星空と工房と世界樹の塔

アイズカノン

第1話 世界樹と賢者の塔がある世界の話

 ある日から世界に厄災がやってきた。

それははるか空の彼方。

星空にある星の国。

しかし、人々は負けなかった。

彼らがいたからだ。

彼らは『魔法』をもって、星空の侵略者と戦った。

大地が一つ、川が3つ、海が一つ、そして数多の人々。

数々の犠牲の中、星空の侵略者の撤退という形で戦争は終結した。

9人の賢者はその後、姿を見せなくなった。

10柱の『賢者の塔』を残して……。



 硝煙渦巻く地下迷宮ダンジョンの中、一人、また一人と倒れていく。

そんな中でも諦めずに立ち向かう一人の少女がいた。

魔力も体力も元々ない一人の少女。

学園でも優秀な成績の人たちが倒れる中、彼女は必死に戦い続けた。

例え、後でこの出来事が自分に不利に脚色されようと……。

例え、このことで自分が孤独になろうと……。

一人の、『落ちこぼれ』の少女は戦った。

1人も犠牲者を出さずに……。

最後まで……。


 そんなことをつい思い出しながら少女は学園の廊下を歩いている。

灰色のショートジャケットに白いブラウスと灰色のコルセットミニスカートの学園制服を着用し、『塔』の賢者から授かったマントを羽織った『落ちこぼれ』の少女。

 名を、リセリナ=テスタロット。

桜色のショートヘアに蒼い瞳を持つ少女。

魔法適正はFランク。

最近そこに+の評価もされたが、彼女にとっても、学園にとっても些細な差異でしか無かった。

そして、固有魔法は『工房』。

物理的な物体を解析、再構築できる魔法。

しかし彼女の魔力量ではたがが知れてるので、こっちも基本的に役に立ってない。

「おーい、リナ〜」

「ん?。あぁ、なんだサクナか」

「なんだとはなんですか」

「いや、なんか白い制服が見えたからついね」

「ムゥ。最近冷たいよ」

「だって仕方ないでしょ。あの日、私『だけ』降格されただから」

「うん……、そうだね……」

 つい口に出してしまった言葉を急につむろうとしても、意図はどうあれ届いてしまった。

例えリセリナにその意思がなくても、サクナにはそう届いてしまったのだから……。

「それで、今日はどうしたの?」

「あっ。あぁ、そうだ。今日はダンジョンで実習だった。リナお願い、今日も一緒に潜って」

「えぇ……、サクナと一緒に行きたい人はいっぱいいるでしょ。私なんかじゃなくて」

「私はリナとがいいの」

「はいはい」

 リセリナはサクナに後ろから抱きつかれながら照れくさそうに頬を紅く染め上がる。

 サクナ=ユリヒメ。

後にダンジョン事変と呼ばれた騒動の生き残りで、『あの』リセリナを見ていた者の一人。

氷のように青く白いショートボブヘアに銀色の瞳を持つ少女。

魔法適正はAA+。

固有魔法は『氷輪』。

月夜のように美しい魔法は人々を魅了している。

それ以上に彼女の人柄が良いもの好かれる理由でもあった。

「また外見てる」

「あぁ……、ごめん」

「良いよ。好きだもんね、世界樹」

「うん」

 リセリナが窓越しに見つめる先にははるか天の彼方までそびえ立つ大きな、それは大きな世界樹。

この世界を支える人類の希望。

「はぁ、はぁ、サクナ!」

「どうしたの!?」

 サクナたちの元に一人の少年がやってきた。

ボロボロに焼けこげた制服からその悲惨さが察せる。

「君、アレスの取り巻きだよね?」

「な、なんだ『落ちこぼれ』。俺はサクナに――」

「そう、なんだよね」

「は、はひぃ……」

「あらら……」

 さっきまで威勢が良かった少年がリセリナの圧のこもった声に、自分よりフロアボスに遭遇したかのように怯えてしまい、サクナは苦笑いするしかなかった。



 学園内部にある教師専用の個室。

そこの扉が勢いよく開かれる。

「おい、エルダン」

「おやおや、どうしたギデオン先生」

「うちのバカどもがダンジョンに潜ったのだ」

「また推奨以上の階層に潜ったのかい?。飽きないねーー」

「だからお前に頼みに来たんだ」

「それはそうとして、その子に関しては大丈夫だよ」

「何故だ」

「最強の助っ人が来たからね」

 エルダンと呼ばれた青年は机の上の水晶に手を置いた。

すると水晶は眩い青白い光とともにダンジョンの魔物と戦うある赤い髪の少年を映した。


 世界樹のダンジョン。

かつて『星空の侵略者』が残したとされる遺産。

世界樹はこれを封印するために賢者によって置かれた……と教科書の神話の項目に書かれている。

そのダンジョンにおいての魔物は魔法使いの鍛錬として学園側から用いられるようになり、各自の実力にあった階層での特訓が推奨された。

(はぁ……、はぁ……、こんな奴に勝てないじゃ。あの時のアイツには到底……)

 そんなダンジョンの階層で自分の数十倍はある巨体に大ぶりの武器を持った魔物相手に、制服をボロボロに焼き焦がしながら戦う少年。

 名を、アレス=イフムート。

赤毛に、琥珀色の瞳を持つ少年。

白い制服を身にまとい、マントをたなびかせている。

魔法適正はB++。

固有魔法は『豪炎』。

全てを焼き尽くすその業火はあらゆる障害を灰へと変えていった。

そんな彼を嘲笑うかのように立ちつくす一体の魔物。

元々適正階層ではないのに強行突入した挙句、ボロボロに返り討ちにあい、満身創痍になっていた。

「しまっ……」

 魔物の持つ棍棒のような大剣が勢いよくアレスに振り下ろされた。

あの日、生き残ってから彼は頑張っていた。

目的はある少女に振り向いて欲しいという可愛いものだったが、適正Cからここまで這い上がらせるには十分な動機だったのだが……。

(あぁ……、やっぱり無理をするもんじゃねぇな……)

 このまま終わると悟った彼は静かに目を瞑った。

せめて最後くらいはあの子の顔を思い浮かべながら……。

「アレス。大丈夫!」

「リセリナ!?」

 ガンッ!という音とともに欲望混じりの走馬灯はあっさり幕を下ろされた。

アレスの目の前に現れたのは灰色の制服にマントを身にまとった巨大な斧を持った桜色の髪の少女。

そう、リセリナだ。

「なんでこんなところに!?」

「そりゃあ、友だちがピンチみたいだから」

「べ、別にお前の助けなんて……」

「そう」

 リセリナは巨大な斧で魔物の武器を弾くと魔物は勢いよく倒れた。

「ふぅ……」とひと仕事終えたようなため息をつきながらアレスに歩み寄った。

「立てる?」

「ふん、別にお前の手助けなんていらねぇよ」

「そう、満身創痍でボロボロだった癖に」

「おまっ!?」

 そんな談笑で時間がとれたのか、回復した魔物が再び立ち上がった。

「やっぱりただ『構築』した武器じゃぁ、効かないよね」

「おい、リセリナ」

「大丈夫だよ、アレス。『制限解除』、出力10%」

 リセリナの簡易詠唱とともに手にした斧が青白い稲妻を放ちながら青銅色に染まっていく。

これが『今の』彼女が『安定』して出せる最低出力。

「よっ!」という掛け声とともに飛び上がり、巨大な青銅の斧を振り上げて魔物に叩きつけた。

「まだまだ。ブースト」

 ガンッと魔物は手持ちの武器でリセリナの斧を受け止める。

純粋な力な力は魔物の方が上である。

しかし、彼女の掛け声とともに巨大な青銅の斧は炎の尾をはためかせながら押していく。

「いっけーーー!!」

 バキッ、バキッ、と限界をむかえた魔物の武器は砕け散り、そして……討伐された。

「ふぃ……、終わった」

「リセリナ……お前……」

「リナ〜!」

「サクナ!?」

「おっと……、なんだアレスか。生きてたんだ」

「おいこら、生きてるに決まってるだろう」

「えぇ〜、愛しい人にあっさり助けれるような人が〜」

「あのなぁ……」

「アレス。大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ……」

「そう、良かった」

 優しく微笑むリセリナの笑みにアレスは照れくさそうに、誤魔化す仕草をしながら壁に頭を打ち付けた。

それを必死に止めようとする彼女を「まぁまぁ、面白いからいいじゃん」と猫を抱き抱えるように両腕で捕まえるサクナ。


 そんな青春が映し出される水晶を見る2人の教師。

「なんなんだこれは……。なんであの劣等生が……」

「少し前に、新入生を狙った事件があったね」

「あぁ、あの時は『世界樹の奇跡』が起きて、奇跡的に全員生存。原因と思われる魔人も撃退だったな……」

「そう、でもおかしいとは思わないか」

「何がだ……」

「後に判明するとはいえ、優秀な生徒たちのを一掃する魔人。教師や上級生が入れいないように作れた賢者級の結界。全滅してもおかしくなかった」

「あぁ、そうだな。『世界樹の奇跡』を起こした『ダアトの賢者』がいなければ……、まさか」

「そのまさかだよ」

「しかし……」

「君も知ってるだろ。奇跡の力と代償を」

「あぁ……、知ってる。世界を救える代わりに発動者を生贄にする高等……いや、それこそ本物の……、そうか」

「そう、彼女は……」

 世界樹を中心に天上の空を支えるように立ってる9柱の『賢者の塔』。

それと同じく世界樹を支える1柱の『賢者の塔』。

『ダアトの塔』。

これはそんな塔に選ばれた少年少女たちの『生きる』物語である。

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