不器用な君に溢れるほど、好きを。

冬雫

古傷と出会い

「はーい、皆席について。今日は転校生を紹介します」

担任の声に目をあげる。女子生徒だ。

彼女のサラサラの髪がひなと重なり、眉根を寄せた。

「金山梨花です。親の転勤で隣町から来ました。よろしくお願いします」

頭を下げる彼女に、拍手が送られる。

キリッとした猫目に、小柄で華奢な体格は彼岸花を思わせる。

彼岸花のように、少し力を入れると、壊れてしまいそうだった。

顔を上げた梨花から目が離せなくなる。

透明感のある雰囲気はどことなく、ひなと似ていた。

(どんな顔で笑うんだろう)

ふと、そう思った。仲良くなりたい。

純粋に、彼女と話してみたい。

そんな思いが胸の内を渦巻く。

ガタンと椅子を引く音がして、レナの隣に誰かが座る。

左隣を見ると、梨花がいた。

「神山レナです。わからないことがあったら聞いてね。よろしく」

「よろしくお願いします。神山さん」

「レナでいいよ。」

「わかった。私も、梨花でいいよ、レナ」

そう言って梨花が微笑む。可愛いと思った。

ーもっと見てみたい。

いつの間にかホームルームが終わり、1限開始のチャイムが鳴り響いていた。

梨花が椅子を近づけてくる。

「ねぇ、レナ。数学の教科書を見せてくれない?」

「いいよ。梨花は前の学校でどこまで習った?」

「ここ、このページの題問3と85ページの問6までだよ」

「じゃあ、ほとんど同じだ!85の問6はうちのクラスもやってるよ。92ページの復習問題の途中まで進んでるんだ」

「結構広いわね。…追いつけるかしら」

不安そうな梨花を見て、教科書に目を落とす。

確認問題のページは、幸いにもレナの得意な問題が多かった。

これなら、教えてあげることができるだろう。

「安心して、梨花。私が教えるわ」

「いいの?」

「もちろん!さぁ、始めましょう」

ノートに数式を写し、梨花のわからない問題を1問ずつ解いていく。

「今日はここまで。自習でやったページは、今週の木曜日提出な」

そう言い置いて数学担当の先生が教科書を出ていく。

「レナ、本当にありがとう」

「いえいえ、気にしないで」

「そうだ!お礼させてよ」

「いいよ、お礼なんて」

「お願い!」

「わかったわ」

「ありがとう!」

両手を合わせる梨花に頷く。

彼女は目を輝かせて、嬉しそうに笑った。

そこに古典担当の先生が入ってくる。

「静かにー!チャイム鳴ってるよ」


昼休み。突然、ガラッとドアが開いた。

「神山さん!」

京介と颯太、梨花と弁当を食べていたレナは振り返る。

「は、はいっ」

立ち上がり、ドアの方まで行くと、隣のクラスの浅村維澄がいた。

学年1モテることで有名な彼が、レナに何の用だろう。

「何ですか?」

「連絡先、教えてもらえませんか?」

「いいですよ。どうぞ」

維澄にスマホを差し出す。

連絡先を交換すると、維澄は嬉しそうに笑った。

「ありがとう、神山さん」

その顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。

「じゃあね、浅村くん」

「う、うん!また、連絡してもいいかな?」

「もちろん」

レナの言葉に、維澄が嬉しそうに笑う。

「ありがとう!」

にこやかに手を振り、維澄が去っていく。

その手には大切そうにスマホが握られていた。

京介たちのそばに戻りスマホをしまう。

「レナ!維澄くんと、仲良いの?」

「何話したの?」

「連絡先交換したよ」

レナの答えに女子たちが一斉にやってくる。

「ええー!?何で?」

「さぁ?私もよくわからないんだ」

「もしかて!レナのこと好き、とか!?」

「えー?ないない。あの人、めっちゃモテるじゃん」

「関係ないよ!モテるからってレナに興味がないとは限らないじゃん!」

「そうだよ!」

「んー」

曖昧に笑い返すも、彼女たちは楽しそうにしていた。

レナの隣で、梨花だけは神妙な顔をしていた。

レナがそれに気づく間も無く、昼休み終了のチャイムが鳴り響く。

女子生徒たちがそれぞれ席に戻り、レナはホッと息をつく。

スマホをポケットに入れようとした時、それが振動した。

取り出してみると、維澄からメッセージが入っていた。

『よろしくね、これからはもっと話しかけてもいいかな?』

『もちろんだよ』

オッケーとスタンプを送ると、維澄はニコニコしているウサギのスタンプを返してきた。

(可愛い)

意外な発見だ。

スマホをしまい、教卓を見る。

担任が連絡事項を話しているところだった。


放課後になり、教室を出る。

廊下を出てすぐに維澄と出会した。

「浅村くん」

「神山さん、今帰り?」

「うん。浅村くんも?」

「俺は部活。よかったら、下まで一緒に行こうよ」

「うん」

維澄と並んで階段を降りていく。

下駄箱に続く廊下を歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。

「レーナっ!」

「きゃっ!?」

後ろからドンっと、抱きつかれて軽くよろける。

「梨花!」

「どこ行くの?」

「帰るのよ」

「誰?その人?」

梨花が維澄を指差す。維澄は驚いていた。

教室に入って来た時に気づかなかったようだ。

「この人は浅村維澄くん。隣のクラスだよ」

「ふーん、私は金山梨花です。隣のクラスの浅村くんがレナに何の用?」

梨花はレナの腕に抱きつきながら隣のクラスを強調して言う。

何故だろう、敵意をむけている様な。

「別に、一緒に下駄箱に行くだけだよ。君の許可でもいるの?」

「いらないけど」

「それなら、いいだろ?金山さん。もうすぐ下駄箱に着くし金山さんも一緒に行けばいいじゃん。神山さんに用があるのは君のほうだろ?」

「そうよ。レナとは、これからデートするつもりなの」

「え?もしかして、朝言ってたお礼?」

「ええ。早く行こう、レナ」

梨花と腕を組んだまま、下駄箱へと向かう。

少し離れて、維澄が付いてくる。

「…やっかいだな」

「?」

維澄が何か言った気がして振り返る。

レナと目が合うと、彼は少し笑っただけで何も言わなかった。

下駄箱につき、靴を取り出す。

維澄は正門とは逆方向に歩き出していた。

「浅村くん!また、明日ね」

「おう」

少しだけ振り向いた維澄がまた歩き出す。

梨花はレナの腕を離し、少し前を歩く。

「レナ」

「うん?」

「どこがいい?」

振り返った梨花がニコッと笑う。

よっぽどお返しがしたいらしい。

「そうね。おすすめのカフェがあるんだけど、そこはどうかな?」

「いいね!行きたい!どこにあるの?」

「ここをまっすぐ行くと早川駅があるんだけど、そこから徒歩3分くらいのところだよ」

「あそこか!レナ、家あの辺り?」

「そうだよ。梨花は?もしかして、遠回りになる?」

「ううん。早川駅の2駅先にある川町」

「まあまあじゃない!遅くなっても大丈夫なの?」

「うん。大丈夫。ほら、行こう!」

不意に梨花が立ち止まり、その背中にぶつかりそうになる。

梨花は前を見たまま、動かない。

彼女の視線の先を追うと、京介がいた。

その隣にはひながいる。

ドクン、心臓が嫌な音を立てた。

2人はレナたちに気づいていない。

京介は幸せそうだ。よかった。

よかった、はずなのに。諦めたのに。

どうして、こんなに苦しいんだろう。

胸が痛い。無意識に両手を握る。

「レナ」

何も言えずに立ち尽くすレナの手を引いて、梨花が歩き出す。

京介たちは、学校前のコンビニへ入っていく。

彼らがコンビニへ入っていくのを見て、梨花が正門を抜けた。

「ちょっと、走っていい?」

「うん」

そのまま、梨花に引っ張れて走っていく。

気がつけば、レナはカフェに着いていた。

何も話さないレナを梨花が不思議そうに覗き込んでくる。

「レナ…あの人たちと、何があったの?」

「別に。私が、片思いしてたのよ」

梨花はさほど動揺していない様子で、レナの手を握りしめた。

「そうだったんだ。…もしかしてとは思ってたけど、レナって不器用なんだね。他人のことを思うあまり、自分の気持ちを犠牲にしちゃうんだ」

「颯汰にも、似たようなこと言われたな。今は、全然気にならないんだけどね」

心配そうな梨花に苦笑を漏らす。

『他人を優先』『自分を犠牲にする』どちらも、耳に痛い言葉だ。

梨花もレナの様子を見て、それを察したのだろう。

そんなに、不器用に見えるのだろうか。

そこに、店員がやって来て、注文していたスイーツとドリンクを置いた。

「お待たせしました、抹茶ラテとダージリンティー。パウンドケーキとアップルパイでございます」

「ありがとうございます」

店員が戻っていくのと同時に、梨花がダージリンティーを差し出してくれる。

「レナ、これ飲んで。ひと呼吸だよ」

「ありがとう、梨花」

カップに口をつけて、ひと口飲む。

紅茶の香りに逆立っていた心が落ち着いていくのがわかる。

「落ち着いた」

「よかった。あ、レナ、連絡先交換しない?」

「もちろん」

カップを置いて、スマホを取り出す。

連絡先を交換すると、梨花は嬉しそうに笑った。

「ありがとう」

レナもスマホを握りしめる。

梨花のおかげで、荒ぶっていた感情が落ち着いた。

「さ、食べようか」


駅から歩いて、曲がり角を曲がる。

『今日、楽しかったよ。ありがとう』

『私もだよ!また、嫌なことがあったら、話してね』

頼もしそうな顔をした猫のスタンプが送られて来た。

(本当に、心配してくれてるんだな)

それが嬉しい反面、申し訳なく思った。

部屋に上がり、スマホとカバンを置く。

部屋着に着替えていると、維澄のことが脳裏を過った。

今日は、維澄とも連絡先を交換したけれど、どうしてレナだったのだろう。

彼の連絡先が欲しい人はもっとたくさんいるだろうに。

『レナのこと好きとか!?』

(いや、ないない)

昼休みに話していた女子の言葉を思い出し、ブンブンと頭を振る。

仮に維澄がレナのことを好きだったとしても好きになる理由が見つからなかった。

恋は、理屈じゃないと言うけれどー。

(私の場合は、違う気がする)

パタパタとリビングに降りていく。

この時のレナには、2人との出会いが彼女の思いを大きく変えていくなど予想もしていなかった。

ー友情か恋心、どっちがいい?

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