第11話 溶ける夕闇

「そっか。そん時が楽しみだよ。でさ、明日って何やるんだ?」


「明日か。明日は一年の流れと履修りしゅうできる授業の紹介だろうな。自分がこの学院で何を目標にして卒業したいのか、それを軸にして授業を選択するんだ。選択したい授業があっても条件があったりするから、備考びこうに関してはしっかり読み込むことが重要になってくるだろうな。」


 ……う。勉強をしなきゃいけない以上、人より多くのことを学ばなきゃいけない。


 それはつまり授業を沢山受講しなきゃいけない。


 頭が一杯一杯になりそうなところで、パウルがバシャリと顔にお湯をかける。


「おい、レオン、のぼせたのか。遠いところ見てぼんやりするな。十分なら上がるぞ」


「あ?あ、ああ……上がるか。」


「それに、そんなに心配なら、エリザさんに相談すればいいだろう。あの人が寮母りょうぼをやってる中で生徒の悩みとかを聞いたことがあるだろうから、そういう当てのない悩みを抱えたら迷わず周りの人間を使うことだ。さて、上がるぞ」


 そうして、浴槽から上がって、体を拭く。


 そして、この浴場の売り、風呂上がりに一本、飲み物がもらえる。


 通年でもらえるのは牛乳か水。月替わりで、限定ものが飲めるらしい。


 四月の限定はいちご牛乳だ。


 今回はいちご牛乳が残っていたので、それを選んだ。


 ふたを抑えながら、中身を振ってから、薄桃色のびんふたをキュポンと外し、ググッと喉を鳴らしながら飲む。


 う、うまい……。甘くて美味しいのは当然と言わんばかりのバランスの良さ。


 びんの口を口元へ運ぶと、柔らかい甘みを含んだ香りがふわりと広がる。


 そのまま口の中を流れると甘みがもったりと舌の上にのっかると同時に、酸味が口の中をさっぱりさせてくれる。


 最後にもう一度鼻の方へいちごミルクの香りがふわりとのぼり、次の一口を誘う。


 喉の渇きを潤しながら、火照ほてる身体を少しずつ冷ましてくれる。


 最後の一口を飲み終える頃には、のぼせかけた頭がすっきりしていた。


「ぷはぁ!うめぇなぁ!いやーこの浴場に来て正解だったな!エリザさんに感謝だぜ」


「あぁ、美味いものだな。」


「パウル、さっきはありがとな。さっきの話、俺はハッとしたよ。学院に着いてからずっと、自分の力である程度解決しなきゃならねぇって思ってた」


 父ちゃんに焚き付けられ、学院長に期待され、どこか自分の実力と周りの期待のズレに焦りと不安を感じていた。


「貴族というものはただ偉そうにしているわけではない。今持つ力を自分に有利に使い、状況を改善してゆく。持つ力というのは自分に連なる全てだ。」


 そう話すパウルは学生としての顔ではなく、いずれ家長かちょうとなる者としての顔をしていた。


「なぁパウル……。ひとつだけ言いてぇんだけどさ」


「なんだ、レオン」


「早くパンツけよ」


「………………」



 ――――

 春の陽気がふわりと残る夕闇ゆうやみを街灯がゆっくり照らし出す。


 青嵐寮が近づくと、夕飯の美味しそうな匂いが漂って来る。


 この匂いは……カレーだ!


「あら、おかえり。部屋に風呂道具片付けたら戻っておいで。今日は青嵐寮せいらんりょう名物、牛すじカレーだよ」



 風呂道具を片付け、食堂に戻るとエリザさんが待っていた。


「ほら」


 最初はサラダに手をつける。酸味と塩味の効いたドレッシングでさっぱりとしながらもサクサク食べれる。


 時折胡椒こしょうが香って食欲をふくらませてくれる。あっという間にサラダは完食だ。


 さて、青嵐寮せいらんりょう特製、牛すじカレー。


 具材はごろっと大きく残したタイプのカレーで、具材はじゃがいも、にんじん、玉ねぎにメインの牛すじ。


 カレールーはすこしもったりとしていて、具材によく絡む感じだ。


 口に運ぶと、香辛料の香りがブワッと広がる。


 その直後に野菜と肉の旨みが舌の上にドシっと乗っかる。


 具材を噛みめるたびに異なる味と食感がたまらない。


 にんじんとじゃがいものホクホクとした食感と甘みの後にシャキッとみずみずしい玉ねぎの甘み。


 この中にいて存在感を出す牛すじ。ぷりっとした歯応えのあとのほろほろとした食感。


 それでいて噛むほどにあふれる甘みがとても美味しい。


「エリザさん、このカレーめっちゃ美味しいな!牛すじがたまんねぇよコレ!」


「ふふふ、そうかい、そりゃ何よりだ。よく食べておくれ」



「ふー、食ったなー!ごちそーさまー!」


 明日必要な物の用意をして寝支度ねじたくをしてベッドに入る頃には溶け込むように眠りについた。

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