第12話 英二の卓球場運営は次第に軌道に乗って行った

 英二はマスターの了解を得て、県内に散在する二十余りの卓球場を全て見て廻った。裕美の休みの日には其処へ彼女を伴って一緒にラケットを振ってもみた。遠隔地では一日に一軒しか廻れないこともあった、が、百聞は一見にしかず、だった。施設の大きさや設備の多少にはかなりの違いがあったが、内容や料金設定にはそれほどの差は無かった。他所との違い、独自性、独創性、特異性を創り出すことが最も重要だと英二は認識した。大きな収穫だった。

 英二は、それまでA,B.Cの三つに分かれていたコースを細分化して再編し、キッズ教室やママさんスクール、シニア教室などのコースを設定した。特に未来へ羽ばたく子供の為のコースを重視し、小学二年生以下用の小さな台を設置して幼稚園児たちも受入れた。子供達だけの卓球大会を開催したり、ラケットやシューズなどの子供用品も販売したりした。無論、大人用品はレンタルも含めて従来からの販売を引継いだ。

 裕美が高校時代の女子の卓球部後輩を連れて来て、子供や高校生やママさん達の教室の指導員を確保してくれた。特に初心者を対象にしたスクールや個人レッスンに、それは極めて好評だった。

 英二も嘗ての卓球仲間に声をかけて、出張コーチを依頼したり、チャリティー募金活動を手伝って貰ったり、夜間に団体で使用してくれるチームへの口利きを頼んだりした。子供選手コースを作った時にはその送迎も手伝って貰った。

 英二はマスターと相談して、卓球場に隣接したカフェコーナーを設け、挽き立てをその場でドリップした美味しいコーヒーが楽しめるようにもした。無論、プレイ前後の休憩だけにも利用出来た。自然にまったりと卓球談義に花が咲くようだった。

 英二はブログを立ち上げて、店舗案内、レッスンや教室等のお知らせ、卓球写真、スタッフ紹介、販売用品紹介、卓球日誌などを毎日書き綴った。

プログラムが増えるに連れて利用客も増え、英二の卓球場運営は次第に軌道に乗って行った。


 それから一年後の秋に、英二は裕美と結婚式を挙げた。

招待客は家族と親族を除けば、裕美の方が多かった。看護学校の学生仲間達、高校時代の卓球仲間、前の病院と今の病院の看護師長と看護師仲間、それに今の病院から外科医長が来賓として出席してくれた。

英二の方は大学時代の友人数人、高校時代の卓球仲間達、卓球場のマスター夫妻とスタッフ達、それだけだった。会社時代の知人は一人も呼ばなかった。招待するような知人は誰も居なかった。

神聖なる神前で淡い気恥ずかしいベーゼを交わし、エンゲージリングを交換し合って、英二と裕美は永遠に変わらぬ愛を誓った。マスターが裕美の若い頃のエピソードを混じえた心温まる祝辞を述べてくれた。

教会の鐘の音が、青く澄んだ高い空に、吸い込まれるように消えて行った。

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