第17話 狂戦士の復活③

   

 長期休暇というのは学生にとって最高に充実したものである。学校の授業もなく、課題も適当に終わらせ、友人との青春を謳歌する。まあ、受験生たる我々にはそんなゆとりはない。


 だが、俺は受験生なのにも関わらずを犯している。この貴重な追い込み期間である長期休暇中に、俺は完全に「Start Battle」通称スタバトの虜になっていた。


 スタバトのランク帯は既に「ダイアモンド3」に到達しており、ここまで来ると連携が上手く取れたチームばかりでかなり苦戦を強いられていた。


 特に厄介なのは、遠距離の射撃を得意とするプレイヤーだ。戦闘中にチクチクチクチク高所から狙ってきやがって……、「男なら黙って対面で勝負しろボケが!」と何度も画面に向かってキレていた。


「まあ、それも一種の戦術なんだけどな……」


 このゲームは俺が元々競技選手としてやっていた「THE WORLD」とは、戦闘のスピードも一試合での戦闘回数もまるで違っている。


 エネルギーコアと言われる体力ゲージは限界値まで上昇する。なので、遠距離から相手を攻撃をするというスタンスは戦術としては悪くはない行為だ。


 だが、このゲームはキャラの疾走感が売りのゲームである。戦闘のスピード、駆け引き、それが非常に楽しいと俺は思っている。なので、高所で立ち止まりながらちょこちょこ相手を撃つ行為にあんまり魅力を感じない。


「長距離レンジは接近されると何もできないしな……」


 銃を撃ち合うという根本的な行為は何も変わらない。戦場の狂戦士と呼ばれていた頃のフィジカルセンスはこのスタバトでも存分に発揮することができている。


「牧野がいないとリードのない狂犬になっちまってるところもあるが……」


 俺の武器構成はサブにSMGとメインに単発の銃。弾は無限ではない。リロードが必要となり、その隙を狙われる。FPSの基本動作は遮蔽を使ってリロードである。


 低ランク帯はそれすらできていない奴がほとんど。いま流行りのゲームなので、新規のライトユーザーなのだろう。そんなユーザー達を申し訳ないが蹴散らして上位のレートにいる。


「でも、この感覚懐かしいな……」


 俺は迫りくる敵を薙ぎ払いながら呟く。


 対面戦闘で負けるような気はしない。この調子なら最高ランク帯に突入するのも時間の問題で……、俺は目標に向かって突き進んでいた。


 そして、数時間後にそれは簡単に実現してしまった。レート制度というのは本当に正直で、俺の適正レート帯まで一気に駆け抜けた。


 道中、あまりに勝ちすぎて飛び級もありそんなに苦労はしなかった。


 あっという間に、マスターランク帯に突入し、順位は「150位」と表示された。ダイアモンドからマスターへの昇格、上位帯からはポイント制度になり、ダイアモンド4からポイント変動制になる。


 上位帯が200位まで埋まるとこのレートポイントが高い順に「マスター」というランクに認定される。上位200位からあぶれると「ダイアモンド」に逆戻りというわけだ。


「まぁ、最高ランク踏めたからいいか。これ以上突き詰めるには相方が欲しいところだが……」


 俺はそう言いながら、腕をグルグルと回しながらベッドに倒れこむ。一度熱中すると俺は止まらない。結局、この数週間は風呂に入る以外はほとんど部屋に引きこもりっぱなし。


(てか、父親も母親も全く帰ってこないんだな……)


 両親は全くと言って家に帰ってこない。偶に、携帯にメッセージが送られてくる程度でそれも進路の話だったり、ちゃんと課題はやってるかの確認くらいだ。


 まあ、変に干渉されてもそれはそれで困るんだが……。


 俺がこのランクに入った瞬間にこの順位が認定されたということは、まだまだ上位を目指せる力量を持ったプレイヤーが少ないということを意味している。


(まあ、リリースから半年も経っていないしな……)


 FPSというゲームは突き詰めれば突き詰めるほどゲームの進化と共にプレイヤーも強くなっていく。それには少なくとも数年という歳月がいる。


 そこまでに廃れるゲームもあれば盛り上がるゲームもある。


 スキルのノウハウ、デバイス、エイムの感度、立ち回り、武器の構成、戦闘兵の特徴から今後ゲームが盛りあがれば、ありとあらゆる情報がネットの海に流れていくのだろう。


「いずれは世界大会も開催されるかもな……」


 現状は大会の情報などは公式から開示されておらず実績もない。世間の評判的には、いま流行ってる面白そうなFPSゲームがあるということしか認知されていない。


 だが、このコンテンツは間違いなく育っていくし、大会も開催されるだろう。久しぶりに俺の心を熱くさせてくれたゲームに出会ってしまった。


 しかし、俺は確信している。このゲームは国内で流行ってeスポーツの世界を大きく盛り上げていくようなコンテンツに育っていくと……。


 ここまでのランク戦で振り返りのために自分のプレイを録画を撮っていたのだがいい感じに編集して動画投稿サイトに投稿してみようと思った。


「まぁ、ただの自己満足だし、編集も適当でいいや」


 そんな軽い気持ちで俺は適当にキルしているシーンを切り貼りした動画を投稿してみた。だが、この行動が思ったよりも大きな影響を生むことになった。


 翌日――、目を覚ますと朝食を食べ、歯を磨き、自室に消える。すぐにデスクトップパソコンを起動させ、スタバトを起動した。


 今日は冬休みの最終日、できるならある程度レートポイントを伸ばしておきたいと思っていた。そんな軽い気持ちで起動した画面右上のフレンド申請通知欄にとんでもない数字が刻まれていた。


「は、なにこれ……」


 俺のアカウントに来ているフレンド申請の数は1000件を超えている……。あまりの数の膨大さに俺は思わず、息を飲む。アカウントに来ているフレンド申請は全部違うユーザーから来ている。ランクは上位の人もいれば、低ランクの人もいる。


 共通して言えることは、フレンド申請日が昨日から爆増しているということ。昨日したことで唯一心当たりがあるのは……、昨日投稿した「俺の動画」か。


 スタバトをいったん終了して、俺は動画サイトにアクセスし、自分のチャンネルを開く。するとそこには昨日投稿した「俺の動画」の再生数が15万回再生を超えていた。


「え……、なにこれ……」


 俺は思わず二度見する。そして、コメント欄を見てみるととんでもないことになっていた……。


『このプレイヤー誰、めっちゃ上手いんだけど!?』

『てか、この武器を使ってこんなに上手い人初めてみたかも』

『名前全然知らないけどプロゲーマーなのかな?』


 そんなコメントで溢れていて、ゲームジャンルの「急上昇ランキング」にまで入っていた。流行りのゲームとは聞いていたが、ここまでの反響があるとは思わなかった。


 「まぁ、いいか……」


 俺は深く考えるのをやめ、スタバトのランクをやることにした。ランク上位帯の動きもだいぶわかってきて、レートポイントを稼ぎやすくなっていた。


「さてと……今日はどこまで伸ばせるかな……」


 俺はそう呟きながら、ランクマッチに潜った。一度集中すると、俺は周りが見えなくなる。


(あぁ……、またやってしまったか)


 画面越しに見える「We defeated」の文字をもう何回見ただろうか――、俺はため息をついた。集中するとどうしても周りが見えなくなってしまう。夕飯を食べるのもすっかり忘れ、俺はランクマッチに潜っていた。


「あ……もうこんな時間か」


 さすがにこれ以上はまずいと思い、俺はパソコンの電源を落とした。そして、ベッドに倒れこむとそのまま眠りについた。数日後には推薦試験が控えている。


「全然、対策なんてしてないけどまあいいか……」


 俺はそんなことを呟きながら眠りについた。

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