第20話 満たされない過去
――――学生食堂
…………絶句した。
約400人弱に開かれた食堂としては、異次元と言っていい。
大講堂並みの広さに、3階建てで、1階のテラス席もあれば、2階3階にはバルコニー席もある。一部の席には、間仕切り用の布があり、半個室のようにできるところすらある。
「ね、言ったでしょ、すんごいわよ、この食堂」
メイン料理以外のライス、パン、おかず、サラダ、スープ、ドリンクに関しては自由に取れるようになっているなんて、
「ここは天国なのか……!」
「おい、レオン、呆けてないで行くぞ」
「お、おぉ……!」
メインのメニューを入り口で選ぶ。メニューごとの番号が彫られた木札がぶら下がっていて、その木札を取ると厨房にある対応した
今日はタラのフライのタルタルソース添えにした。他に選んだのは玉ねぎスープ、トマトとチーズのサラダ、ガーリックトースト。
他の皆が選んだのは、チキンソテー、ポークジンジャー、ポークチャップ、ポトフだ。
「では、いただこうか」
「いただきます」
酸味の効いたドレッシングをかけたサラダを食べ、玉ねぎスープで口を温める。ほっと一息つきながら、タラのフライにフォークがザクリと音を立てた後にスッと入ってゆく。ナイフでザクザクと切り分け、タルタルソースをつけて口に運ぶ。
コクのあるタルタルソースとザクザクとしたフライが口の中で合わさり、ビネガーと玉ねぎの酸味が後味をさっぱりとさせてくれる。やや口の中にのこる油っぽさをスープで流し、次の一口へと続く。
美味しそうに食べる姿にセラが気になったのか、
「レオン君、その白身魚のフライ、ちょっと欲しいかも」
と、前のめりに両手を構えて聞いてきた。
「おう、いいぜ一口」
「ありがとう、いただきまーす」
セラがフライを口に運ぶと、満遍の笑みを浮かべて、
「んー!美味しいわ、ソースもなかなかね」
「ほんと、美味い飯って食ってて幸せになるよな、ほら、ティオも食ってみろよ」
「え!いいんですか?じゃあ僕も一口……、ん、んまい」
各々、自分の頼んだ料理を楽しみながら、昼食を過ごした。
「美味しかったな。ごちそうさま。」
「ごちそうさまでした」
「さーて……」
飯食ったし、次の授業までどっかで昼寝でも……
「おい、レオン。友人と昼食を終えたら早々とどこか行くなど感心しないな」
「そうよ。折角お話しできる時間があるんだもの」
「で、でも、レオン君に用事があるなら、引き留めるわけじゃないんだけど……」
「なによ、ミリア、パウル様と同じ編入生とお話しできるのに、もったいないじゃない」
と言いながらむくれるセラ。なんともバランスが取れた2人というか、互いに補いあってる良い仲だよな。
「フッ……、2人ともあまりレオンを困らせるな。すまない、レオン、用事があったなら引き留めるつもりはないんだ」
「いや、その、悪りぃな、特段予定って予定はねえよ、昼寝しようと思ってただけだ。……そうだな、こうしてゆっくり話すってのも良いのかもな」
そう言いながら、食堂の席にもどる。
「ねぇねぇ、レオン君って、編入生の中だと変わり者じゃない?」
「セ、セラ!その言い方はレオン君に失礼だと思うわ」
「いや、俺自身変わってるって思うぜ」
これから、この壁を取っ払っていかねぇとな。
「僕も気になってたんです、編入生といえば貴族の生まれ、今までに貴族生まれじゃない編入生なんていなかったんですから」
ティオも前のめりに聞いてくる。
「それに、出身がグレンツ地方って言うのも珍しいっていうか、ハイ、なんでしたっけ」
「ハインリートって言ってなかった?」
「おう、ど田舎もど田舎だからな、今までは畑仕事を手伝って、親父と剣の
「それだ、レオン。あ……、どうにもこの会が君の素性を明かすような流れなのは申し訳ないのだが、こちらも知りたいからこそ聞かせてくれ」
同じくと言った様子でみんなの視線が集まる。
「こう言ってはなんだが、編入生は俺のような貴族の子息が家庭教師から貴族として必要な教育を受けた上で戦士、軍師、医師として専門的な学習を必要として編入する。しかし君は、平民である上に父君に勧められるままに試験を受けて、編入までしているんだ。好奇の目ならいざ知らず、嫉妬を向けられることもあり得る」
確かに。
「
……過去。過去ねぇ……。
「悪りぃな、信じてもらえるかわかんねーけど、8歳ぐらいまでの記憶がないんだよ」
「な……!そんな、す、すまない」
「いや、気にすんな。俺も必死こいて取り戻したいって訳でもねーし」
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