宝物
駅前書店を出て、家に向かっているとスマホが振動した。
レナから電話がかかってきていた。
「もしもし?」
「梨花!今どこ?」
「駅前書店を出たとこだよ。ほら、アンナっていうカフェの前」
「そこね、私もその近くにいるだ。今から会えない?」
「もちろん。どこで会う?」
「んー、アンナって名前のカフェの前に噴水があるんだけど、見える?」
「見えるよ。今、目の前にいる」
「そこで待ち合わせよう。すぐ行くね」
そう言うなり、レナが電話を切った。
スマホを片手に噴水に近寄る。
透明な水が、青い空に溶け込むように吹き上げていて綺麗だった。
近くのベンチに座り、噴水を眺める。
後ろから足音が聞こえてきて、トンっと肩を叩かれた。
「梨花!」
振り返ると、レナが微笑んでいる。
手には紙袋を持っていた。
「あそこのカフェ行かない?」
「いいね」
レナと一緒に近くのカフェに入る。
案内された席に座り、紅茶を注文した。
「久しぶりだね」
「そうだね!」
「レナ、その紙袋は?」
「これは梨花へのお土産だよ」
レナが紙袋を漁り、お菓子の皮を取り出した。
「わあ、ありがとう!」
受け取った間には、この辺りでも大きな遊園地の名前が入っていた。
「ここ、行ってきたの?」
「うん!楽しかったよ」
レナがニコッと笑う。とても可愛らしい。
「誰と行ったの?」
「浅村くんと」
缶を荷物入れに置いて、レナを見つめた。
維澄と行っていたなんて。
維澄に先を越された気分で悔しかった。
「お待たせしました、紅茶お2つです」
「ありがとうございます」
固まっている梨花とは違い、リレナは楽しそうだった。
紅茶を飲みながら、遊園地に行った日のことを話してくれる。
とても楽しかったようだ。笑顔が絶えない。
「それでね、お揃いの被り物も買ったの」
「へー。何の被り物?やっぱり、リリー?」
「そう!リリーの新しいやつがあってね、それが可愛くて。あ、これ、その時の写真」
レナが見せてきたスマホの画面には、維澄とレナのツーショットが表示されていた。
2人とも楽しそうに笑っている。
ズキリと胸が痛んだのには気づかないフリをして、笑みを浮かべた。
「本当に可愛い!レナ、よく似合うね」
「ありがとう」
彼女の笑顔を見て、胸の内がざわめきだす。
ー私といるよりも楽しかったの?
ーあいつのこと好きになったの?
ーお揃いの被り物なんか買って。
ー私じゃダメなの?羨ましい。
ー私も一緒にいたいのに。
ーあいつのほうが大切なの?
ーあなたのその感情は、恋なの?それとも友情なの?
グルグルと不安が渦を巻く。
両手を握りしめた。
「れ、レナ」
「ん?」
いつもと変わらない、可愛らしい笑顔。
「浅村のこと、好きなの?恋愛的な意味で」
「ううん、好きじゃないよ。友達だとは思ってるけど」
レナの答えに、ホッと息をついた。
よかった。恋に落ちてはいないようだ。
それでも、レナが維澄に惹かれ始めているのは間違いないようだ。
ー急がないと、取られてしまう。
「ねぇ、ケーキとかも頼まない?」
メニューを差し出しながら言う。
「そうだね。どれにしようかなー」
メニューを見ながら、ケーキを選ぶレナを見つめて息をついた。
今はまだ、手の届くところにいる。
「すみませんー、これください」
「私も、これください」
レナがメニューを戻しながら、笑う。
「お土産、皆で食べてね」
「うん」
彼女が離れてしまうのは嫌だった。
手の届かないところに行ってほしくない。
梨花にとつて、レナはかわいくて大切な宝物だった。
「ねぇ、レナ。来週の日曜日、空いてる?」
「ええ」
「それなら、お花見いかない?」
「いいよ!どこでしよっか?」
「学校の近くにある華宮公園が満開みたいだよ」
「そこにしよう!朝から?それとも、お昼だけ?」
「お昼一緒に食べて、その後、桜を見ながらおしゃべりしない?」
「いいね!そうしようか」
レナが嬉しそうに笑う。安心した。
レナは梨花のほうを見てくれている。
そんな彼女を、失いたくないと思った。
この胸にある感情は、きっと梨花の願いを壊してしまう。
ーそれなら、自分の気持ちは押し殺してでも隣にいるわ。
「11時半に駅に集まろうか」
「うん、そうだね」
この胸にある花の名前は、呼ばない。
呼べない、と思った。呼んではいけないと。
気づいてはいけないと、頭の片隅で誰かが言っている。
自分の気持ちなのに、表に出せない。
それが、こんなにも辛いなんて思いもしなかった。
普段から自分の思いを我慢している人は、こんなにも苦しいのだろうか。
(それでもー)
どんなに苦しくても、辛くても、もう決めたのだ。
絶対に、レナには悟られないようにすると。
表に出さないようにすると。
「楽しみだね、梨花」
そうすれば、レナの“1番の親友”として、そばにいることができるからだ。
「うん、そうだね」
顔を上げて、レナに笑い返した。
彼女の1番近くは、誰にも渡さない。
もちろん、維澄にも。
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