三通目 無知者

「蝉は夏を知らない」


 蝉は春秋を知らず、己の生きる夏のみしか知らぬが故に、真には夏をも知らぬ。と言うそうです。

もしもそれが本当ならば、わたしはあなたのいる世界もいない世界も真には分からないでしょう。なぜならば、わたしの世界はもはや、あなたのいた、あなたの存在した世界にしか存在しないのだから。

 つまり、もうわたしはあなたの影無き世界を知らず、あなたのいた世界もあなたがいるかもしれぬ世界も、あなたの影ある世界そのものをもはや真に感じることはできないのです。それもきっと、もう一生。

あなたがわたしの世界そのもの故に。


わたしはおそらく蝉も蛍も笑うほどの無知な人間に違いありません。


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