一夜の過ちは許さないぞ(わよ)

獅子2の16乗

おい、痴漢はやめろ

 えっ、痴漢? スカートの中に手が!


 イヤ! だけど怖い……声が出ない。


『おい、痴漢はやめろ』


 あ、正面の男の人が痴漢の腕を掴んだ。


『ワ、ワシは痴漢なんてしてないぞ……名誉棄損だ』

『じゃあこの手はなんだ!』


『あんちゃん、力を貸すぞ。俺は左腕を押さえる』


 え、斜め後ろにいたサラリーマンが。


『ありがとうございます。二人なら完全に抑え込めるでしょう』

『おう、柔道で県3位になったおいらを頼ってくれ。あんちゃんは大学生か?』

『はい。市内の――大学です』


『なあ、俺は社長で税金でこの国を支える存在だぞ。高校生や大学生なんて社会に貢献してないやつらより俺のほうが優先するんだ。働いてるお前らならわかるだろう』


『納税者なら痴漢していいのか? そんなことはないな』

『あんちゃんはこの先就職だろ? 初対面の人をお前呼ばわりする社長がいる会社はやめたほうがいいぞ。あ、先輩、もうすぐ駅に着きますよ』

『おう。あんちゃん、ここで降ろして駅員に引き渡すか』

『そうですね。そうしましょう。撮影した動画も引き渡します』


『お嬢さん、さぞ不快だったと思います。こいつは駅員に引き渡すからひとまず安心して下さい』


 別人のような優しい表情……

 さっきの顔も、今思い返してみると怖いんじゃなくて頼もしい表情だったのかも。



 電車の扉が開いたら若い方のサラリーマンが走っていって、駅員を何人か連れてきた。

 痴漢オヤジはえん罪だーとか肖像権がーとか騒いでたけど、連れていかれた。

 私達は事務室で事情聴取に応じたが、サラリーマンが撮った動画が決め手となり、痴漢オヤジは言い逃れできないとのこと。


「ありがとうございました。あの、お礼をさせていただけませんか」

『不快な目に遭われたんですから、今日の所は帰ってゆっくり休んだ方がいいと思います』


 どこまでも、私のことを気遣ってくれるんだ。


「じゃあ、せめてお名前を教えてくださいませんか?」

『名乗る程の者じゃ「教えてください! 恩人の名前を知らないままなんてイヤです。あ、私は浦波うらなみ 真莉愛まりあといいます」』

『浦波さんですね。俺は吹雪ふぶき すぐるです』


 傑さん……声を聞いてると体の内側が暖かくなるような気がする。


「私、いつもこの電車です。必ずお礼をさせてくださいね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 やっぱり傑さんがいい!


 ヨシ! 私全力で行くよ!


「おやすみなさい、傑さん」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。




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