第二章 第三話 〈レジェンド〉
1.
ヒデキは言葉を失ってしまった。実況として失格なことに。
「おおっとぉ! ここで〈深海魚軍団〉の二人が脱落! 優勝候補もここまでかぁ!」
心境を察したコーヘイがサポートしてくれる。
画面にはY子の視界が表示されている。彼女は仲間の死体を呆然と見つめていた。
ヒデキは軽く首を振り、己の役目を思い出す。
「銃を得たとはいえ、この状況はきついですね。十八人を正面からでは……」
さりげなくプレイヤー側のボイス音量を下げていく。この大会では、視認状態で一定距離まで近づいたプレイヤーのボイスが入るように設定されている。
察したコーヘイが大げさな身振りで注意をひきつつ、声を張り上げていく。
「けどオレはこの後の展開も期待したいですね!」
「そうですね。期待するのは酷というものですが……」
キルログで名前を確認できる。その二人、あるいは山嵐を落としたとなれば一矢報いたと評価する事はできる。流石にこの包囲を一人で突破するのは難しいだろうが。
「おっと、動きがありますね」
未視認状態では仕留めきれないと判断したのだろう。同盟チームが扇の幅を狭め、前進する。
ミツクリに反撃された者もライフを回復し、万全の態勢。
あとは数の暴力に任せるだけの一方的な展開。
――しかし彼らは新たな伝説を目撃する。
レジェンドが動く。メニューを開き、スタンロッドを破棄。パッシブスキル、アクティブスキルを入れ替えていく。
「はやっ! ヒデキさん見えましたか!?」
『セット登録』があるため、スキルの入れ替えは意外に楽だ。しかしそれを踏まえても、一連の操作は目で追うのもやっとだった。
「全部は無理でしたし、細かいレベルまではわかりませんが……パッシブスキルは〚アジリティアップ〛、〚オフェンスアップ〛。スタミナとその回復量をアップする〚活性化〛をセットしていましたね」
一つだけ手動で入れ替えていたスキルがあった。
〚アヴェンジャー〛――味方死亡時に全ステータスを向上させるパッシブスキルだ。彼女が好まなそうだスキルであり、見間違いかもしれないが……。
「アクティブスキルは……ああ、即座に使用してますね。【アジリティアップドローン】。【オフェンスアップドローン】。【オールステータスアップドローン】。それから《軽装銃兵》の【ヘッドショットマスター】、通常弾のヘッドショット威力を増すスキルですね」
「更に強化アイテムも使用! これならいけるんじゃないですかね!?」
興奮するコーヘイにヒデキは首を振る。
「ステータスでは優位に立ちましたが、アクティブスキルを使い果たしたのは痛いです。やはり《衛生兵》は最弱の兵科ですから、とても十八人相手には……」
「ですか、ねぇ」
コーヘイが難しい顔をして首を捻る。彼なりに盛り上げようとしてくれていたのだ。公平を期すために正確な評価をしたつもりだが、意識しすぎてしまっただろうか。
しかし、いくら彼女がたとえ本物の〈レジェンド〉でも……。
「あ――」 「え……?」
ヒデキ、コーヘイが間の抜けた声を出す。
Y子が無造作に大岩の外へ出る。
タンタンタン、と中央の一人に三連射のヘッドショットを決める。
意識の緩みを突いた見事な奇襲。しかしそこまで。他の十七人が一斉に銃を構える。
これで終わり――、
「なっ!?」 「嘘だろ!?」
しかし倒れたのは合同チームのメンバーだった。
先程撃たれた一人が、更に三連射のヘッドショットを受けて倒れる。
「一体何が!?」
コーヘイが身を乗り出す。ヒデキも己の常識を壊されながら、実況の務めを果たす。
「十七人分の銃撃を〈レジェンド〉が避け、同時に反撃しました!」
「そ、そんなこと、できるわけが……!」
そうだよな、と思わず頷きつつも解説を続ける。
「出場者の誰もが腕に覚えのある者達です。棒立ちとなっている相手へ狙いを外すことなんてありえません。だから軌道が読まれたのです」
理屈としてはわかる。しかしタイミングはあまりにシビアだ。一発も当たらなかったのは幸運も絡んでいるだろうが……なんにしろ二度使える技でもない。
一瞬の攻防の後、〈レジェンド〉は再び大岩の陰に逃げ込んでいた。
臨時の合同チームの動きはバラバラだ。反射的に撃ち返す者、蘇生を試みる者、ただ混乱する者、アクティブスキルで反撃する者。
〈レジェンド〉が弧を描く弾を避けながら、でたらめとしか思えない方向に銃を撃つ。
――合同チーム中心で爆発が起こる。
「せ、先輩今のは!?」
コーヘイがまた驚愕を示す。ヒデキもまた震えながら、
「大岩に隠れ、手榴弾を上方に投げ、注意を引くために離れた地面へと撃ち込んだ……。タネとしてはそれだけなのですが、その一連の動作があまりに速い。手榴弾を投じたのが彼女だと判断されないでしょう……」
事実、合同チームの混乱は増すばかりだ。地雷が仕掛けられているのかと地面を撃ったり、別勢力が来たかと背後に牽制射撃をしている。
――だが更に連続で手榴弾が投じられていた。
異なる場所で三つの爆発。一時的に行動不能となったのは同盟チーム全員。
〈レジェンド〉が飛び出す。
前進しながらヘッドショット連発。その全てがヘッドショット。
いよいよ同盟チームの中央に到達。持ち替えたハンドガンで撃つ、撃つ、撃つ。
標的とならなかったプレイヤーが
十を超えるプレイヤーの攻撃がただの一つも当たらない。
「ちょっ、これっ、どういう……!?」
「て、敵プレイヤーをバリケード代わりにしてますが……」
小柄な《衛生兵》ならではの戦法。
――しかしそれだけで説明できる事態か……?
フレンドリーファイアの被害が増え、合同チームはようやく剣兵系へ兵科チェンジする。あるいは銃の当たらない化け物に恐怖しただけかもしれない。
光学式の剣、大剣、ハルバートが振るわれる。
近接戦で絶大の威力を発揮する武器が、しかし空を切る。
タン、タン、タン、タン。軽い音だけが命を奪っていく。
もはや間合いさえ考えずに刃が振るわれる。しかし斬り裂くのは味方のみ。ただ一人にだけ当たらない。
「ミ、〈ミラージュ〉……」
彼女の有名なもう一つの異名を思い出す。
回避力よりむしろ、実在不明に対する皮肉かと思っていた。
しかし本当に当たらない。まるで蜃気楼を相手にしているかのように。
ついに――、
「ぜ、全滅……?」
コーヘイが呆然と呟く。
「これが――これが、〈レジェンド〉です!!!!」
震え、涙を滲ませながらヒデキが叫ぶ。
「これが〈レジェンド〉! ゲーム界の至宝! あらゆる最強を倒してきた伝説の怪物が! 今ここに再臨したあああああ!!!!」
疑っていた。正直に言えばあんな内気な女の子が〈レジェンド〉だなんて信じられなかった。しかし彼女は示した。人知を超えたスキルをもって。
「うおおおおおおおお!!!!」
コーヘイもまたヒデキの興奮に引きずられる。スタジオ内もコメント欄も激しくざわめいている。
「こ、ここまで凄いなんて聞いてないっすよせんぱあああい!!」
「何度も言っただろうがよおおお!! ここまでとは思わなかったけどおおおお!!」
「でもこれって、もう……!」
三十二チーム、九十六人の参加者の内、十八ものキル数を稼いだ。もはや勝ち抜けは濃厚だろう。
「いえ、でもわかりませんよ。他の参加者も気付くでしょうから」
かろうじてMCの役割を思い出す。しかし相方は浮かれっぱなしだ。
「いやいやいや~。もう確定でいいでしょう? だって彼女はまったくのノーダメージなんですから……自分で言ってびっくりしました」
同意しかけ、首を振る。
「いえ……傷を負わなかったわけじゃありませんね」
画面に視線を誘導する。
Y子は後ろを振り返っていた。……蘇生可能時間を過ぎたチームメイトを見つめていた。
「……でしたね。失礼……ありゃつらいっすわ」
己の失言を即座に認めることが出来るのがこの後輩の凄いところだ。
しかし、口には出さないまでもヒデキは思ってしまう。
これで枷が外れてしまった、と。
Y子は走った。ただ走った。
いろいろなものを零してしまった身体はあまりに軽く。
彼女の思考には、もうゲームクリアのことしかなかった。
2.
「おっと次は八人が相手だぁー!」
「恐らくは合同チームに対抗する為に組織されたチームですね。〈レジェンド〉への第二陣とは……流石に考えられなかったでしょう」
接敵する。火蓋を切るのはやはり〈レジェンド〉。ハンドガンではありえない距離から、走りながらのヘッドショット連発。
「何で当たるんだよおおお!?」
「〈レジェンド〉だからとしか答えられません!」
高機動の狙撃者だけが持つ絶対的な優位。だが彼女は走り続けた。
「はぁ!? どうして!?」
コーヘイが目を見開く。
合同チームは距離を詰めながら、牽制として長距離射程のアクティブスキルを放つ。だが強力な弾丸は空を切り、ただ頭を撃ち抜かれる隙をさらしてしまう。
動揺を見せながらも、並ぶは上級者。それぞれが剣兵系にチェンジし、シールドを構えながら進む。だが足を連続で撃ち抜かれ、転倒。無防備な頭を見せたものから狩られていく。
四人を犠牲とし、ようやく合同チームは有効射程距離に近づく。しかしそれは彼等の功績じゃない。
『に、逃げようぜ! こんなの勝てるわけない!』
『もう逃げられないんだよ! 覚悟決めろ!』
リーダーが《銃兵》にチェンジ。一度もスピードを緩めない化物へマシンガンの連射。
『はぁ!?』
一発も当たらない。連射速度が売りのマシンガンが、ただの一発も。
『撃て撃て撃て!』 『わああああ!!!!』
銃が四倍になっても結果は同じ。
『《衛生兵》の速度じゃねぇぞ!』
『い、いや、こんなの人間の動きじゃ――あ……』
八人が全滅。ただ一矢さえ報えずに。
逆に〈レジェンド〉の光弾は一発として外れなかった。シールドでガードされない限り、その全てをヘッドショットとした。
「こ、これって、ほんとどういうことなんですか……?」
コーヘイが震えながら画面を指を差す。ヒデキはようやく確信する。
十八人を相手取った時は策を講じたとはいえ、厳しい戦いだったと思っていた。
勝てたのは、ダメージを受けなかったのは、運に恵まれたと思い込んでいた。
「彼女は……一人も逃さないよう、より多く倒せるよう、距離を詰めることを選びました。
力でねじ伏せることができるから。
複数の相手の動きを同時に知覚できるから」
ひどく単純で、恐ろしい事実を告げる。
「ただ、ただ、実力が人間離れしてます」
「いやぁ………………」
コーヘイが言葉を失う。画面に視線を戻し、
「あれ……?」
首を傾げる。
倒されたプレイヤーから遺留品を獲得できる。しかし〈レジェンド〉は何も拾わずに走り続けていた。
「ハンドガンの消費エネルギーは少なく、無駄玉の一つもないですが、補充くらい……なっ――!?」
「はあああああ!?」
走っていた〈レジェンド〉が急にバックステップ。眼の前をライフル弾が通過。すぐさま十連射の反撃。狙撃者のライフがゼロになる。
「何が起こったんですか今ああああ!?」
目が肥えているはずのコーヘイが、さっきから理解すらできてない。
ヒデキだって脳が理解を拒むレベルだ。それでも実況者として何とか口を動かす。
「お、恐らくは、潜んでいるスナイパーの存在を予想していたのでしょう。三チームとしては一人足りないですから」
「い、いやいやいや! にしたって場所は――マップも見てないっすよね!?」
「無駄だと判断したのでしょう。実際アイテムで隠れてましたから。
狙撃者が好むポイントにあたりをつけ、一瞬の回避。弾道から位置を特定して即座の狙撃。遺留品回収をしなかったのも、相手へ冷静になる時間を与えないため、でしょうか……」
説明しながら、本当に人間なのかと首を捻りそうになる。
ヒデキも――いや、この場の誰もが〈レジェンド〉の本当の実力を知らなかった。
FBFPにおける〈レジェンド〉のプレイは伝聞がほとんどだった。誰かの配信動画に映ることもあるが、数瞬で倒された者ばかり。姿を確認できさえしない者も多い。
〈レジェンド〉の実力を理解していた者は、この場に誰もいなかった。
3.
プレイヤー達もこの異常事態に気付き始めていた。
『ちょっ、ちょっと待てっ! おかしいぞ! 一旦どっちも攻撃止めろ!』
『何だよ! 時間稼ぎか!?』
『キルログ! とんでもないことになってる!』
本気の焦りに、皆が画面端に表示されるキルログへ注目する。
『な、何だよこれ!?』
異常に並ぶ【Y子が――をキルしました】のメッセージ。
『い、いくつあるんだ!? おかしいだろこんなの! 偽物じゃなかったのか!?』
『メニューで前のも確認してみる! ……おい……二十以上あるぞ!?』
その不気味さに敵味方関係なく動揺が拡がっていく。
『と、とりあえず休戦しよう。……同盟、いやまず居場所のかくに――ええ!?』
頭を連続で撃ち抜かれる。
『は――?』 『なっ……』
工場群に一人の《衛生兵》が現れた。
最弱の兵科という事実に一瞬安堵。しかしそのプレイヤーネームに目を見開く。
『れ、〈レジェンド〉だあああああ!!!!』
狂乱がすぐさま伝播し、たった一人が敵と認識される。
多くの光弾が〈レジェンド〉に殺到する。
『『『は???』』』
当たらない。ただ一つとして当たらない。
蹂躙が始まる。
瀕死のプレイヤー達が異常事態を叫び続ける。
【Y子が――をキルしました】のメッセージが止まらない。
全プレイヤーが強制的に理解を刻まれる。
――あの化け物を何とかしなければゲームが終わる。
この試合だけの話じゃない。決勝を待たずして最強が決まる。
それどころかこれからの大会全て、ランキング戦の意義さえ失ってしまう。
だから同盟すら必要とせず、全員が一丸となった。
――それでも唯一人の化け物が止められない。
「キルキルキルキル!!!! 何なんすかあれええええ!!??」
「〈レジェンド〉だよ! それ以外説明できねぇんだよ!」
物陰に隠れる狙撃者の頭を撃ち抜く。待ち伏せしていたショットガン使いの先手を取る。マシンガンのフルオート射撃を全弾かわす。
『駄目だ何だこの化け物!?』
『全員屋内で仕掛けろ! 銃の距離で立ち向かうな!』
実力者の声で全員が屋内へと逃げ込む。多くが《剣兵》に兵科チェンジし、少数が《工兵》となりトラップを仕掛けていく。
「これなら……?」 「まさか!」
首を捻ったコーヘイへ即座に首を振る。
「〈絶対無敵の女王〉を討ち取ったのは剣の間合いです!」
〈レジェンド〉が一つの工場へ走る。窓の見張りの頭を撃ち抜きながら。
ガシャン、と二つの音が鳴る。〈レジェンド〉が室内に突入し、
『『『え――』』』
皆が意表を突かれた。
トリックとしては単純。見張りを引っ込ませ、一つの窓を撃ち、別の窓から侵入する。
得られる隙は数瞬。だがあまりにも致命的。
『うわああああ!!!!』 『きゃあああああ!!!!』
腕に覚えのあるプレイヤー達でさえ恐怖する。次々と頭を撃ち抜かれていく。
『任せとけ!』
一つのチームが恐怖を超える。タワーシールド、突撃槍で武装した《重装剣兵》三人。
一列に並び【チャージアタック】。ホーミング機能付きの面の攻撃。華奢な《衛生兵》に逃げ場はない。
『うわっ!』 『しまっ――』 『あちぃぃぃぃ!!!!』
まとめて焼夷手榴弾の餌食となる。タンタンタンと銃声。
『痛っ! どこから!? ――嘘でしょっ!?』
三人の燃えるパワードアーマーの隙間から。反撃を試みるも、のたうつ火の壁に阻まれる。
『このっ!』
一人が手榴弾を掴む。山なりに投げれば超えられるが、
『うわバカやめろ!』 『え、なん――』
手を離れた瞬間、爆発。
「〈レジェンド〉の前で爆発物を使うな死ぬぞ、という格言があります!」
「先輩の冗談じゃなかった!?」
工場一階を制圧。二階への階段を昇っていく。
『おおい!』
このエリアにはかつての戦闘の名残があちこちにある。床に開いた穴の一つから、プレイヤーが銃を構えながら落ちてくる。
『うんいやどういうことぉ!?』
タンタンタンタンタンタン、と落下に合わせて全弾ヘッドショット。当然のようにアサルトライフルをかわしながら。
しかし彼は囮だった。階段の上から閃光手榴弾が転がってくる。
「え――」 「なんで!?」 『どういうことぉ!?』
ヒデキ、コーヘイ、投げ込んだプレイヤー自身も驚愕。
戦闘の名残は多くある。彼女は瓦礫を蹴っ飛ばして閃光手榴弾を弾き返した。
二階へ突入。待ち構え、しかし行動不能のプレイヤー達を次々葬っていく。
「先輩、今の、あの、その……」
「えーと、もう、全部を予想してたのでしょう……」
頭をフル稼働させながら、指折り数えていく。
「ワイヤーはなかったので、待ち伏せ系……穴があったので視界をわずかにずらして警戒……声を掛けながらの奇襲で別のトラップを確信……片手間に撃ちながら、目星をつけていた瓦礫を、瞬時に角度算出してキック……」
「……いや先輩……それ、もう……」
コーヘイが言葉を飲み込む。大量に流れる視聴者コメントに、続く二つの言葉が多くある。
「調べるまでもなく、最もチートの冤罪を掛けられたプレイヤーは彼女でしょう。しかし蓋を開けてみれば、チートを使っていたのは彼女の対戦相手達。……故に〈チートキラープログラム〉。正体がAIだなんて説が真面目に語られ、与えられた異名です」
コーヘイ、コメント欄が絶句。あの少女が本当に人間かわからなくなってしまったから。
制圧した〈レジェンド〉が窓から跳躍。次の工場に狂乱が巻き起こる。
「……彼女がしていることは、実は単純です」
「そんなわけないでしょ!?」
思わず大声を出したコーヘイにもっともだと頷く。
「相手の心理を読み、判断。攻撃を避け、狙い、撃つ。中級以上のプレイヤーが行っていることを、異常な精度・深さ・広さで高速同時進行させる。……その異常さには秘密があります」
一人のプレイヤーを思い出す。ただ一人伝説へ近づいたとされる最強を。
「〈絶対無敵の女王〉があるインタビューで語っておりました。
〈レジェンド〉――恐らく彼女は異常なまでの『共感性』を持っている。
だから彼女へ弾丸は届かない。だから彼女の弾丸から逃れられない。
この世を生きづらくさせるほどの至高の宝石、それこそが彼女が最強たる
FBFPのソロ部門十連覇。チーム部門も出場すれば負け無し。
性別さえ言い当てたチャンピオンもまた特殊な『直感』を持っている。
「秒ではなくフレームの単位で生き、逸脱した超感覚を持つプレイヤー。それが彼女達トップゲーマーです」
「な、なるほど……」
コーヘイが理解を拒むように首を大きく曲げる。ヒデキだって言葉を借りただけで、彼女達の世界を観測することさえできない。
「しかし〈絶対無敵の女王〉は今回不参加です。チーム〈フラワーガンズガールズ〉の他メンバーが違うゲームに取り組んでいるためです」
「出場してればもう一つ伝説が生まれてたでしょうね……」
「ええ――」
コーヘイの何気ない言葉にふと妙案が思いつく。
もはや既に最強が決定しつつある。残りの試合に意義を持たせるには――。
「先輩?」
「……失礼」
コーヘイに声を掛けられ、思考を現在の試合へと戻す。
〈レジェンド〉へ多くのプレイヤーが総掛かりでぶつかっていた。
『耐えろ耐えろ耐えろ! たぶんもう少しで――』
連戦に次ぐ連戦。こまめに掛け直していたバフが切れてしまう。
『よしこれなら――』
しかし最弱の兵科を捉えきれない。
『これなら何ですか!?』 『わからんなんで当たらねぇんだよおお!!』
「ステータス差で埋められないほどの技術差がありますね」
全滅。残るチームは一つ。
チームランキング七位〈90年代ロック〉。リーダーのケビンソンはソロランキング六位。大会上位入賞経験もある紛れもない強豪だ。
4.
最後の舞台となる場所は小さな休憩所だった。
侵入口は限られており、籠城にはもってこいだ。
「ばらけてますね……個人戦を挑むつもりですかね?」
コーヘイが各選手の視界を切り替え、首を傾げる。
「トラップにはめるつもりですね。皆、ガスマスクを装着してます」
ガストラップは最も有効範囲の広い罠だ。銃兵系でも、《工兵》スキルをセットすることで任意のタイミングで発動できる。
「ケビンソン選手ならこれで……もしかしたら……あるいは……?」
「ファン根性出てますよ、先輩」
失礼、と頭を下げる。
「あ、〈レジェンド〉が仕掛けますね……いや何を?」
コーヘイが首を傾げる。彼女は全体マップ確認後、近くにある高い工場を上がっていった。だが跳び移れる距離ではない。
バフを掛け、最上階から屋根に移る。くるりと回って銃を上に。
「「え!?」」
彼女が狙ったのは建物外側に這う配管。固定具が破壊され、配管が傾いていく。
〈レジェンド〉が飛び上がり、壁を蹴り、そのか細い足場へ着地する。
「まさかまさか!?」
「そんなルートが……!?」
多くの試合を観戦してきたヒデキさえ知らない。不安定かつ狭すぎる。だが〈レジェンド〉は全速ダッシュで駆け抜けていく。
配管がへし折れ、落下を開始する。
「嘘だろ!?」 「はははは!」
ゴールは休憩所の窓ピッタリ。
『は!? どうやって!?』
反対位置を張っていた《重装銃兵》が驚愕。態勢を整えないままキルされる。
『二階から侵入! ハンドガン二丁の《衛生兵》! 後は頼んだ!』
しかし彼は役割を果たした。銃撃ではなく【ガストラップ起動】を選び、仲間へ情報を託した。
けれどトラップ位置は遠く、彼女はあまりに速い。
穴の空いた床からショートカット。
『なん、じゃそれ!?』
難度の高い空中エイム連発で《銃兵》をキル。
しかし上位チーム。彼も【ガストラップ起動】。更にケビンソンもトラップを起動した上で、ガスの中へと姿を隠した。
一般的には最良と評される《銃兵》のアサルト使い。
常識的には最弱と評される《衛生兵》とハンドガン。
ガスが三方向から迫る、一方に絶対的有利なフィールド。
しかし十五発のアサルトライフルの光弾はかすりもせず。
やはり六発のハンドガンの光弾は全てヘッドショット。
トップ同士の決着はわずか五秒にも満たず。
「「………………」」
あまりの電撃的結末に、スタジオ中が無音になる。
「………………決着」
ヒデキが何とか声を絞り出す。
「決着ーー!!!! 予選第一試合!!!! 〈レジェンド〉の圧勝!!!!」
「うおおおおおおおおおお!!!!」
熱狂が溢れ出す。
「伝説の再臨!!!! 暴かれた〈ミラージュ〉!!!! 神のスキル!!!!」
「わああああああああああ!!!!」
「ご、合計キル数――ろ、六十三!!!! シックスティオーバーーーー!!!!」
「信じらんねええええええ!!!!」
「三分の二以上をたった一人の人間が仕留めてみせたあああああ!!!!」
熱が、熱が、熱が彼の身を満たしていた。
コメント欄が爆発的に流れていく。彼等は日本中に拡めていくだろう。
FBFPに長らく伝わるであろう、あるいはゲーム界隈に轟くであろう新たな伝説を。
誰もが胸を焦がす中心で、ただ一人が冷たく凍えていた。
【You Are The Champion!!!!】
画面に表示された、最強の証。
ただ一人に与えられた、虚しい王冠。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます