箱を片付けて、お菓子を広げた。

「お菓子食べようか」

「うん。明日から、新学期だね」

「そうだね」

クッキーを食べながら桜を見上げる。

「同じクラスだといいね」

「そうだね」

もうひとつ、クッキーを取り上げて反対の手でポケットを探る。

それを手のひらに載せて、レナに差し出した。

「これは?」

「開けてみて」

不思議そうにしているレナの手に小箱を乗せた。

手のひらに乗せられたそれを、レナが楽しそうに開ける。

「え…」

中から出てきた指輪を驚いて見つめる。

「可愛い!

「レナに似合いそうだと思って買ったんだ」

「ありがとう。ねぇ、梨花。指輪を贈る意味、知ってる?」

「?」

首を傾げると、レナが照れたように笑う。

「あのねー」

その時、ざあっと風が吹いて花びらが舞い踊り、レナの言葉の続きを聞くことはできなかった。

「ごめん、今なんて?」

「ううん、何でもないの」

「?教えてよ」

「また、今度ね」

「そろそろ、帰ろうか」

レナが立ち上がり、弁当箱を片付け始める。

梨花もそれ以上、追求することができなくて、一緒に片付けを始めた。

荷物をまとめて、公園を出る頃には夕方になっていた。

「今日はありがとう。楽しかったよ」

「私も楽しかった!指輪もありがとう。大事にするね」

「うん、お弁当ごちそうさまでした」

駅の近くまで来て、そこでレナと別れた。

改札を通り、ホームへ向かう。

ちょうど入ってきた電車に乗り込んだ。

車窓を流れる景色が夕焼けの色に染まっている。

(指輪を贈る意味、か)

結局レナは、それを話してくれることはなく、わからずじまいだった。

指輪の丸い形からして、永遠を意味しているのだろうか。

(クリスマスリースも、永遠って意味を持つものね)

指輪について考えているうちに、最寄駅に着いた。

電車を降りて、改札へと向かう。

その時、指輪を贈ったことがレナを苦しめることになるなんて予想もしていなかった。


翌朝。昇降口に人だかりができていた。

クラス替えの用紙が張り出されていたのだろう。

梨花もその中に入り込み、自分の名前を探す。

(金山……あった、2組)

人だかりを抜けて、下駄箱へ向かう。

上履きを取り出したところで、肩を叩かれた。

「おはよう、梨花」

「おはよう。レナ、何組だった?」

「2組だよ」

「同じだ」

「本当?嬉しいな!よろしくね」

「こちらこそ」

話しながら、階段を登り教室へ向かう。

教室のドアを開けると、維澄がいた

彼は驚いた様子でこちらを見ている。

「神山たちも同じクラスなんだ」

「そうだね!これから、よろしくね浅村くん」

「ああ、よろしく。金山も」

「うん」

レナの方を見ていた維澄が、梨花に視線を流す。

その瞳は何か言いたげだった。

「いこ」

梨花はそれに気づかないフリをして、レナの手を引いた。

席について、窓の外を見る。

まさか、維澄も同じクラスになるなんて。

予感がする。何が大きく変わる予感が。

そのうち、チャリムが鳴り響いて新しい担任が入ってきた。

「10時から始業式があるから、体育館に移動するように」

それだけ言うと、教室を出ていく。

「行こう」

レナと一緒に体育館へ向かう。

その途中、維澄が声をかけてきて、3人で体育館へ向かった。

ー長期戦になりそうだ。

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