第四章 第一話 ライバル
1.
ひとまず
様々な団体からの問い合わせ、オファーについても断ってもらっている。
FBFPの大会運営に対しては、お礼と優勝への意気込みだけ伝えてもらった。
注目を集めるだけでも大きなプラスだから、と
「じゃ、頼りない幼馴染をお願い」
明日も仕事がある叶理はとんぼ返り。
「うん!」 「任されたわ」
フウセン、ミツクリは一度家に帰り、宿泊の準備を整えてまた来てくれた。
大会に向け、康鈴の家でFBFP強化合宿を行うことが急遽決定していた。
「かなちゃん、悩み相談していい……? 推しとのお泊りでね、気絶しそうだよ……」
「すれば?」
幼馴染が久しぶりに清々しく笑った。とても複雑な気分だった。
推し二人を康鈴家へ招く。各部屋はちゃんと掃除しており、曇り空が(おそらくフウセン達の人徳で)晴れたので、お客様用の布団も干している。
部屋に上る前に、と康鈴はお願いされた。
線香の煙が上がる。チーン、とおりんが鳴らされる。
大事な友達が康鈴の両親へ挨拶してくれた。
「さて……早速今後の予定とか方針を決めたいところなんだけど」
ミツクリがひらりとスマートフォンを示す。挑戦的な笑みを浮かべながら。
「アタシ達のライバルが試合前に挨拶したいってさ。最強のアナタに」
2.
VTuber事務所〈チーム淡水魚〉。
発足は深海魚軍団と同時期で、VTuberも同じく四人。社長同士が長い付き合いで、事務所も近く。コンセプトも似通っている。
ライバル関係にありながらも、事務所間の交流は深い。だから康鈴はもちろん彼女達のことも推している。
〈チーム淡水魚〉の出番は本日、最終組だ。
リビングにて、フウセン達が慎重に運んできたデスクトップPCやモニター、配信に必要な機材を設置していく。
三人掛けのソファに康鈴を中心として座る。彼女は本当に気絶しかけた。
午後四時。水中の待機画面から、川原を背景としたトーク画面に切り替わる。
『うらぁ! 〈チーム淡水魚〉の
『闇鍋大好き美味食材、清流育ちのぐーすかぴー、
元気な声とローテンションな声が響く。
コミカルなイワナのフードを被っている、長身の美女が山奥イワナ。アウトローな雰囲気を出したがっているが、面倒見の良さがいつも際立つ。ミツクリと似たようなオールラウンダーな配信をしているが、やはり目立つ長所がないと悩んでいるらしい。
小柄で眠たそうな目をした美少女が川底カジカ。コミカルかつサイケデリックなカジカの被り物。二事務所の中で一番設定を使いこなしている。配信では独特な勉強法を教えたり、作り方が適当でしかも美味しくなさそうな料理配信をしたりと独特だ。ちなみに学生バイトと本人は言っていた。
『新規の方も大勢おりますので、はじめましてとも挨拶いたします。この度は、第十回FBFPチーム戦出場について重大なお知らせがありまして――』
『イワナ先輩かった!』
いきなりかしこまったイワナに目を丸くするカジカ。
『いや大事なことだからな。ちゃんとしないと』
『いきなりのキャラブレで新規もびっくりだろーよー』
肩をすくめ、コメント欄へ視線誘導する。
【荒っぽい人かと】 【真面目やん】 【キャラ設定ちゃんと守った方がいいよ】
『ネットリテラシー超大事にしてんだよ後輩の分まで!』
『いつもあざーす。これからもあざーす』
『反省する気がねぇな!?』
けらけらと楽しそうに笑うカジカ。イワナは半目で睨むも、まぁともかく、と視聴者へ視線を向ける。
『今日はゲスト招いてっから。まずはこのチャンネル視聴者にはお馴染みの――おおい! 入ってくれ!』 『かもーん』
ミツクリがマウスを操作して配信へ繋ぐ。
「こんにちは! 深海からぬるぬるっとやってきました、
「こんにちは。同じく〈深海魚軍団〉所属、
フウセンの元気な声、ミツクリのしっかりとした声が響く。Y子は出遅れた。
『よーおめぇら。調子いいみたいじゃねぇか』
『ミッツー・フウフウ、おっつー』
挨拶しながら彼女達は画面右に寄り、フウセン達とウナギのイラストが左に配置される。
「あはは。ありがとイワナちゃんカジカちゃん。それに視聴者のみんなも」
コメント欄を見れば、フウセン、ミツクリ、Y子の名を呼ぶ声が多くあった。
「……うん。アタシからもありがとうを」
ミツクリも嬉しそうだ。照れくさそうにすぐ本題へと移る。
「それで今日は何? 宣戦布告?」
『ああ。それもあるんだけど……いや、ちょっと待て。〈レジェンド〉さんとちゃんと繋がってるのか?』
「いるよー」
「ほら、しゃきっとしなさい」
「っ……は、はぃ……います……」
フウセン、ミツクリに軽く肩を叩かれ、ようやくか細い声を出す。すると、
『ん!?』 『ありゃ……』 【え!?】 【今のって!?】 【大丈夫!?】 【事故ってない!?】
イワナ、カジカだけじゃなく、視聴者達もざわめく。
事故!? と一瞬焦るも、すぐ原因に気付く。
「えっと……あの、Y子です……本人です……」
心臓がバクバクと鳴っている。初めて配信に参加した時のように。
フウセンとミツクリがそっと背中を支えながら前を向く。
「実はね。今Y子ちゃんと一緒にいるんだ」
「だからボイスチェンジャー切ってくれたの。アタシ達のために……」
一人だけにエフェクトを掛けることはできない。けれど、
「……ううん。わたしの為に、です」
別々に参加することもできた。代わりに話そうかとも提案してくれた。
だけどY子のわがままで、配信に制限なんて加えてほしくない。
大会の為にも切らなければならなかった。決勝は間違いなく予選以上の激戦となる。余計な機能で処理を落としてる場合じゃない。
……けれどやっぱり恐いものは恐い。恐る恐るコメント欄を見てみる。
【いいじゃんいいじゃん!】 【切って正解】 【なんか姪っ子の成長を見てる気分】 【頑張ったなぁ】
「…………!」
好意的なコメントが多かった。前の方がいい、聞き取りづらい、なんてコメントもやっぱりある。それでも嬉しさの方が大きかった。
『へへ。なんか悪かったっす。……でも嬉しいです。あれだけのことをやれる人が、やっぱりちゃんと強い人で』
『ふっひっひっひっ』
イワナが柔らかな微笑みを笑みを浮かべ、カジカは不敵に口元を上げる。
あ、と思い出したようにフウセンが告げる。
『あとね。Y子ちゃん、〈チーム淡水魚〉のことも推してるんだって。大分緊張してるみたいだよ?』
「ふ、フウセンちゃん……!」 「…………」
本人の前で推していると明かされるのは、何だか恥ずかしいし気まずい。似たような思いをしたミツクリは半目だ。
『そ、そっすか……コラボん時、必ずコメントくれるっすよね。いつもありがとうございます』
『あざーすっ!』
「…………!」
イワナがそわそわしながらお辞儀し、カジカはにまにまと笑いながら手を振ってくれる。Y子は嬉しさに悶える。
『ところでヤマメさんは?』
ミツクリが〈チーム淡水魚〉三人目の名前を出す。
『ああ。今回の配信もそのことが関係しててな。
――その前にすまなかった! うちらのいざこざで迷惑かけちまって!』
がばりとイワナが頭を下げる。カジカがやや早口で補足する。
『あー、イワナ先輩。新規視聴者はわからんって。うちんとこのウグイが起こしたあれこれがフウフウ達に飛び火したかもってことだけどー』
山嵐ユースケへ噛みついたのが彼女だ。厳しいと噂される社長に活動自粛を言い渡され、チームメンバーから外されてしまっていた。
「迷惑なんてかけられてないから大丈夫だよっ」
フウセンが慌てて手を振る。ミツクリも真剣な顔で頷く。
「アンタ達、それから視聴者の方にも言わないとだけど。
山嵐ユースケさんから〈深海魚軍団〉へ謝罪されたわ。真摯に反省してくださっているし、そもそもゲーム上でルール違反したわけじゃないから。……事情を聞いて、むしろ同情したくらいよ」
山嵐は今現在炎上している。合同チームについては戦略として認められたものの(むしろ足りなかったと指摘されている)、問題となったのは過去の発言。それに死体撃ちだ(当たっても構わないぐらいで撃った、と本人が認めている)。
『ああ……うちの事務所にも謝罪されたよ』
強気な態度が売りの彼は、しかし批判を粛々と受け止めている。
山嵐ユースケはかつてeスポーツ選手を目指していた。けれど実力が足りずに挫折。しかし未練は残り、フリーターをしながら細々とゲーム配信業を続けていた。
そんな彼にある日、一つのコメントが届く。
【下手くそ! オレの方が上手いぞ!】
たった二言が彼の心を深く抉った。感情のままに言い返してしまった。
「一度でも大会に出たことがあるのか!?」 「挑戦したことがあるのか!?」 「いつでも勝負してやるよ!」 「どうせ口だけだろ!」
――炎上してしまう、と頭が冷えた彼は恐怖した。
しかし強気なノリがウケてしまった。
以降、視聴者から煽られ、キレ芸を求められるようになる。始めの内は無視をしていた。すると視聴者の反感を買い、せっかく上昇した同接数が下がってしまった。
もう引けなかった。ヒールを演じるしかなかった。
視聴者を煽り、他のプレイヤーをいじる。じくりと胸が痛むも、チャンネル登録者の増加が良心を麻痺させていく。あれだけ伸び悩んでいたゲームの成績も上がった。手段を選ばなくなったからだ。
〈深海魚軍団〉を襲うことに躊躇いはなかった。実力者である〈レジェンド〉、彼女を引き入れたフウセン達に対して醜い嫉妬を抱いていた。
けれど打ち砕かれてしまった。
圧倒的に、言い訳のしようもなく、完膚なきまでに。
かつて諦めた道。その途方もないほど先にあるゲームスキル。
それが彼の悪心を粉々にしてくれた。
自分はただのゲーマーだったと気付いた。ただゲームが好きだったことを思い出させてくれた。
ユースケは謝罪した。生まれ変わるつもりでやり直すと誓った。
『〈シックスティーオーバー〉さんマジ半端なかったからなー! ありがとーございまーす!』
「…………」 『こらバカカジカ!』
慇懃無礼な後輩を慌てて嗜めるイワナ。
またY子に妙な異名が増えていた。VTuberに手を出すと発動する〈全滅ギミック〉、特殊(すぎる)兵科〈殲滅型衛生兵〉。……今のところ〈謎ウナギ〉しかお気に入りがない。
「ほらY子。応えてあげなさいよ。カジカぶっとばすって」
「い、いや、そんなことは……。
あの……お気になさらず。す、全てのVTuberが幸せに暮らせますように、って神社に祈ってますから……」
ミツクリに促されるも、何だかよくわからないことを応えてしまった。
【おれも】 【超願ってる】 【その祈りがアンチを震え上がらせた】
意外に視聴者の同意は得られている。
『このウナギ、おもしろいなぁ!』
カジカが目を輝かせる。
『コラボしたい。どこに許可とればいい?』
「フ、フウセンちゃんかミツクリちゃんを通してもらえれば……」
『ペットなん?』
「そ、そうありたいと願っておりますが……」
「Y子ちゃんたまにおかしなこと言ってるよ!」
【たまに?】 【いつもじゃ?】 【プレイ含め全部おかしい】 【ペット願望はまともだろ(小声)】
やめなさい、と再びイワナがカジカをたしなめる。それから姿勢を正す。
『で、だ。〈レジェンド〉さんへの用事はお礼だけじゃなくて。けどそれには、ある人紹介しないとでな。――お願いします』
呼びかけのすぐ後、画面にもう一人のVTuberが現れる。
金髪碧眼の美女。自信の満ちた表情と立ち姿。
初めて見た相手であるのに既視感が……、
「ひっ……!」
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