第14話 気になるお年頃

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収録スタジオ

【ネットTV『NEXT TREND!』】

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セットの向こう側で、ディレクターの合図とともに照明が一斉に灯る。

天井のライトが眩しく光を投げかけ、背景には番組のロゴが映し出されていた。

カメラのレンズがわずかに動き、フレームが調整される。


「まもなく本番です、よろしくお願いします!」

スタッフの声が飛び交い、スタジオには収録前の独特の緊張感が漂っていた。


──その中央に、まりあが座っている。


黒いソファの上、足を揃え、背筋を伸ばしたまま、静かに待機していた。

まるで穏やかな湖のように、彼女の雰囲気には一切の焦りがない。


(……テレビ収録か、初めてだけど……大丈夫かな)


頭の片隅で、そんな考えが浮かんだものの、不安というよりも“未知のものを観察する”感覚に近かった。

彼女にとって、いつものライブ会場とは違う空間。それをただ、受け入れている。


「……まもなくです」

隣に座る司会者が軽くアイコンタクトを取る。


まりあは、ゆっくりと頷いた。


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【NEXT TREND!-放送開始】

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「さあ、始まりました! みなさん、こんばんは!」


番組MCの明るい声が響く。

番組のテーマ曲が軽快に流れ、画面の端にはリアルタイムでコメントが流れ始める。


『今日のゲスト誰だっけ?』『インターネット娘?』

『まりあちゃんだ!?』『名前古臭くね?』


「今夜のゲストは、ネット界で今話題のアイドルグループ『インターネット娘』から、センターの愛坂まりあさんにお越しいただきました!」


拍手のSEが流れる。


「こんばんは、インターネット娘の愛坂まりあです。よろしくお願いします」


まりあは丁寧に頭を下げた。


コメント欄が一気に流れる。


『まりあちゃんキターー!』『センターの貫禄…』『この落ち着きよ』


「いや〜、ついに来ていただきました!」

司会者が満面の笑みを浮かべながら続ける。

「ネットではすごい人気ですよね! いまや、『リアルに会えないアイドル』として話題になってます!」


「ありがとうございます」


まりあは少しだけ微笑んだ。


「でも、私たちは“会えない”とは思っていません。ファンの皆さんと、ちゃんと“会えている”と思っています」


『おお……!』『深い…』『いいな、大人っぽい』


「それは失礼しました。 ではそれにも関する話題で、早速なんですが……」

司会者が身を乗り出す。


『そもそも、インターネット娘って普通のアイドルと何が違うんですか?』


画面にテロップが流れる。


「私も分かり切れてなくてね、自己紹介も兼ねてお願いできる?」


「はい、私たちは、リアルライブを持たず、VRライブや配信を中心に活動しているアイドルグループです」


「へぇ〜! それは斬新ですね!」


司会者が興味深げに頷く。


『リアルイベントゼロのアイドル…?』『でもめっちゃ人気だよね』『時代の先行ってる』


「普通のアイドルみたいに“直接会う”って、ことはないんですか?」


「はい。私たちはライブもイベントもすべてオンラインです。でも、皆さんとは直接お話ししたり、VR空間で同じ場所にいることができます」


「ほお、でも、やっぱりリアルと違って、ファンの方との距離って感じにくくないんですか?」


まりあは一瞬考え、それからゆっくりと答えた。


「……私たちは、皆さんが目の前に“いる”と感じます、リアルより近いかも、とさえ思ってますね」


『これは…名言』『さすがセンター…』『この子いいな……』


「なるほど!」司会者が膝を打つ。「で、実際のそのVRライブっていうのは、どんな感じなんですか?」


「VRライブでは、皆さんはアバターとして参加してくださいます。そして、私たちの目の前に“いる”んです。リアルのライブのように、ペンライトを振ったり、レスを送ってくれたり……」


「えっ、それって、もしかしてリアルのライブより“アーティストに近い”ってことですか?」


「そうかもしれません」


まりあが静かに頷く。


「リアルでは席が遠かったり、ステージが見えにくかったりします。でも、VRライブでは、どの席でも最前列、私たちをとてもよく見てもらえるんです」


『リアルより近いのか…?』『確かに…』『最前列固定、神すぎる』


「じゃあ、メンバーの表情とかもすごくよく見えるんですね?」


「はい。それに、皆さんもアバターなので、表情を作ったり、身振り手振りで気持ちを伝えてくれます」


「へー、面白い! じゃあ、もしかしてメンバーが自分の存在に気づいてくれる確率も高い?」


「そうですね。実際、ライブ中に目の合った方の名前を呼んだりもします」


「名前を?分かるんですか?」


「はい、アバターの上にネットネームが出てるので」

楽しそうに笑いながら話すように努める。


『へえ、すげーな』『ライブで呼ばれるとマジで泣く』『認知される幸せ…』


「それ、すごいですね。個人が認識できるんだ」


司会者が感心したように頷く。


「普通のアイドルって、ファンのことを“一塊の集団”として見るのが普通ですよね。でも、まりあさん達は“一人ひとりと向き合っている”ってことですよね?」


「……はい」


まりあは、そう言いながら微笑んだ。


『ここがまりあの尊いとこ、…』『でも人数多過ぎて認知できんだろ?』『推し活の最適解かもしれん』


「いや〜、すごいなー!」

司会者が感嘆の声を漏らす。


「この新しい形のアイドル、もっと知りたくなってきました!」


まりあは、静かに微笑み返事として返す。



スタジオの照明が柔らかく切り替わり、大型モニターがせり上がってくる。そこに「インターネット娘」の過去のライブ映像が流れ始めた。


「では、ここで『インターネット娘』のライブ映像を見てみましょう。まりあさん、これまでのライブをこうして改めて見ると、どうですか?」


画面に映るのは、デビューシングル「pingから始めよう!」のパフォーマンス。鮮やかなデジタルライトの下のメンバーたちのパフォーマンスが映る。

 

まりあはモニターをじっと見つめた。流れる映像の中の自分は、まだ不安げな表情をしている。


「……懐かしいです。最初は手探りでした。でも、今見ても、この頃から私たちは“ネットの中”で生きるアイドルとしての形を作ろうともがいてたなーって思い出しました」


映像が切り替わり、「拝啓、推しに会えません!」のVRライブシーンへ。十字の花道をメンバーたちが駆け抜け、観客アバターたちが歓声のエフェクトとともに揺れている。ファンがリアクションボタンを押し、一斉にペンライトの色が変わる様子も映し出される。


司会者は画面を見ながら、ふと疑問を口にする。


「こう見るとVRライブって、動画配信と同じ感じなのかな?」


まりあは少し考えたあと、穏やかに微笑む。


「画面で見るだけだと、そう思われるかもしれません。でも、実際にVRで参加すると、全然違うんです」


「というと?」


「コメントだけじゃなく、ライブ中に視線が合ったり、振り返ったときに誰かが手を振っているのが見えたり。リアルのライブとは違いますけど、これはこれで、ちゃんと“ライブ”なんです」


司会者は興味深そうに頷く。


「なるほどね。VR接続して見ると、やっぱり没入感が違うってことか」


「はい。ファンの方々にとっても、ただの配信ではなく、自分がステージの一部になっている感覚があると思います」


「あ、例えばこことか、私たちが流れ星になって、客席に落ちてそこで歌ったりするんです。皆さんの目の前になりますね」


「なるほど!そう聞くと客席と一体になってる感じが想像できるね!」


モニターには、ファンたちが視点を自由に動かしながら、メンバーのパフォーマンスを間近で体験している映像が映し出されていた。リアルな観客席とは違う、バーチャルならではの“近さ”が、そこにはあった。


「こういうライブを作るのも、最初は試行錯誤でした。やっと形になってきたな、って感じてきてます」


まりあの穏やかな口調に、スタジオの空気が少し和らぐ。司会者が笑顔で頷いた。


「なるほど、これは一度ちゃんとVRで体験してみたくなってきたよ」


「ぜひ。お待ちしてますね」


まりあはそう言って、柔らかく微笑んだ。モニターには「Oshi♡Love」のステージ映像が映し出され、スタジオはそのまま次の話題へと移っていった。



番組は順調に進み、話題は『インターネット娘ってどんなグループ?』から、さらに深掘りされていく。


「よく分かりました……VRライブでは、ファンの皆さんと本当に“近く”感じられるんですね!」


司会者が感心したように頷きながら、続ける。


「でも、ちょっと気になったんですけど……インターネット娘って、今後もリアルのライブとかイベントは一切やらないんですか?」


まりあは、一瞬考えるように間を置いた。


(……リアルイベントはやらない。私たちにとっては、それが“普通”だけど……)


「はい。現在、私たちはすべての活動をオンラインで行っています」


そう言うと、司会者は少し驚いた表情を見せた。


「えっ、じゃあファンの人は本当に一度も直接会えない?」


「そうですね。でも……」


まりあは穏やかな声で続ける。


「私たちは、ネットを通じて、どこにいても繋がることができます。リアルでは距離や場所の制約がありますが、オンラインなら世界中のどこにいても、同じステージを共有できるんです」


『え?これからもやんないの?』『でも、それでもいいかも……』『そうなんだよな…』


「たしかに、遠方の人でも“推しに会える”っていうのは、すごく新しい形ですよね!」


司会者も感心したように頷いた。


「でも……やっぱり“リアルで会いたい”っていう声もあるんじゃないですか?」


まりあは、少しだけ目を伏せた。


(……そう思っている人もいるかもしれない)


「……はい。そういう声があるのも、もちろん分かっています」


その言葉に、コメント欄がざわつく。


『正直リアルライブも見たい…』『俺はリアル無いと無理だなー』『ネットとリアル、どっちも違う魅力がある』


まりあは、画面に流れる文字を眺めながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……私たちは、“ネットアイドル”としての最適な形を模索し続けています」


「なるほど……」


司会者は少し考え込むように頷いた。


「じゃあ、センターとしては、その“新しいアイドルの形”を引っ張っていく立場ってことですね?」


その言葉に、まりあは静かに微笑んだ。


「あ、私たちのグループでは、“センター”というのは固定ではなく、曲ごとに変わるんです」


「えっ? そうなんですか?」


司会者が驚いたように身を乗り出す。


「はい。私は、投票の結果でグループのセンターを務めていますが、曲ごとに、その楽曲に合ったメンバーがセンターに選ばれます」


『おお、なるほど』『曲センター制、いいよね』『その曲に合ったメンバーが前に立つのが好き』


「それ、めちゃくちゃ面白いですね!」


司会者が目を輝かせる。


「じゃあ、新曲が出るたびに“誰がセンターなのか”っていうのも、見どころの一つになる?」


「はい。例えば、次の新曲『エゴサ』では、桜庭みあちゃんがセンターを務めます」


「へー、みあさん?」


司会者が興味深そうに頷く。


みあのプロフィールとライブパフォーマンスの映像が流れる。


「なるほど、正直11人もいて皆さん全員のお名前覚えきれてないんですよ。大変申し訳ない」


「いえいえ、とんでもないです。多いですよね」

まりあは自分で話して苦笑いする。


「しかし、その曲によってセンターが変わるってことは、“このメンバーだからこそ映える”っていうのがあるんですね?」


「そうですね。みあちゃんの柔らかくて包み込むような雰囲気が、その楽曲の持つ“距離感”にぴったりだったんです、歌詞も書き直して合わせたりもするんですよ」


『エゴサ楽しみすぎる…』『へー聴いてみようかな?』『歌詞めっちゃ気になる』


「なるほど……!」


司会者はしみじみと頷きながら、手元のメモを確認する。


「まりあさんはグループの顔としてセンターを務めつつ、楽曲ごとに変わるセンターがいる……それって、アイドルグループとしては、かなり独特な形ですね!」


「はい。でも、それが私たちらしさなのかなって思っています」


まりあは、静かに微笑んだ。


『このバランス感、すごいよね』『楽曲ごとにセンター変わるの、めちゃくちゃ合理的』『最適な形でパフォーマンスが見れるのがいい』


────


会話はその後も続き、番組も終盤に入る。


「しかし、まりあさん、すごく落ち着いてますよね……テレビ初出演とは思えない!」


司会者が感心したように言うと、まりあは少しだけ考え込み、それから小さく微笑んだ。


「……そうでしょうか?」


「うん、全然緊張してる感じしないですよ?」


「VRライブや配信もなんですが、大勢の前で演じる。という感覚があまり無いんですよね」


まりあは、少しだけ首を傾げるように言葉を続けた。


「いつもと違う環境でも……結局、話しているのは画面の向こうの"一人一人“だから、あまり変わらないのかもしれません」


『なるほど…!』『メンタルつよw』『隔てなく向き合うってことか……』


「いや〜、これまでいろんなアイドルをお迎えしましたが、こんなに“インターネットに馴染んでいる”アイドルは初めてかもしれません!」


司会者のその言葉に、まりあは少しだけ目を伏せた。


──ネットに馴染んでいる。


そう言われるのは、彼女にとって自然なことだった。


インターネット娘は“会えないアイドル”ではない。

ネットを通じて、どこにいても繋がれる。

それが、彼女たちの“アイドルとしての在り方”だった。


「まりあさん、今日はありがとうございました!」


「こちらこそ、ありがとうございました」


──カメラの赤いランプが消える。


収録終了の合図。


まりあはゆっくりと息を吐きながら、スタッフの指示に従って立ち上がった。


(……思ったより、普通。配信と同じだったな)


彼女の頭の中には、スタジオの景色よりも、画面の向こうでこの放送を見ている“みんなの姿”が浮かんでいた。


──テレビという新しい場でも、彼女は変わらない。


一人一人と向き合うことを愚直に。しかし、まりあの胸には少しだけ、前とは違う感情が芽生え始めていた。


まだ、本人もそれに完全には気付いていない。


──数日後



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【むすチャン!】NetMusume Channel

『定期配信!まりみあ』

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画面が切り替わると、そこにはまりあとみあの二人が並んでいた。


「こんばんはー!」

みあが軽やかに手を振る。


『今日も来た!』『まりあちゃん、お疲れ!』『みあちゃん待ってたー!』


「今日はみあ、まりあでお送りします」


「よろしくお願いします」

まりあは穏やかに微笑みながら、カメラを見つめる。


『昨日のテレビ見たよ!』『すごく落ち着いてた!』『インターネット娘の代表感すごい』


「ふふ、ありがとう。私もテレビの収録って、あんな感じなのかーって、初めて知ったよ」


「ねえねえ、実際どうだった?」

みあが興味津々といった表情で身を乗り出す。


「……思ったより、普通だった」


『普通!?』『いやいや、テレビだよ!?』『配信と違ったでしょ?』


「もちろん、スタジオの雰囲気やスタッフさんの動きは新鮮だったけど……結局、話してる相手は画面の向こうにいるから、配信と同じだなって思ったの」


『すごい感覚w』『まりあにとってはそうか』『適応力高すぎる…』


「でも、普段の配信と違って、コメントで会話していけないのはむずむずした」


「そうだよねー!」

みあが頷く。「私たちって、普段はファンの人の反応をリアルタイムで見て拾えるじゃない? それがないのって、なんか寂しくない?」


「うん、ちょっとだけ。でも、カメラの向こうにみんながいるのは分かってたし、意識すれば大丈夫だったよ」


『やっぱ配信慣れしてるw』『コメントないと寂しいよね』『配信の方が向いてそう』


「それに、番組のスタッフさんたちが、すごく気を配ってくれてたの。収録前に軽く雑談してくれたりして、リラックスしやすかった」


「へぇ〜、じゃあそんなに緊張はしなかった?」


「……最初はちょっとだけ。でも、始まったら普通に話してただけだから、大丈夫だったよ」


『それがすごいんよ…』『適応力おばけすぎる』『配信者のプロだな…』


「でもさ、収録って生配信とは違って、編集されるじゃん? そこは気にならなかった?」


「え?あれ生配信だよ」


まりあは驚いた後にみあの勘違いに笑う。


『生配信であのクオリティ?』『安定感のお化けだな……』『テレビ向きなのでは?』


「あれ?そうだっけ、ごめん」

みあがバツが悪そうに笑う。


「でも、やっぱりリアルのイベントがないことには少し驚かれてたみたいだね」


「そうなんだ?」


「うん。“リアルで会えないのは寂しくない?”って聞かれたよ」


『やっぱそこか』『まあ気になるよね』『ネットだけって珍しいし』


「まあ、まりあはちゃんと説明できてたね」


「……うん。ネットなら、どこにいても繋がれるっていうのを分かってもらえたかな?」


『まりあらしい答えだな』『納得感ある』『ネットの可能性を感じる』


みあは少し考え込むように頷く。


「たしかに、私たちにとってはそれが当たり前だけど……リアルのイベントに行くのが普通の人たちからしたら、不思議に思うのも分かるかも」


「そうだね。でも、私は私たちの形が正しいって思ってるから」


まりあは穏やかに微笑んだ。


「ま、誰になんて言われても、私たちは私達だからね」


『ブレないのがいい』『やっぱセンターの貫禄』『芯があるのが素敵』


「でも、テレビに出るってすごいことだよね!」


みあが改めてそう言うと、まりあは少しだけ首を傾げた。


「そうかな?」


「そうだよ! だって、テレビってネットとはまた違う層の人が見るでしょ? それだけ、私たちのことをもっと知ってもらえたってことじゃん!」


『たしかに!』『テレビで見たって人、増えたかも?』『新規さん増えそう』


「そう言ってもらえると嬉しいね」


まりあはふっと笑みをこぼした。


「でも、配信の方が慣れてるから、こうしてみんなとお話しながらの方が、やっぱり落ち着くかも」


「うんうん、やっぱ配信が一番だよね〜!」


みあのその言葉に、視聴者からも賛同のコメントが飛び交う。


『やっぱ配信最強!』『コメント拾ってもらえるのが嬉しい』『これからも応援する!』


まりあは、そのコメントを眺めながら、優しく微笑んだ。


「うん、これからもよろしくね」


画面の向こう側から、数えきれないほどのメッセージが流れ続けている。


まりあは、それを静かに見つめながら、改めて思う。


──私は、こうしてここにいるのが、一番“私らしい”んかな?


『やっぱまりあがインターネット娘のセンターだな!』『メンバー全員のことも完璧に話せるしな』『アイドルってより、もはや広報の神』


まりあは流れるコメントを眺めながら、静かに微笑んだ。


「え? まりあ、どしたの?」


みあが不思議そうに顔を覗き込む。


「ううん、なんでもないよ」


まりあは柔らかく笑いながら、自然に話題を流す。


(……私は、私でいいんだよね)


そんな考えが一瞬だけよぎったが、深く考えることはなかった。


────


「あとさ、この間の……」


みあが視線をスクリーンに戻し、指先でコメントを追う。


「スクショ会での人気投票、やっぱりまりあが一位だったね」


『納得の一位!』『圧倒的センター!』『不動のまりあ!』


「えっと……ありがとう?」


まりあは少しだけ照れたように目を伏せた。


「でも、そういう投票で決まるのって、ちょっと不思議な感じだよね」


「そう?」


「うん、なんというか……私は普通にみんなと、みなさんと過ごしてるだけだから」


「それがすごいことなんだって!」


『いやいや、それが大事なんよ』『謙虚すぎて逆に心配w』『センターに選ばれるのは実力!』


「そっか……」


まりあは、流れるコメントを眺めながら小さく頷いた。


「でも、センターって曲ごとだしね」


「うん、次の『エゴサ』は、みあちゃんがセンターだもんね」


『えっ!? みあセンター!?』『チェック甘いですよw』『めっちゃ楽しみ!』


「そうそう、次は私がセンター!」


みあが胸を張ると、コメント欄が一気に盛り上がった。


『みあセンター待ってた!』『曲のタイトルからして、みあにぴったりw』『エゴサ王、爆誕』


「でも、まりあがセンターのイメージ強いから、ちょっと緊張するかも」


「え? そんなことないよ」


まりあは、優しく微笑んだ。


「でも、まりあいないとインターネット娘回らないしねー」


みあが冗談めかして言うと、まりあは少しだけ肩をすくめる。


「そんなことないよ」


「いやいや、あるって」


『みあちゃん、それな』『まりあがいないと締まらない』『確かに想像できないな…』


「……そっかぁ」


まりあは、一瞬だけ視線を落とした。


画面の向こうでは、視聴者たちの言葉が止まることなく流れている。


──私がいるから、インターネット娘が成り立ってる?


そう思うと、少しだけ胸の奥がざわついた。


でも、それが何なのかは、まだ言葉にできなかった。


「さてさて、じゃあそろそろ……」


みあが空気を切り替えるように、声を弾ませた。


「というわけで、新曲『エゴサ』の紹介でーす!」


みあの声が弾み、画面の向こうの視聴者たちが一斉に反応する。


『きたきた!』『曲名からしてヤバそうw』『エゴサってことは…SNSの話?』


「そうそう、今回の曲はネットの世界で生きる私たちにとって、すごくリアルなテーマになってるんだよね」


「うん、エゴサーチをすることで、誰かの声を知ることができるけど……それが“本当”なのかどうかは、分からないよね」


まりあが静かに言葉を紡ぐ。


『それな』『SNSの意見って全部が本当じゃないよね』『でも気になっちゃうんだよな』


「私たちも、普段からみんなのコメントを見てるし、すごく大事にしてる。でも……」


みあが少し言葉を詰まらせる。


「時々、見なくてもいいことまで目に入っちゃうこと、あるよね」


「うん……あるね」


まりあは静かに頷く。


『分かる…』『ポジティブなことだけならいいけど』『検索しなくても流れてくるからなぁ』


「でも、そういう声も含めて、ネットの世界なんだよね。だから、『エゴサ』って曲では、そんなリアルな感情を歌ってるんだ」


みあの言葉に、コメント欄が賑わい始める。


『リアルすぎるw』『刺さりそうな歌詞だな』『期待大!』


「ちなみに、さっきも話したけど、今回のセンターはみあちゃんです!」


まりあが軽やかに話を振ると、みあは少し照れくさそうに笑った。


「そう! 今回は私がセンターなんだよね。でも、こういう曲のセンターって、ちょっと責任重大だよね……」


『みあセンター嬉しい!』『曲の雰囲気に合いそう』『エゴサするみあ…リアルw』


「でも、みあちゃんにはぴったりだと思うよ。みあちゃんって、コメントとかすごく丁寧に見てるし」


まりあの言葉に、みあは少し考え込むような表情を浮かべた。


「たしかに……私、けっこうエゴサしちゃうタイプだから……」


『やっぱりしてるんだw』『アイドルでも気になるんだなぁ』『それが普通よね』


「うん、みんなの感想とか、すごく気になるんだよね。でも、どうしても気にしすぎちゃうこともあって……」


「……分かる」


まりあが静かに呟くと、みあが驚いたように顔を上げる。


「え?まりあも?」


「うん。でも、私はたぶん、みあちゃんほどは気にしてないかも……」


『まりあはあんまり見てなさそうw』『ポジティブそうだもんなぁ』『余裕のセンターって感じ』


「というより、見ても“ああ、そうなんだ”って思うくらいかな」


「まりあ、強いな……」


みあが感心したように呟く。


「でも、みあちゃんは、そうやって気にするからこそ、ちゃんとみんなの気持ちを理解できるんじゃないかな」


まりあの言葉に、みあは少し驚いたように目を瞬かせた。


『まりあのこういうとこ好き』『考え方が素敵すぎる』『だからインターネット娘のセンターなんだよなぁ』


「私たちは、ネットの中で生きてるアイドルだから」


まりあは、画面の向こうの視聴者たちを見つめるように言った。


「だからこそ、色んな声をちゃんと受け取ることも大事だし、でも、それに振り回されすぎないことも大切なんだと思う」


みあは、少しだけ考え込むように視線を落とした。


「うん……そうかもね」


まりあの言葉を噛みしめるように、ゆっくりと頷く。


「じゃあ、次の配信では、私ももうちょっとポジティブになれるように頑張ろっかな!」


みあが明るく言うと、コメント欄が一斉に盛り上がる。


『いいね!』『みあちゃん、頑張れ!』『無理せずね!』


「さて、じゃあ改めて告知でーす」


まりあが仕切り直し、画面に告知のテロップが表示される。


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7th Single『エゴサ』配信リリース決定!

絶賛!予約受付中!

初回特典をゲットし損ねるなよ!

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「みんな、楽しみにしててね!」


『絶対聴く!』『これはガチで楽しみ』『エゴサしながら聴くわw』


まりあとみあが、最後に視聴者に向かって笑顔を向ける。


「それじゃあ、今日はこのへんで!」


「みんな、観てくれてありがとう!」


「また次の配信でね!」


『おつかれー!』『最高の配信だった!』『また来週!!』


──と、そこでみあがふと気づいたように声を上げた。


「あっ、そういえば……これ、今年最後の配信じゃない?」


まりあが瞬きをして、少し考え込む。


「……あ、本当だね」


『え、そうなの!?』『えー、もう年末か』『はやっ!』


「なんか、あっという間だったね」


みあがしみじみと呟く。


「うん。でも、今年もたくさんの人と繋がれて、すごく幸せな一年だったな」


まりあは、画面の向こうのコメントを見つめながら、穏やかに微笑んだ。


『こっちこそありがとう!』『来年もよろしく!』『最高の一年だったよ!』


「うん、みんな本当にありがとう! 来年も、たくさん楽しもうね!」


「それじゃあ、良いお年を!」


まりあとみあが、手を振る。


コメント欄には、最後の感謝の言葉があふれていた。


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【配信を終了します】

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